女性の社会進出で、経済成長後押しを
―対日審査報告書を発表

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年5月

経済協力開発機構(OECD)は4月、対日審査報告書を公表した。労働・社会福祉分野等では、経済成長のためには女性の社会進出が重要であるとして、ワーク・ライフ・バランスの実現などの政策を提言した。また格差是正策としては、労働市場・税制・教育のそれぞれの分野で改革が必要であるとした。

失業率の見通し「緩やかに低下」

報告書は2014年までの日本経済の短期的見通しとして、GDPは緩やかに成長し、それと共に失業率は緩やかに低下すると予測している(表)。また長期的な人口動態の見通しとして、急速な高齢化が進み、2009年時点で2.8であった高齢者に対する生産年齢人口の比率は、2050年には1.3まで低下すると予測している。その結果として生じる労働力不足に対しては、外国人労働者の入国促進がその問題を緩和し得るものの、それ以上の優先事項として、女性・高齢者・若年者という人的資源の最大限の活用が重要としている。

表:短期経済見通し
  2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
GDP成長率 4.7 -0.6 2.0 1.4 1.4
失業率 5.0 4.6 4.3 4.2 4.1
  • 出所:OECD
  • 注:2012年以前は実績値、2013年以降は予測値。

格差や貧困の状況については、ジニ係数で見るとOECD平均をやや上回る程度であるものの、相対的貧困率ではOECD平均を大きく上回り、上から6番目の高い値を示している(図1、図2)。

図1:ジニ係数の各国比較

図1:ジニ係数の各国比較 (各国の値は2000年代後半の値)

  • 出所:OECD
  • 注:各国の値は2000年代後半の値。

図2:相対的貧困率の各国比較(単位:%)

図2:相対的貧困率の各国比較(単位:%)(各国の値は2000年代後半の値)

  • 出所:OECD
  • 注:各国の値は2000年代後半の値。

ワーク・ライフ・バランス政策を提言

今後の日本経済の成長のためには、女性の社会進出が特に重要であると報告書は指摘している。具体的には、共働きでの就労インセンティブを減少させる税制度・社会保険制度の見直し、労働時間の削減等によるワーク・ライフ・バランスの実現、利用料が手頃でかつ質の高い保育所を利用しやすくすること等が必要であるとしている。

それ以外の分野では、非正規労働者への社会保険適用範囲の拡大、労働市場二極化の是正、高齢労働者の柔軟な働き方の促進、若年者が労働市場で求められる技能を身につけるためのジョブ・カードの普及による訓練の促進、企業に認知される職業能力評価制度の創設を通じた職業訓練の改善等を挙げている。

税制面では再分配政策の強化を

格差是正のためには、労働市場・税制・教育の3分野で改革が必要と指摘している。

労働市場では、現状の二極化した労働市場は、各種の問題を抱えている。すなわち、正規労働者、非正規労働者間の賃金格差、非正規労働者に対する企業内訓練の少なさ、失業保険の適用範囲の狭さ、そして正規・非正規労働者間の流動性の低さなどである。こうした問題への対応策としては、社会保険の適用範囲の拡大、非正規労働者に対する職業訓練の機会の拡充、使用者側が非正規労働者を雇用することに対するインセンティブの逓減等の政策を、包括的に実施することが重要としている。

税制では、再配分効果の強化が重要である。税制・社会保険制度による所得格差の是正効果は、ジニ係数で見ても相対的貧困率で見ても、日本はOECD平均を下回っている。日本はOECD加盟国の中で、就労者のいる世帯や子どもがいる世帯が税制・社会保険制度での再配分後に、貧困率が高まる唯一の国である。また就労する1人親世帯の相対的貧困率は約60%とOECD加盟国中最も高く、貧困が世代を超えて受け継がれる恐れが生じている。

