アフリカ経済報告書を発表
―若年雇用の促進が焦点
経済協力開発機構(OECD)は5月、アフリカ開発銀行などと共同で「2012年アフリカ経済報告書-若年雇用の促進」を公表した。21世紀に入りアフリカは世界トップの経済成長率を実現しているにもかかわらず、創出された雇用は少量かつ脆弱で、特に若者は60%が失業していると報告書は指摘している。
高水準の経済成長、持続の見通し
OECDがアフリカ開発銀行、国連開発計画、アフリカ経済委員会と共同で公表した報告書は「2012年アフリカ経済報告書-若年雇用の促進」。報告書は毎年公表されているが、年によってテーマが異なる(2011年版では「アフリカと新興国のパートナー」、2010年版では「公的資源の動員と援助」が副題)。本年は若年雇用に焦点をあて、その現状および今後各国に求められる政策について報告している。
21世紀に入り、アフリカ経済は急成長しており、2000年から2010年までの間に、最も成長した上位10カ国の内、実に6カ国がアフリカの国であった。2011年のアフリカ経済の成長率は3.4%で、「アラブの春」による混乱もあり2010年の5%からは低下したものの、それでも高い成長率を達成した。2012年、2013年についてもそれぞれ4.5%、4.8%と引き続き高水準の成長を持続すると予想される。
今後の短期的な不安要素としては、欧州経済の不透明性と資源価格の下落が挙げられる。欧州経済が更なる悪化に見舞われれば、アフリカの輸出産業および観光産業等はその影響を避けられないだろう。さらにはアフリカへの公的援助や直接投資の減少、出稼ぎ労働者からの送金の縮小なども懸念材料となっている。資源価格については、需要の減少および供給の増加による価格下落リスクがあり、資源に依存する国にとっては不安要素となっている。
高所得の国ほどニート増加の傾向
人口の若年(15~24歳)比率が高いアフリカでは、約2億人の若者に対してどのような雇用政策を採るかが、今後の雇用状況の改善ひいては経済発展の要となる。若年の失業率はどの国でも壮年(25~64歳)を上回る傾向にあるが、中には3倍以上の国も存在する(図1)。特にこの傾向は北アフリカの中所得国に顕著で、例えばエジプト(2007年値)では壮年の失業率が4%に留まっている一方で、若年の失業率は25%と実に6倍以上になっている。
図1:若年と壮年の失業率(単位:%)
- 出所:ILO
- 注:2001年から2010年の値。年は国・地域により異なる。
中所得国と低所得国では、若年労働市場の状況は全く異なる。図2は各国の1人あたりGDPと通学をしていない若年の雇用状況を表している。アルジェリアや南アフリカのような中所得国では、賃金の得られるフォーマルな雇用に就く者とニートが高い割合を占めている。一方、低所得国ではインフォーマルな職に就くものがほとんどで、彼らは不安定な立場にある。リベリアやシエラレオネにいたっては、フォーマルな雇用に就く若年は5%もいない。
図2:通学していない若年の状態と1人あたりGDP
- 出所:Gallup World Poll (2010)を基に作成。
- 注:1人あたりGDPは2005年の購買力平価基準。各国の値は2008~10年の平均値。
こうした中所得国と低所得国とでの状況の違いは、ある仮説を持って説明できる。例えば働くことが可能ではあるものの、働くとすればインフォーマルな雇用を強いられるとき、失業するのは自発的にそれを選択した者であり、これは生活に余裕のある者がする行為だといえる。生活に困窮して選択の余地がないものは働かざるをえない。つまりこの状況下では、比較的裕福な者だけが失業する。ただしこの仮説は、労働市場に十分な量の仕事が存在しているときにのみ成り立つ。仮に労働市場において供給が需要を上回るときは、非自発的な失業が存在するので、望ましくない状態だ。
つまりこの仮定のもとでは、裕福な者にだけ選択の権利がある。裕福な家庭の若者は両親などの支援を受けている。彼らは今すぐインフォーマルな仕事に就くのか、あるいはもう少し良質な職を探すのか、あるいは教育を受けて人的資源に投資をするのかを選択できるのだ。この場合、失業とは裕福な者だけの問題であって、生活に困窮している若者にとって、失業は問題になりえない。
