マイスター高校など職業教育を充実
―資格試験免除の制度も導入

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2011年9月

韓国政府は、現実に即した職業スキルを早期に身につけさせ、企業の求める人材を効率的に提供する訓練・資格制度の整備に力を入れている。企業の生産現場と合わせた教育プログラムなどを導入する「マイスター高校」がすでに創設され、その在学生を正社員として大企業が採用内定する動きが広がっている。また、職業教育訓練課程の履修者に対し、検定試験を免除して国家技術資格を付与する制度も導入する予定だ。

実業高校卒の厳しい就職

韓国の新卒の就職試験は書類審査、筆記試験、そして面接の順にすすむのが一般的である。中でも、書類審査が重要な審査基準となる。したがって学歴や資格の有無は合格判断において重要性を増す。そのため新卒者は「高いスペック(注1)の構築」に没頭するようになり、それが今の高学歴/高資格ブームを湧き起こした原因とされる。

ソウル市教育庁は市内に8月16日、 75ある実業高校の就職率(2010年卒業者)を発表

した。それによると 卒 業生1万8,952人のうち4,546人が就職、就職率は23.9%に止まった 。昨年の19.1%と比較すると 、5.1%上昇した数値ではあるが 、2万7981人が就職し、就職率62%を記録した2001年と比較すると、3分の1程度の低水準である。その理由は、実業高校の卒業生の多くが大学進学を選択すること 。ある実業高校の校長によると、昨年から高卒の就職促進支援により就職者が多くなったのは事実であるが、卒業生が求める職場は極めて少ない。それに低い賃金など待遇により2~3年で会社を辞めて大学進学するケースも多いという。したがって実業高卒者が、要望に沿った 就職先を見つけられるような政策が必要となる。

マイスター高校の創設

こうした状況を打開すべく始めたのが マイスター(meister)高校の創設である。この高校 は、実業高校の一種であり、現在・将来の有望な産業分野と連携(産学連携)し、企業が求める人材を育成し就職させるための職業教育を行う。また就職後もキャリアパスを積み、成功した技術者・職業人(meister)に成長するように支援する。

高校が義務教育ではない韓国において、マイスター高校の学生は全員学費が免除される。学生の募集は全国単位を原則にし、地域で一定比率の学生を選抜。また、多文化(国際結婚)家庭の子供や脱北者(北朝鮮を脱出した人)の子供などに配慮した 優先枠も設けている。授業の一部は、現場で働く技術者が担当する。それによって、現場で適用可能な実務中心の教育や、協力企業へ就職が可能になる。また卒業後就職すると4年間軍隊入営義務が延期される。 さらに、軍役によってキャリアパスが中断されないように企業勤務を軍服務として認めることも検討中である。

企業の反応

現在、多くの企業がマイスター高校との協力を 検討している。7月末現在、1050の企業が全国21のマイスター高校と産学協定を結んだ 。すでに就職先が決定した高校1年生は1年生全体の46%に当たる1,650人に上るという。例としてサムスン電子は 教育科学技術部と 協定を締結し、全国16のマイスター高校1年生を対象に職務適正検査と面接を実施し、120人に内定を出した。また、LG電子はマイスター高校の一つであるクミ電子工業高校の学生50人を選抜し、LG電子の生産現場に合わせた教育プログラムを実施している。その他、韓国電力、現代造船、ハイニックス半導体など複数の大企業がマイスター高校と協定を結んで正社員として採用している。

教育課程履修型国家技術資格制度の導入

一方、雇用労働部は8月22日、「教育課程履修型国家技術資格制度の導入」を発表した。この制度は、職務分析を基に仕事に必要な能力を標準化(国家職務能力標準)し、それを満たす職業教育・訓練課程を履修した人に検定試験を免除して国家技術資格を付与するもの。現在国家技術資格は556種類あるが、まず90種類に対して導入する予定だ。

しかし、既存の有資格者グループは反対の立場を明確にしている。その理由として、(1)既存の有資格者が資格獲得のために1年~2年以上を費やして検定試験に合格したのに対し、新制度で検定試験が免除されるのは公平ではない、(2)実際の現場を経験してないため、事故が多発する懸念がある、(3)採用する側からもっと上級の資格を要求される事に繋がる、などを挙げて反対する。

それに対して、教育科学技術部は、(1)国家技術資格の取得が認められた教育課程の履修だけでなく、直接検定試験で取得できる方法を設ける、(2)教育課程の中に現場での実務経験の時間を設ける事で資格の質は維持できる、(3)資格の取得に個人が費やす時間と費用の節約になる、と反論している。その上で、雇用労働部及び教育科学技術部は新制度導入を予定通りに推進するとしている。

これら制度の導入から、厳しい新卒就業の状況を改善し、現実とかけ離れた能力開発教育の状況を打開していくという韓国政府の問題認識と戦略が読み取られる。また、制度は高いスペックを求める労働市場の歪みを改善し、人材を適切に配分する。それは経済の競争力強化につながり、よりよい仕事が生まれる。それは現政権が描く政策目標である。しかし、現状は厳しい。高卒の労働者はいくら能力があったとしても賃金や待遇の面で大卒の労働者に及ばない。その実態をどのように改善していくかが今後の政策課題になろう。今後の展開を 注目したい 。

参考

  • 韓国雇用労働部、教育科学技術部などの中央政府機関Web情報、報道資料 韓国職業能力開発院、韓国人力公団などのWeb情報 東亜日報(8月6日付)、韓国日報(8月17日付)、毎日経済(5月16日付)、アジア経済(8月17日付)などの新聞報道

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