家事サービスの法的制度化へ向けた対策

カテゴリー:労働法・働くルール非正規雇用

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  • 国別労働トピック:2016年3月

労働関係法令及び社会保障関係法令では、家事サービス(従事者)を「家事使用人」「家庭内雇用活動」等と表現し、その適用範囲から除外している。例えば、勤労基準法第11条第1項の但し書きは「同居する親族のみを使用する事業主または家事使用人に対しては適用しない」と記しており、また、最低賃金法第3条第1項の但し書きにも同様の表現が見られる。

女性の経済活動への参加の増加と急速な高齢化の進展、それに応じて、家事・介護サービスの需要が高まっている中で、家事サービスは依然として労働法や社会保険の保護の死角地帯に置かれた状態にあると言える。家事サービスを、今後どのように法的制度の枠組みに組み入れるか――。韓国労働研究院(KLI)はこれを、非公式化状態にある家事サービスの公式化と呼んでいる。以下、家事サービスの公式化に関するKLIのレポートの概要を紹介する。

家事サービスの公式化のための政府構想

現在、政府は「家事サービス利用と家事従事者雇用の促進に関する特別法(仮称)」の制定を推し進めている。この法律が制定された場合、政府から認証を受けた機関が雇用主となって家事サービス従事者を雇用し、利用契約を締結した家庭に家事サービスが提供されることになる。家事サービス従事者は、認証機関に雇用されることによって、特別法に基づき、休日、休暇等労働基準の権利及び社会保険関連の権利と保障を受けることになる。

政府の現構想は、家事サービスを利用する家庭と家事サービス従事者との間に形成される実質的な雇用関係自体を法的保護の枠組みに引き込もとするものではなく、認証機関という第三者が家事サービス従事者を雇用するという方式である。

元来、家事サービス従事者は仲介業者からの紹介を通じて利用家庭に出向いて働くという形態をとる場合が多いが、この仲介業者をサービス提供機関として認証し、転換させ、雇用主として家事労働者を直接雇用することにより、家事サービスを公式化しようとする方式である。この方式については、別の見方をするならば、家事サービスの利用者と家事サービス従事者との間には実質的な雇用関係が形成されるものの、いわば私的空間である家庭内にまで、国の規制と監督を適用していくことについては、時期尚早であるとの政府の判断によるものと解釈することも可能である。

政府構想の課題と提言

政府の推進する特別法によって、家事サービスが公式化された場合、サービス提供機関は社会保険料の負担をはじめとした労働者の管理に伴うコストを抱え込むことになる。これによってサービスの利用料金は引上げられる可能性が考えられる。政府は現在、バウチャー制度や税額控除等利用者をサポートする仕組みによって、引上げられるサービス料を補填する措置を取ろうとしている。

また現在、政府が進める公式化対策は、韓国の現実を考慮した段階的アプローチとなっている。すなわち、サービス提供機関を通じた公式雇用だけではなく、現状の仲介業者も許容しながら段階的な公式化の拡大を目指すものとなっている。一方でそれは、家事サービス価格の上昇を回避しようと考える利用者と社会保険料の負担を逃れようと考える家事サービス従事者との談合の余地を残し、また、仲介業者としても、サービス提供機関に転換せずに、そのままの形で残ろうとするところもあるかもしれない。結果として、非公式の家事サービス市場を存続させ、あるいはそれが大半を占めるという可能性もある。このような状況を防ぐには、利用者には大きな経済的インセンティブが、そして仲介業者にはサービス提供機関への転換を誘導するための強力なインセンティブが必要となるだろう。

家事サービスにおける雇用の非公式性を根本的に解決する方策としては、サービスの利用者と家事サービス従事者の両者の間の雇用関係にも、労働関係法を適用していくしかない。すなわち、家庭という私的な領域にまで労働監督や各種安全に関する規則を拡大していかざるを得ない。長期的にはこれを避けて通ることは難しく、現在の漸進的なアプローチに加え、雇用関係を全面的に拡大していく長期的な制度の改善を目指すためのロードマップを整備していく必要がある。

家事・育児サービス従事者の現状

統計庁の地域別雇用調査によれば、家事・育児サービス従事者は、金融危機の影響を受けた2009年、2010年は一時的に減少するが、2011年に増加に転じ、その後も継続的に増加し、2013年には27万人に達している(表1)。

