ニート増加対策、教育と就労の橋渡しを
―OECDが若年雇用政策を提言―

カテゴリー:若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2012年6月

経済協力開発機構(OECD)は5月、若年雇用に関して見解を発表した。2008年の金融危機後、若年層の失業率の悪化が目立つ。そうした数字以上に大きな課題として、見解は、就職活動もしていないニートの増加に着目し、教育と就労の橋渡し、職業訓練の見直しなどを求めている。

若年失業率、金融危機後に一段と深刻化

G20労働大臣会合が5月17、18の両日、メキシコのグアンダラハラ市で開かれた。見解はこの会合の開催にあたり、OECDのウェブページに掲載された。

また、会合に先立って、OECDは国際労働機構(ILO)との共同声明も発表し、G20各国の失業率を金融危機前の水準に回復させるためには、2100万人分の雇用機会の創出が必要だと指摘した。

OECDの見解によると、2008年の金融危機後、多くの国で若年(15、16~24歳)の失業率は悪化している。その傾向は、特にスペイン・イタリア・英国・アメリカで顕著だ。スペインでは若年のほぼ2人に1人が失業している。若年の失業率はG20のすべての国で壮年(25歳以上)のそれを上回っている(図1)。特にサウジアラビア・イタリア・メキシコ・インドネシアでは4倍以上高い値となっている。一方で、長期のデュアルシステムに基づく職業訓練、および教育から就労への移行政策が成功しているドイツでは、若年・壮年間での失業率の差が比較的小さく、唯一2倍を下回っている。

図1:若年と壮年の失業率(2011年第4四半期)

図1:若年と壮年の失業率(2011年第4四半期)出所:OECD

出所:OECD

(注)

  • 各国間の比較可能性を確保できるよう、OECDが調整した季節調整済みの四半期失業率である。ただしブラジル、インドネシア、ロシア、南アフリカは各国の労働力調査での数値であり、季節調整を行っていない。中国、インド、サウジアラビアは年次の失業率。
  • アルゼンチン、ロシアは2011第2四半期の数値。イタリア、メキシコ、南アフリカ、トルコ、英国は2011年第3四半期の数値。中国、サウジアラビアは2009年の数値。インドは2009-10年の数値。
  • ロシアの壮年は25-72歳の数値。
  • アルゼンチン、ブラジルは一部の都市部のみが対象。
  • 中国は都市部登録失業者の年次データによる。
  • インドは推計値。

労働市場に登場しないニートが増加

若年の失業は壮年の失業以上に芳しくない状況にあるが、それ以上に大きな問題は、求職活動や教育・訓練の受講をしていない、いわゆるニートの増加だ。多くの国で、若年に占めるニートの割合は上昇している(図2)。彼らは労働市場に登場してこないため、失業率の数字にカウントされない。ニートの期間の長期化はキャリア形成を阻害するだけではなく、その後に貧困や健康の悪化、さらには社会的な排除につながる恐れがある。

図2:若年に占めるニートの割合(2007、2011年)

図2:若年に占めるニートの割合(2007、2011年)出所:OECD

出所:OECD

(注)

  • ここでのニートは「雇用されていなく、かつ教育や訓練を受けていない若年」を表す。必ずしも他機関の定義とは合致しない。各数値は、各国の労働力調査等をもとにOECDが推計した値である。
  • 2007、2011年ともに第1四半期の数値。ただしアルゼンチンとオーストラリアは2007年第2四半期と2011年第2四半期の数値。インドネシアは2007の数値。南アフリカは2008年の数値。ブラジルは2007年と2009年の数値。
  • インドネシア、南アフリカの値は各国の公表値による。
  • 日本、インドネシア、南アフリカの2007年値はなし。

職業訓練の見直しと充実など提言

OECDは若年雇用問題への対策として、教育と就労の橋渡しの強化、および職業訓練の充実が有効としている。

現在、いくつかの国では義務教育が15、16歳で終了する。義務教育終了後から高等教育を受けるまでの期間、つまり18歳までの期間には「隙間」が生じている。そしてこの隙間の期間は、若年に貧困や社会的排除の恐れを生じさせている。教育制度からドロップアウトした若年は、その後労働市場に参入しない傾向にある。それは極めて就学率の高い国や、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)で高得点を収めるような国でも見られる現象である。この解決策は、義務教育の年齢を引き上げることであり、既に英国とオランダがこの改革を実行している。

また一部の若者の傾向として、あえて労働需給上不利な職を望む傾向、あるいは教育により蓄積した知識とは無関係の分野の職に進む傾向がある。特に後者は、人的資源の浪費であるとともに、賃金に負の影響を与える。それを解決するためには、高品質なキャリアガイダンスによる良質な情報の提供が重要だ。そしてそれを実現するためには、3点が重要となる。1点目が中等教育の初期段階(日本の中学校に相当)での早い活動。2点目が職員による個々人への高品質のキャリアガイダンス。そして3点目が、現地におけるタイムリーで高品質な労働市場に関するデータおよび将来的な職業の見通しの提供である。これらの政策は教育から就労への移行をスムーズにする。

職業訓練については、中等教育の後期の段階(日本の高校に相当)での支援が効果的だ。既にG20のいくつかの国は、職業訓練改革を実行し、講義形式の学習および実際の労働を伴う徒弟制度によるデュアル教育システムを推し進めて成果を挙げている。それらの国は、ドイツの徒弟制度を参考にしている。

適切な労働市場政策も重要

雇用促進のためには、適切な労働市場政策も求められる。具体的には、労働市場の動向を踏まえたフレキシブルな失業対策、および雇用の促進を妨げない社会保険制度・最低賃金制度などが重要だ。

例えば経済危機の際には、失業者に対して、金銭支援を含む社会的援助が必要となる。アメリカとカナダでは、先の金融危機の際に、労働市場の動向を踏まえて失業給付の延長を実施した。

また雇用時の高すぎる社会保険費用負担・税負担は、低スキルの者や若者の雇用を妨げる。その対策として、いくつかの国では若者を雇用した際に政府が使用者に賃金補助を行い、雇用を促進している。

高すぎる最低賃金は雇用の妨げになりかねない。そのため、若年への例外規定の設置による、就学終了後の就労の機会促進が政策として考えられる。ただしこの政策は、若年者が初めて仕事に就くに際し、訓練のために使用者に多大な投資が求められる場合にのみ正当化される。

参考資料

  • OECD『The challenge of promoting youth employment in the G20 countries』

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