韓国労働研究院(KLI)が2015年の雇用動向の概観と2016年の展望を報告
韓国労働研究院(KLI)が雇用動向について、2015年の概観と2016年の展望を報告している。2015年については、雇用の増加は30万人台前半に留まったものの、決して悪い数字ではないという見方もできるとしている。また、2016年については、女性と青年層の雇用の増加が鍵を握ると展望している。以下、KLIの報告の内容を要約して紹介する。
2015年の雇用動向の概観
2015年の韓国経済の各指標は、韓国が以前のような高い成長を今後も続けていくことが難しいことを示した。経済成長率は2%台に留まり、期待に反するものとなった。しかしながら、雇用面では、さほど悪くはなかったという見方も可能である。例えば、就業者数には30万人台前半の増加が見られたことである。これは、2014に記録した50万人台前半という大幅な増加に比べれば、2015年は30万人台前半に留まったと否定的な見方をすることもできるが、夏場に起こったMERS(マーズ)騒動の影響もあったこと等を勘案すれば、30万人の増加は悪い数字ではない。
2015年の雇用の増加は、主に50歳以上の年齢層に支えられた。少子高齢化が進む中で、雇用の増加を期待できるのはこの年齢層ということになる(表1)。出生率が近々に上昇していく可能性が低い中で、今後も50代の年齢層が数業者数の増加を主導する状況は続くであろう。
2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年(1~10月) | |
---|---|---|---|---|
全体 | 437 | 386 | 533 | 326 |
15~19歳 | 4 | -7 | 20 | -1 |
20代 | -40 | -44 | 56 | 62 |
20~24歳 | 89 | 29 | 81 | 65 |
25~29歳 | -129 | -73 | -25 | -3 |
30代 | -31 | -21 | -21 | -39 |
30~34歳 | 79 | 57 | 12 | -39 |
35~39歳 | -110 | -78 | -34 | -1 |
40代 | 11 | 22 | 38 | -15 |
50代 | 270 | 254 | 239 | 151 |
60歳以上 | 222 | 181 | 200 | 169 |
- 出所:韓国労働研究院「労働レビュー」(2015年12月号)を基に作成。
表2が示すとおり、30代、40代そして50代前半の男性の就業率はほぼ90%に達しており、人口減少の中、この年齢層の男性に、これ以上の就業率の伸びを期待することは難しい。一方、この年齢層の女性の雇用が伸びる余地は十分にあり、またそのようにしていかなければならないのであるが、現実にはキャリアブレークという壁が立ちはだかる。女性の就業率を見ると、近年、30代での増加は持続しているが、2015年は、30代後半で下落が見られる。
2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年(1~10月) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
全体 | 70.8 | 48.4 | 70.8 | 48.8 | 71.3 | 49.5 | 71.1 | 49.9 |
15~19歳 | 5.7 | 8.3 | 5.6 | 7.9 | 6.8 | 8.6 | 7.0 | 8.9 |
20代 | 57.3 | 58.8 | 55.7 | 57.8 | 55.8 | 50.0 | 56.4 | 59.3 |
20~24歳 | 39.1 | 48.9 | 38.1 | 47.5 | 39.3 | 49.5 | 40.9 | 50.8 |
25~29歳 | 70.4 | 68.0 | 69.6 | 68.1 | 69.4 | 68.8 | 69.3 | 68.3 |
30代 | 90.3 | 54.5 | 90.2 | 55.5 | 90.9 | 56.3 | 90.9 | 56.8 |
30~34歳 | 89.0 | 54.8 | 88.5 | 56.7 | 89.9 | 57.7 | 90.0 | 59.7 |
35~39歳 | 91.7 | 54.2 | 92.1 | 54.4 | 92.1 | 54.9 | 91.8 | 53.9 |
40代 | 91.7 | 64.6 | 92.0 | 64.6 | 92.7 | 65.1 | 92.2 | 65.6 |
50代 | 86.3 | 58.1 | 86.7 | 59.5 | 87.5 | 60.9 | 86.9 | 61.7 |
60歳以上 | 46.9 | 27.9 | 51.0 | 28.6 | 51.4 | 29.3 | 51.2 | 29.6 |
- 出所:韓国労働研究院「労働レビュー」(2015年12月号)を基に作成。
女性の再就職活性化やキャリアブレーク解消のための措置は講じられるようになったが、大きな効力は未だ現れていない。出産休暇や育児休業の取得にあたって、企業は人事上の困難を解決できていない現状にある。よって、この年齢層の女性の雇用増加を期待することは、当面難しいと思われる。
20代を見ると、2014年に続き、2015年もこの年齢層で雇用の増加が見られることが特徴的である。特に20代前半の就業者数の増加が大きい。これは1990年代はじめの出生率の一時的な増加(注1)によって、20代前半の人口が増加したことが大きな理由である。したがって、2016年以降は、20代前半の人口増加幅は減少し、20代後半の人口が増加していくことにより、青年層の雇用の増加は期待できる。
2016年の雇用動向の展望
ここ数年、産業指標と雇用指標の間に乖離が現れる傾向があるため、産業展望を基にした雇用展望が難しくなってきている。しかしながら、いくつかの要素に基づき推定すれば、2016年の雇用展望に好意的な見方をすることは難しい。