表1:家事・育児ヘルパー 年度別雇用推移(全体及び女性2008年~2013年)
(単位:人、%)
  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
全体 255,845
(100.0)
220,126
(100.0)
194,801
(100.0)
202,394
(100.0)
264,665
(100.0)
270,103
(100.0)
女性 252,232
(98.6)
216,737
(98.5)
191,745
(98.4)
199,550
(98.6)
259,753
(98.1)
267,577
(99.1)
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)「労働レビュー」2015年11月号を基に作成。

男女比では女性の割合が98%を超えている。女性従事者について、雇用形態別の推移を見てみると表2のとおりである。

表2:家事・育児ヘルパー 年度別・従事上地位別推移(女性2008年~2013年)
(単位:人、%)
  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
常用職 6,619
(2.6)
10,578
(4.9)
7,854
(4.1)
6,711
(3.4)
9,932
(3.8)
12,014
(4.5)
臨時職 77,174
(30.8)
65,002
(30.3)
66,314
(34.6)
72,293
(36.2)
113,347
(43.6)
120,666
(45.1)
日用職 73,927
(29.1)
60,115
(27.7)
51,120
(26.7)
49,336
(24.7)
70,827
(27.3)
67,872
(25.4)
雇用主 1,523
(0.6)
2,258
(1.0)
1,068
(0.6)
680
(0.3)
656
(0.3)
252
(0.1)
自営業者 91,804
(36.5)
78,566
(36.3)
64,523
(33.7)
70,198
(35.2)
64,980
(25.0)
66,659
(24.9)
無給家族従事者 1,186
(0.5)
218
(0.1)
865
(0.5)
332
(0.2)
11
(0.0)
115
(0.0)
全体 252,232
(100.0)
216,737
(100.0)
191,745
(100.0)
199,550
(100.0)
259,753
(100.0)
267,577
(100.0)
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)「労働レビュー」2015年11月号を基に作成。

2009年までは、自営業者の割合が最も高かったが(2008年36.5%、2009年36.3%)、次第に低下し、2012年では25.0%と大きく低下している。すなわち、従事者と利用者が直接取引する形態から仲介業者を通じての紹介の形態に変わっていったという見方ができる。

家事・育児サービス従事者の賃金水準は、50万ウォンから150万ウォン(月額)を得る場合が7割を占め、所得水準は低いと言える。また、世帯構成を見ても、家事・育児サービスに従事する女性のうち、離婚または配偶者と死別している場合が4割を超えている。これは、相当数が生計維持の必要から労働市場で活動していることを意味する。

更に、韓国女性政策研究院の調査を基に、家事・育児サービス従事者の家計収入水準を見てみると、表3のとおりである。

表3:配偶者の有無及び就業の可否による家庭所得分布
(単位:人、%)
  中位所得の50%未満 中位所得の100%未満 中位所得の150%未満 中位所得の150%以上 全体
配偶者が賃金労働者 7,470
(8.5)
20,361
(23.2)
40,817
(46.5)
19,078
(21.8)
87,726
(43.4)
配偶者が自営業者 1,193
(8.4)
7,982
(56.3)
2,365
(16.7)
2,650
(18.7)
14,190
(7.0)
配偶者が失業 18,812.1
(61.6)
9,638.9
(31.6)
2,074.0
(6.8)

30,525.0
(15.1)
別居・死別等 30,072
(43.1)
11,742
(16.8)
28,009
(40.1)

69,823
(34.5)
全体 57,548
(28.5)
49,724
(24.6)
73,265
(36.2)
21,728
(10.7)
202,264
(100.0)
  • 出所:韓国労働研究院(KLI)「労働レビュー」2015年11月号を基に作成。原資料は2012年。

配偶者と別居・死別している場合の43.1%、配偶者が失業している場合が61.6%の世帯が中位所得の50%未満の貧困世帯にある。すなわち、家事・育児サービス従事者自身の賃金だけではなく、世帯収入レベルにおいても、彼女らは脆弱階層に属しており、保護の必要性が高いことを示している。

参考資料

  • 「労働レビュー」2015年11月号 韓国労働研究院(KLI)

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