報告書「成長に向けて」を発表
―日本の課題は女性の就業率向上

カテゴリ−:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2014年3月

OECD(経済協力開発機構)は「成長に向けて(Going for Growth)」と題する報告書を発表した。各国が持続可能な成長を取り戻すには、包括的な構造改革が必要と指摘。雇用分野では、欧州危機を受けて上昇した欧州各国の失業率が低下しつつあるものの、南欧を中心に長期失業率は依然として高止まりしており、求職支援・職業訓練の強化を求めている。日本に対しては、子育て支援の拡充などによる女性の就業率向上の促進が、今後の経済成長および格差縮小に繋がると指摘している。

経済成長のためには改革が不可欠

報告書によれば、先進国の経済成長のポテンシャルは、近年の経済危機によって揺らいでいる一方で新興国では成長が鈍化しつつある。特にオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、スイスにおいては知識集約型産業や高等教育に多額の投資をしているにもかかわらず、生産性の伸びが鈍化している。こうした状況から抜け出すために、各国は様々な政策において改革をする必要がある。特に財政支援プログラムの管理下にある一部欧州諸国では、その必要性が高い。具体的には、公的セクターにおける効率性の向上、学校教育の改善、製品市場における規制緩和などが、生産性を向上させるとしている。

労働政策分野でも求められる改革

労働政策分野では、早期退職制度、所得補助制度、求職者支援、解雇規制などの分野における改革が重要としている。また新興国では、フォーマル雇用の増加が優先的な政策課題である。欧州地域においては、失業率の高止まりが改善しつつあるものの、南欧・中欧地域においては長期失業者の割合が依然として高い水準にある(図表1)。南欧地域においては、既に実施している製品市場での改革をより強化することが、近年の労働市場改革の効果の向上にも寄与する。

  • 注:1年以上の失業者が対象。イスラエルの2013年値は2012年の値。
  • 出所:OECD

7グループに分類して課題、強みを指摘

報告書はOECDに加盟する34の国にBRICs、インドネシアを加えた39の国を7つのグループに分類し、それぞれの「課題」と「強み」を指摘している。日本はドイツ・韓国と同じ「グループ6」に属している。

グループ6の3カ国は先の世界的な景気後退から『隔離』されており、(日本では東日本大震災という事象が発生したものの)経済状況はその他の国と比して好調である。

グループ6の課題としては「高齢化」、「低い女性の就業率」、「サービス産業の低い生産性」が指摘されている。一方で強みとしては、「(男女計での)高い就業率」、「資本財を含む輸出産業の強さ」が指摘されている(図表2)。

上記の課題に対する対策としては、「失業保険給付と積極的労働市場政策の統合および改善」と「女性の労働市場への参加促進」が挙げられている。前者を実行するためには、「社会保険の非常用労働者への適用拡張」、「非常用労働者に対する職業訓練の拡充」が重要である。後者については、「税制等での共働きの不利益の改善」、「子育て支援の促進」、「雇用規制改革による労働市場の二重構造対策」が重要となる。上記の5項目において、日本は韓国同様に全項目が課題である(図表3)。このうち過去2年で、日本で対策がとられたのは「社会保険の非常用労働者への適用拡張」に留まっている。

  • 出所:OECD
  • 出所:OECD
  • 注:RはOECDによる政策の推薦(Recommendation)、Aは過去2年での政策実行(Action)の有無

日本は待機児童解消と社会保険の拡張適用を

高齢化は先進国共通の傾向であるが、日本は特にその速度が速い。2040年までに生産年齢人口は40%減少する。そうした中で、女性の就業率向上は重要である。日本においては、教育レベルが高いにもかかわらず労働市場に参加していない女性が多いため、技能労働者の潜在的な供給ポレンシャルは高い。いわゆるアベノミクスでは待機児童問題の2017年までの解消が掲げられているが、これは女性の就労を促進する。非常用労働者に対しては、2016年からの社会保険の拡張適用が予定されているが、彼らの企業内訓練の受講率の低さなどは引き続きの課題である。

待機児童解消と社会保険の適用拡張は、短期的にみると財政赤字への更なる負担となり得るが、長期的には男女間あるいは常用・非常用労働者間の所得格差の是正に寄与する。

参考資料

  • Going for Growth, Interim Report 2014, OECD

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