表3の産業別就業者数増減が示すように、製造業においては、低成長基調にも関わらず、雇用の堅調な上昇を続けてきたが、産業構造の変化や構造改革等の対応等を鑑みれば、雇用に及ぼす影響を肯定的に捉えることは難しく、堅調な雇用上昇がいつまで続くかは不透明である。
2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年(1~10月) | |
---|---|---|---|---|
就業者全体 | 436 | 386 | 533 | 326 |
民間部門 | 436 | 372 | 541 | 363 |
公共部門 | 0 | 14 | -8 | -37 |
農林漁業 | -14 | -8 | -68 | -109 |
建設業 | 22 | -19 | 42 | 36 |
製造業 | 14 | 79 | 146 | 154 |
サービス業 | 416 | 318 | 424 | 236 |
卸小売業 | 51 | -29 | 132 | 11 |
運輸業 | 48 | 34 | -6 | 2 |
飲食店業・宿泊業 | 53 | 64 | 127 | 82 |
出版・映像・放送等 | -3 | -8 | 22 | 57 |
金融・保険業 | -4 | 22 | -26 | -55 |
不動産・賃貸業 | 0 | -1 | 22 | 23 |
専門・科学業 | 67 | -6 | 3 | 17 |
事業施設管理等 | 30 | 57 | 7 | 69 |
公共行政・国防等 | 0 | 14 | -8 | -37 |
教育サービス業 | 58 | 4 | 59 | 11 |
保険・社会福祉等 | 88 | 155 | 139 | 79 |
芸術・スポーツ等 | -8 | -17 | 1 | 36 |
協会等 | 25 | 26 | -13 | -31 |
- 出所:韓国労働研究院「労働レビュー」(2015年12月号)を基に作成。
建設業では、2014年にプラス成長に転じ、2015年も好況を呈してきたが、就業者数については、2015年9月以降減少しはじめた。その原因についてはよくわからない。近年、急増している外国人建設労働者を統計的に捕捉することができない面があるのではないかとも思われる。建設業の好況は2016年も持続すると予想され、統計把握が確実なものとなるならば、この分野での雇用増加を肯定的に見ることもできる。
サービス業における雇用動向に関しても、景気展望と相当な乖離が見られる。例えば、プラス成長を見せる卸小売業では雇用の増加に伸びは見られず、マイナス成長であった飲食・宿泊業では雇用の増加は堅調で、サービス業分野での雇用増加を主導している。
産業構造の変化の中で、近年、雇用の増加を先導してきたサービス業のうち、いくつかの業種が2016年以降も引き続き増加の期待を担うことになるだろうが、卸小売業や飲食・宿泊業の成長には、消費者の購買力の上昇が必須となる。その意味でも、低い賃上げ率、正規職と非正規職の賃金格差等の問題を棚上げしておくことはできないであろう。
2016年の労働市場も2015年とほぼ同様の傾向が続くと思われる。相対的に雇用拡大の余地が大きい女性と青年層での増加があるか否かが雇用の増減を左右する可能性が高い。よって、労働市場の改善は、政府の雇用政策により創出される雇用の増加規模次第であると言えるであろう。
景気は2015年下半期以降、多少回復しており、2016年もこの傾向が続くとした場合、すなわち、韓国銀行の2016年の経済成長率の展望値(上半期3.3%、下半期3.0%)を前提とした場合、就業者数は、上半期で33万4000人、下半期で33万2000人、年間で33万8000人の増加と展望できる。失業率は前年比0.2ポイント減の3.5%、就業率は60.3%となり、前年からほぼ横ばいの傾向となると展望できる(表4)。
2015年 | 2016年 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
上半期 | 下半期(予測値) | 年間(予測値) | 上半期(予測値) | 下半期(予測値) | 年間(予測値) | |
経済成長率 | 2.3 | 3.0 | 2.7 | 3.3 | 3.0 | 3.2 |
15歳以上人口 | 42,901 | 43,146 | 43,023 | 43,419 | 43,652 | 43,535 |
経済活動人口 | 26,748 | 27,074 | 26,911 | 27,083 | 27,376 | 27,229 |
経済活動参加率 | 62.3 | 62.7 | 62.5 | 62.4 | 62.7 | 62.5 |
就業者 | 25,683 | 26,169 | 25,926 | 26,026 | 26,501 | 26,623 |
増加率 | 1.3 | 1.2 | 1.3 | 1.3 | 1.3 | 1.3 |
増加数(前年比) | 331 | 322 | 326 | 344 | 332 | 338 |
就業率 | 59.9 | 60.7 | 60.3 | 59.9 | 60.7 | 60.3 |
失業者 | 1,066 | 905 | 985 | 1,057 | 875 | 966 |
失業率 | 4.0 | 3.3 | 3.7 | 3.9 | 3.2 | 3.5 |
非経済活動人口 | 16,153 | 16,072 | 16,112 | 16,335 | 16,276 | 16,306 |
- 出所:韓国労働研究院「労働レビュー」(2015年12月号)を基に作成。
注
- 1995年から1963年生まれのベビーブーム世代の二世。(本文へ)
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