この仮定に基づくと中所得国と低所得国の状況の違いを理解できる。つまり低所得国でインフォーマルな労働をするものが多くニートが少ないのは、そうせざるをえないからだ。一方でチュニジアやエジプトのような中所得国でニートが多いのは、それだけ生活に余裕があると考えられる。そのため中所得国での失業やニートの状態は、労働需要が供給を上回っている状況のもとでなら、必ずしも悪い状況とは言えない。こうした状況は結果として、裕福な若者とそうでない若者との間に格差を生み出す可能性を生じさせている。
女性差別、ミスマッチなど問題山積
アフリカの雇用を巡る諸問題は、女性差別、ミスマッチなど様々な分野で複合的に生じている。
女性の社会進出が進み、「労働市場のフェミニズム化」は世界中で進んでいる。しかしアフリカのいくつかの国では未だに女性の労働市場が困難な状況にある。こうした国では、認定された資格がない場合に、特に良質な仕事において女性が雇用上の差別を受けている。
そもそも働きだす以前に、差別的な社会制度が女性の雇用の機会を奪っている。例えば早すぎる結婚は女性から勉強や経済活動に従事する機会を失わせている。その結果として彼女らは家事や育児だけに従事せざるをえなくなっている。つまり結婚した女性は未婚の女性にくらべてニートになりやすい傾向にある(注1)。また仮に仕事に就けたとしても、彼女らは家事や育児のために柔軟に働ける仕事を希望する傾向にあり、結局はインフォーマルな仕事に就いてしまう。インフォーマルな分野では社会保障が脆弱であるため、こうした女性の増加は貧困の拡大につながる恐れがある。
また北アフリカにおいては、労働市場のミスマッチが深刻だ。北アフリカの若者は公共セクターの仕事を望む傾向にある。ギャラップ社のアンケート調査によると、賃金や福利厚生が同一の条件ならば民間セクターよりも公共セクターでの就労を希望する若者が多い。しかし実際にはそれに見合うだけの公共セクターでの雇用は存在しないため、その厳しい現実と理想とのギャップが若者の失業を促進している。公共セクターでの雇用を今以上に創出する事も考えられるが、持続的な解決策にはなりえない。既に北アフリカ諸国の公共セクターが産業全体に占める比率はかなり高い水準にある。それよりも若者に現実に気付かせること、そして強い民間産業を育成してそこで雇用を創出する事の方が重要だ。
民間活力含む総合支援が重要
若年雇用政策で成功している事例では、民間の力の活用や、総合的な支援が見られる。
例えば米国のIT企業シスコ社は、国連と協力して発展途上国でのインターネットを用いた教育施設の設置に取り組んでいる。西アフリカの11カ国を含む、世界の発展途上国50カ国で実施している教育訓練もその一環だ。調査によると、この訓練終了者の3分の2がIT関連の仕事を見つけて、また10%が起業するという成果を挙げている。また卒業者の31%は女性である。
総合的な支援の成功例としては、2009年にセネガルのダカールに国連開発計画によって設置されたプログラムが挙げられる。このプログラムでは、国際労働機関(ILO)や国連世界食糧計画と協力して農業分野等での職業訓練や起業支援を実施した。その成果として、多くの若者や女性が起業し、順調な経営をしている。このプログラムの成功理由は2点ある。1点目は、複数の機関が協力し、それぞれが各々の専門家を派遣し、貢献したこと。そして2点目は、訓練終了後も見据えた総合的支援を実施したことだ。職業訓練だけでなく、職業訓練終了後のコーチング、起業する者に対してのマイクロファイナンスを含む低利での融資など、一連の支援を統合的に実施した。こうした横断的な支援が成果へと結びついたといえる。
若年雇用の支援にあたっては、民間を含む各機関の協調、そして総合的な支援が求められる。
注
- 本報告では専業主婦もニートに含めており、厚生労働省および内閣府の定義とは異なる。
参考資料
- African Economic Outlook 2012 - Promoting Youth Employment
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