スペインのルーマニア人向け就労許可制度
―欧州委、再導入を承認

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2011年9月

欧州委員会は8月11日、スペインのルーマニア人に対する就労許可制度の再導入を認めた。急増するルーマニア移民から国内労働者の雇用を守る目的で、スペイン政府が実施をめぐり欧州委の承認を求めていた。スペインの失業率は21%に達している。

スペインは、2007年にEU加盟を果たしたルーマニアとブルガリアからの移民に対して、2009年1月に就労を自由化した(注1)。しかし、景気悪化により失業率が2009年初めの8%前後から2011年初めには21%まで急速に上昇、とりわけ若年層の失業率は46%に達し、いずれもEU加盟国で最も高い水準にある。

一方で、2000年代半ばからルーマニア移民が急速に増加、国内に居住するルーマニア人は2006年の38万8000人から2010年には82万3000人を数え、モロッコ人と並び最大の移民グループとなっている。好況期には建設業を中心に、低-中程度のスキルの労働者を多く受け入れたといわれるが、不況の影響により、15-64歳層における失業者の比率は2007年の11%から2011年の30%へと急激に高まった。

こうした状況を受けて、政府は国内労働者の雇用確保を目的に、今回の措置の導入を決め、欧州委員会に承認を求めた。ルーマニアに対するEU域内の移動・居住の自由化に関して移行措置が撤廃される2013年までの時限的な措置として、就労目的で新たにスペインに入国するルーマニア人に対しては、就業先が決まっている場合にのみ就労を許可することとし、雇用主に対して就労許可証の取得を義務付ける。一方、現在既に国内で就労しているルーマニア人労働者やその家族、公共職業安定所に登録済みの失業者には適用されない(注2)。

テロン移民担当相は、今回の措置は臨時のもので、ルーマニア人の入国および3カ月までの滞在の権利を阻むものでもないため、一部のEU加盟国が実施もしくは実施を検討している国境管理の強化とは全く性質が異なると主張。同措置はスペイン人の雇用確保だけでなく、既に国内に居るルーマニア人の雇用状況の悪化の防止にもつながるとしている。同時に、ルーマニアの失業率がスペインの約三分の一にとどまっており(約7%)、ルーマニア移民の主な働き口となっていた建設業の不振が続く現在、それでもルーマニア移民が後を絶たないことには首をかしげている。

スペイン政府の要請を受けて、欧州委は労働市場の状況やルーマニア移民の状況などに関するデータの提出を促し、これを分析した上で、就労制限の再導入を認めた。根拠となっているのは、ルーマニア及びブルガリアの新規加盟に関する2005年の法律における「セーフガード条項」だ。既存の加盟国に対して、深刻な雇用状況の悪化を条件に就労制限の再導入を認めるもので、行使されるのは今回が初めてとなる。なお欧州委は、2011年末を初回として3カ月毎に労働市場の状況を報告するようスペイン政府に求め、その如何によっては措置の停止を求めるとしている。

なお、スペインとは対照的に、デンマークが7月初めに再導入したドイツおよびスウェーデンとの間の国境管理(注3)に対しては、欧州委やドイツからの批判が相次いでいる。デンマーク政府は同措置について、武器や麻薬、人の密輸の防止が目的であると説明しており、両国との間で自由な移動を妨げることはないと主張。しかし、欧州委は専門家による視察の結果、両国に対する国境管理の再導入を正当化できる材料はなかったとして、改めて正当性を示すようデンマーク政府に要請している。

図 EU加盟国の失業率(2011年6月)

図:EU加盟国の失業率

  • 注:エストニア、ギリシャ、ラトヴィア、リトアニア、ルーマニアについては、全体の失業率は11年3月、若年失業率は10年第1四半期時点。イギリスは双方とも11年4月時点。
  • 参考:"June 2011 - Euro area unemployment rate at 9.9%, EU27 at 9.4%", Eurostat (2011)

参考資料

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