こうした各問題に対して報告書は、まず生活保護制度において、現状の資産査定や扶養可能な親族の有無といった受給要件が、受給を必要とする人々への支援の妨げにならないことが重要であるとしている。また生活困窮者への支援については、厚生労働省が2012年に策定した「生活支援戦略」を高く評価した上で、よりいっそうの求職者支援制度と生活保護制度の連携が求められるとしている。また就労促進・低所得者支援のために、勤労所得税額控除(EITC)の導入を提唱している。そしてEITC導入の際は、効果的な労働市場活性化施策と、自営業者の所得の透明性確保のために税制・社会保険制度における共通番号制度の導入を同時に実施する必要があるとしている。

教育分野では、民間企業による課外授業、いわゆる塾への依存を問題視している。塾への支出額は、世帯の所得が大きな要因になっているため、それが結果として子どもの将来的な雇用や所得を決める要素となりえている。このような状況を改善するには、学校教育の質の向上、あるいは韓国のように学校で安価な課外授業を提供する等、低所得世帯も同等の機会を享受できることが重要であるとしている。また高等教育機関における授業料負担を軽減するために、貸与型の奨学金制度の拡充も提案している。

付表:2011年対日審査報告書での提言と政策の実施・提案状況
2011年対日審査報告書における
OECDからの提言
日本政府によって実施
あるいは提案された政策
労働市場二極化の是正  
非正規労働者を雇用するコスト面でのメリット削減および非正規労働者への保障を促進するための、社会保険制度の適用範囲の拡大。 2012年に法改正が行われ、2016年よりパートタイム労働者における年金制度の適用範囲が拡大される。
非正規労働者の人的資源、雇用価値の向上と、彼らが正規労働者に転換することを促進するために、職業訓練やキャリアコンサルテーションの機会を増やす。それによって、日本経済の成長可能性を向上させる。 2011年度、約5万1000人の失業保険を給付できない失業者が、現在の求職者支援制度にあたるプログラムに参加した。
2012年度の法改正により、有期契約が5年を超えた場合、労働者から申し出があれば、無期契約に転換できるものとなった。
非正規労働者に対する差別の防止 2012年度に労働者派遣法が改正されて、派遣元はマージン率を公開する義務を負った。
また同年度に労働契約法が改正され、有期雇用であることを理由とする不合理な労働契約が禁止された。
企業が非正規労働者の雇用を増加させなくとも柔軟に適切な雇用を確保できるように、正規労働者に対する雇用保護を緩和する。 なし
全体の雇用量を減らす恐れのある短期間の派遣労働への法的制限。 2012年度に労働者派遣法が改正され、31日未満の派遣労働が原則として禁止された。
女性・高齢者・若年の労働市場参加促進  
共働きでの就労インセンティブを減少させる税制・社会保険制度の見直し。 2012年に法改正が行われ、2016年よりパートタイム労働者における年金制度の適用範囲が拡大される。
育児休業制度、介護休業制度の拡充を含むワーク・ライフ・バランスの促進。 2012年7月に育児・介護休業法が改正され、短時間勤務制度、介護休暇制度などの適用対象が従業員100人以下の企業を含む全企業に拡大された。
就労のインセンティブを弱めないよう、手ごろな利用料で質の高い保育所を充実させる。 引き上げが計画されている消費税を財源として、7000億円を幼児教育・保育分野に追加で投入することを政府が計画している。
60歳での定年退職の廃止を含む、高齢の労働者の柔軟な雇用体系・賃金体系の促進。 2012年度の労働法改正により、柔軟性については減少したものの、企業は就業の継続を希望する全ての者を65歳まで雇用する義務を負った。また政府は高齢労働者の就業機会を拡大する企業に対し、補助金を支給するとした。
ジョブ・カード等を通じて、若年者が労働市場で必要とされるスキルを身につけることが出来るように、座学とオン・ザジョブトレーニングを組み合わせた実用的な訓練を強化する。 雇用型訓練に2011年度は約1万1000人が参加し、2012年1月までにそのうちの約8600人が正規雇用の職に就いた。
効果的な職業訓練を可能にするために、能力評価制度を発展・促進する。 なし

出所:OECD

参考資料

  • 『OECD Economic Surveys: Japan 2013』, OECD

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