移民流入、減少傾向から反転
―12年版の国際移民アウトルックを発表―

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2012年8月

経済協力開発機構(OECD)は6月、2012年版の国際移民アウトルックを発表した。減少傾向にあったOECD諸国への移民の流入数は、2011年に入り反転し、増加する兆候が見られる。アジア諸国からの高度人材の移民の増加が目立っている。しかし、アジア諸国は経済成長が著しく自国の賃金水準も上昇しているため、報告書は、この傾向が続くか否か不明だ、としている。

議長「世界の動きがいま欧州で」

報告所の公表にあたり、OECDのグリア議長は近年の移民の動きについて「今後起こりえる世界の移民の動きが、今まさに欧州で起きている。EUは、移民を含む国際的な経済活動における主要な触媒の一つだ」とコメントした。またアジアからの移民について、「アジアからの移民のプレゼンスはここ10年で上昇した。しかしこれらのアジア諸国では今後の自国の経済成長もあり、高度人材の流出を抑える政策を実施している。もしOECD諸国がこれらの国の高度人材に今後も頼りたいのならば、彼ら高熟練技能者や留学生にとって魅力的な政策を実施しなければならない」とコメントした。

金融危機により移民の状況はより厳しく

OECD諸国への移民流入数は、いまの統計の方法にした2007年の452万人から一貫して減少し、2010年は385万人だった。移民の流入は国別にみると、順に中国、ルーマニア、インド、ポーランド、フィリピンからの流入が多い(表)。2011年に入ってからは各国への移民の流入は反転し増加の兆候が見られる(注1)。特に増えた国はアイルランド・ドイツ・ルクセンブルク・チリ・オーストリア。身分は留学生が多い。特にアジアからの者が多く、中国とインドで4分の1を占める。欧州での経済危機に伴いアイルランド・スペイン・ギリシャ・イタリアからの移民が増加しているとの見方も出ていたが、報告書はその増加率は緩やかなものにとどまっていると指摘している。また、「アラブの春」によりアフリカからEU諸国への移民は2011年前半に激増した。しかし同年の後半には、2010年と同じかそれをやや上回る水準にまで低下している。

表:各国・各地域からOECD諸国への移民の流入数(単位:千人)
  2000年 2005年 2009年 2010年
国別
中国 282 438 460 508
ルーマニア 88 212 276 289
インド 113 212 227 252
ポーランド 104 264 220 223
フィリピン 165 191 163 167
地域別
アフリカ 329 496 546 515
アメリカ 809 979 970 925
アジア 1169 1562 1677 1823
ヨーロッパ 1189 1609 1686 1759
オセアニア 89 80 81 76
  • 出所:OECD
  • (注)地域別の値には、OECD諸国間での移民の移動も含まれる。

金融危機から3年以上が経過しているにもかかわらず、各国の雇用市場の回復が未だ道半ばであり、特に欧州は厳しい状況だ。そしてその影響は、自国民以上に移民に対して強く表れている。多くのOECD加盟国で、失業率は国内労働者よりも移民の背景を持つ労働者のほうが高い傾向にある。また、失業率には表れてこないニートの割合もこれら移民労働者の方が高い傾向にある。ただしこれには国ごとの違いもあり、ギリシャやイタリアでは、移民全体に占めるニートの割合は、自国民のその割合の約2倍であるのに対し、スペインやイタリアでは両者に大きな差は見られない。

また金融危機は失業率やニートの状態にある移民を増加させただけでなく、移民の雇用の質にも影響を与えた。移民は国内労働者よりも仕事に就くことが困難であり、仮に仕事に就けたとしても、一時的な仕事に就く傾向にある。言語能力やソーシャルネットワーク、ITリテラシーの点でネイティブに劣る移民は、一時的な仕事を選択せざるを得ない状況にある。

移民の受け入れに対する各国の政策は、金融危機の影響もありいくつかの国ではより制限的な政策になった。またいくつかの国では、政権交代が移民政策に影響を与えている。2010-11年の各国の政策を概観すると、総じて労働移民への政策はより選別的となり、家族移民・人道的な移民への政策はより制限的となった。

女性と高学歴者多いアジアからの移民

アジアからOECD諸国への移民は増加傾向にある。2000年は105万人で、移民全体に占める割合も27.3%であったが、2010年は165万人まで増加し、割合も31.3%に達している。その増加分のほとんどは中国・インドからの移民の増加によるものである。

アジアからの移民の特徴として、女性比率と教育水準が高い点が挙げられる。移民の男女比は、アジア以外の国からの場合にはほぼ同じなのに対し、アジア諸国(日本、韓国を除く)からでは47対53の構成となっている。移民に占める高学歴者の占める比率を比較すると、アジア諸国とそれ以外では2倍近い開きがある。アジアからの移民の教育水準の高さは、労働市場でも結果として表れている。OECD諸国での移民の就業率はアジア以外からの移民が58%であるのに対して、アジアからの移民は62%だ。

アジアからの移民は増加傾向にあり、かつ高い技能を持つ者が多いが、彼らがいつまでもOECD諸国に流入するわけではない。中国・インドをはじめとするアジア各国は現在急速に経済成長しており、賃金も上昇傾向にある。そのことが彼らを自国に留まらせるインセンティブを高めている。

また各国は自国の高度な人材を、自国に留まらせる政策を実施しつつある。マレーシア、中国、インド、フィリピン、シンガポールは外国での収入に一部減税・免税を認めることにより、海外で働く自国の高度人材に帰国を促している。中国は海外に留学した自国の人材に対して、住居や家族の面で支援をすることで帰国を促している。シンガポールは海外の大学で学ぶ医学生に、将来の帰国などを条件に奨学金を付与している。

高齢化による労働力不足、移民での対応策に疑問も

OECD諸国は人口高齢化に伴い労働力人口の減少に直面しつつある。第2次世界大戦後のベビーブーム世代は各国で続々と労働市場から退出しつつあり、既にほぼ半分が退出している。しかし、労働力人口の減少に対しては、単純に移民の受け入れを持って対処すればよいわけではない。OECD諸国で、成長職種へ新規参入した労働者のなかで移民の占める割合は16%なのに対し、衰退職種ではその割合は26%に跳ね上がる。つまり、非計画的な移民の受け入れは、産業構造の転換を阻害する可能性がある。その一方で、自国民の労働市場への新規参入者数が退出者数を上回っているからといって、移民を受け入れる必要がないわけではない。新規参入者の技能レベルや職種が、必ずしも需要に応えていないからだ。

また人口動態が著しく変化している国や経済が縮小化しつつある国では、移民の受け入れについて議論する際に産業構造の転換の必要性が無視される傾向にある。その結果、必要な産業構造の転換を実施できなくなる恐れがあり、この点にも注意を要する。

参考資料

  • International Migration Outlook 2012

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