OECDが報告書『格差縮小に向けて』を公表
―教育訓練拡充による非典型労働者支援と女性の労働市場参入促進を提言

カテゴリ−:人材育成・職業能力開発非正規雇用

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  • 国別労働トピック:2015年8月

経済協力開発機構(OECD)は、新興諸国を中心に拡大しつつある所得格差が経済成長を妨げるとして、格差を縮小するための政策をとりまとめた報告書を公表した。OECD加盟34カ国を対象とした所得格差は、人口の上位10%の富裕層と下位10%の貧困層の所得格差は9.6倍で、この数字は1980年代の7倍から、2000年代の9倍へと拡大し、今回の調査時点である2013年に更に拡大した。

女性の職場進出と技能向上のための施策

これまで、OECDは、2014年12月に公表した調査結果において、所得格差が拡大することによって、経済成長は低下することを示していた(注1)

1985年から2005年にかけての格差変動の数値とその後の累積的成長(1990年~2010年)に対する影響を推計した。ジニ係数が示すOECD諸国における所得格差の上昇幅が過去20年間の平均で3ポイントであったが、その後の経済成長率は25年間にわたり毎年0.35%ずつ押し下げられ、累積的なGDP減少率は25年間で8.5%となる。

所得格差が経済成長率を押し下げる要因には、貧困層ほど教育への投資が落ち込むことがある。所得格差が拡大するにつれ、低学歴の両親を持つ個人は、知識や技能の水準が悪化する(注2)

経済成長を持続させるためには、こうした状況下にある下位40%の所得層を対象とする政策の実施が不可欠である。貧困防止対策や所得の再分配、質の高い学校教育や職業訓練、公共サービスの拡充、機会均等化を進めるための長期的な社会的投資が必要であるとOECDは指摘していた。

今回公表した報告書では、教育を受ける機会が失われることへの経済成長率に対する悪影響に加えて、パートタイム労働者や有期契約労働者、派遣、請負といった非典型労働者の増加をあげている。こうした労働者の所得は、常用雇用のようないわゆる典型労働者と比較して低い。非典型労働の増加は雇用機会が創出されているというプラスの面がある一方で、所得格差拡大にマイナスの影響を与えているとする。

このような分析のもとで、所得格差拡大を解消して経済成長率を向上させるために、各国の政策立案者が次の4つの政策パッケージを実施することを提言している。

  1. 女性の労働市場参入
  2. 継続的なキャリア形成が実現できる質の高い雇用の創出
  3. 生涯にわたってスキルを向上していけるような教育訓練の場の整備
  4. 所得の移転と再分配の制度の確立

米英日がOECD平均より格差が大

次に、各国の所得格差の状況をみてみよう。OECDは『格差縮小に向けて(In It Together: Why Less Inequality Benefits All)』と題した報告書を公表し、過去30年で所得格差が最大になっていると指摘している。

主要各国の所得格差を所得上位10%と下位10%の差異という観点で比較してみると、日本が10.7倍(2009年)、イギリスが10.5倍(2012年)、フランスが7.4倍(2012年)、ドイツが6.6倍(2012年)、アメリカが18.8倍(2013年)となっている。OECD平均(9.6倍)との比較では、アメリカ、イギリス、日本が平均よりも格差が大きく、ドイツ、フランスは小さい。スウェーデン、デンマークはさらに格差が小さいということがわかる(図表1参照)。

図表1:主要各国の所得格差の推移(2007年~2013年)

図表1のグラフ

出所:OECD所得分布データベース(IDD)より作成。

所得や資産の偏在具合をみる指標であるジニ係数による比較でも同じような傾向が見られる。ジニ係数は0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きいと解釈される。それによれば、アメリカが0.4(2013年)で主要国の中ではもっとも1に近い水準にある。次いでイギリスの0.35(2012年)、日本の0.34(2009年)である。OECD諸国平均が0.32(2012年)で、フランスが0.31(2012年)、ドイツが0.29(2012年)となっている。ちなみに、スウェーデンが0.27(2012年)、デンマークが0.25(2012年)である(図表2参照)。

図表2:主要各国のジニ係数

図表2のグラフ

出所:OECD所得分布データベース(IDD)より作成。

各国分析と政策提言

報告書は国別の分析と政策提言を行っているが、本稿では、日本、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカの概要を紹介する。

日本 —パートタイム労働者の社会保険適用条件の改革を

日本については、失業者や子供のいる家庭に対する公的給付などの政策が評価された一方、税や給付による所得再分配の取り組みがOECD諸国と比較して進んでいないことが指摘された(注3)。非典型労働に関しては、正社員などの典型労働者よりも賃金が低く、女性の占める割合が多いことが指摘された。

所得格差を縮めるためには、パートタイム労働者(注4)の健康保険や年金などの社会保険加入の拡大や正社員転換を促す施策の必要性を指摘している。具体的には、法令遵守させるための仕組みづくりや、正社員転換に必要な教育訓練機会の創出、企業内での昇進の基準となる日本版職業能力評価制度の構築や、女性の就業率を高めるための政策実施を提言している。

イギリス —税制改革による育児支援とユニバーサル・クレジットの改革を

イギリスは景気回復による雇用創出によって失業率が他国に比べて低い水準にある。しかし、その一方で、新規雇用創出は独立自営かパートタイム労働に集中している(注5)。非典型労働は所得が著しく低いが、無期フルタイム労働への転換の機会は増えていない。そのため、非典型労働の増加が格差や貧困の増加の一因だと考えられる。税・給付などの所得再分配によって貧困削減には一定の効果がみられるが、現行の税・給付制度はパートタイムからフルタイムへの転換に対する阻害要因となっており、非典型労働者の貧困率は高止まりしている。

加えて、2007年以降の税・給付制度改革は、所得の再分配機能が低下している傾向がみられる。所得中位層は税引き後の所得が増えたが、子を持たない低所得失業者と高所得者の所得は減少した。
直近20年間にみる女性就業率と男女間賃金格差には変化がみられないことも課題として指摘されている。

したがって、イギリスについては、女性の就業率向上と、男女間賃金格差を縮小する政策が有効だとする。具体的には、女性の就労意欲をひきだすための税制度のあり方や育児支援といった政策を提案している。
低所得者向け給付制度であるユニバーサル・クレジットがもたらす所得再分配や低所得労働者の就労意欲を高めることによる効果がどれほどであるか検証する必要があるとともに、不動産などの資産に対する税率を高めるといった政策を提案している。

ドイツ —ミニジョブ就労者の社会保険適用条件の見直しを

ドイツでは、所得格差が2000年代前半期に著しく拡大した(注6)。所得上位10%と下位10%の差異は6.6倍になっており、1980年代の5倍、1990年代の6倍から拡大傾向がみられる。

ドイツは、他のOECD諸国と比較して、失業率が低いものの、貧困の緩和という点で、各種の政策による所得再分配の効果が不十分であると指摘された。
ドイツでは、2013年の非典型労働者の割合は約40%である。その割合が大きく伸びたのは、1995年から2007年にかけてのことである。この間に非典型労働が13%増加したのに対して、典型労働が8%減少した。同時期のOECD諸国では、非典型労働7%と増加している一方で、典型労働も同様に10%増加したことと比べれば、違いは明らかである。

その理由は、ミニジョブが560万人から770万人に増加したことによると考えられる。テンポラリー労働者の所得は典型労働者の56%程度と、他のOECD諸国と同じような問題を抱えている。

改善策として、女性がフルタイム労働に就くことを促す税制度改革や育児支援、初等教育の質の向上、貧困状態にある若年者を対象とした中等教育就学や職業訓練機会の創出、ミニジョブ就労者への社会保険の適用拡大、相続税改革などが提案されている。

フランス —女性非正規労働者の低い所得

フランスの所得格差はOECD諸国平均とほぼ同等の水準であるが、2007年から2013年の間について見れば、多くのOECD諸国に比べて格差拡大の幅が大きい(注7)。典型雇用労働者と非典型労働者の所得差は40%程度である。1995年から2007年の間の雇用創出のうち半数が非典型であるというように、非典型労働者の数が増え続けている。そのうち、女性が63%を占めており、OECD諸国平均55%と比べれば大きくなっている。

男女間の賃金は、女性が男性よりも14%低く改善の余地があると指摘されている。 非典型労働からフルタイム雇用に転換することで所得格差を縮小する可能性があるが、フランスはその割合が高くない(注8)

一方、税制度による所得格差縮小の効果は確認できるとする。2009年の税制度改革で、中所得及び低所得世帯の所得は純増している。

アメリカ —ETIC等税による低所得者政策の実施を

アメリカの所得格差は高い水準にあり、しかも近年拡大する傾向にある(注9)。2013年の上位10%と下位10%の所得格差は約19倍だった。この数字は、80年代の11倍、90年代の12.5倍から拡大を続けている。2008年から2013年までの間に、所得下位10%の家計所得が3.2%減少したのに対して、上位10%は11%増加したように、内訳をみれば、上位の所得が増えているだけでなく、下位の所得が減少している。その傾向は、最近30年間の家計所得の変化をみれば明らかであり、下位10%が1985年から3.3%下がったのに対して、上位10%は24%増えている。

所得格差縮小に関する施策については、給付付き勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit:EITC)のような制度が、失業者を就労に促す効果があるとして評価している。 だが、アメリカの税・給付制度には、フルタイム労働へ転換させる効果が弱いと指摘している。そのため、就労支援だけでなく、高額所得者に対する所得税率の引き上げや資本・資産に対する課税強化、社会資本への投資を通じた機会均等や低所得者層の所得引き上げといった政策の実施を提案している。

参考資料

(ホームページの最終閲覧:2015年7月21日)

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