若者の起業支援策を拡充

カテゴリー:若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2011年10月

政府は深刻さを増す若年失業問題に対応するため、若者の起業支援策を実施する予定であることを明らかにした。9月5日の与党との協議を通じとりまとめたもの。支援内容は、(1)起業支援予算を大幅に増額(2500億ウォンから4900億ウォンへ)、(2)起業のリスク緩和策として「若者専用起業資金(800億ウォン規模)」を助成、(3)融資の一部を政府が請負う債務調整型起業資金の創設、(4)創造的なアイディアによる1人企業の支援(50億ウォン規模)、(5)起業プログラムを運用する大学や機関の支援などとなっている。

背景に若者の高い失業率

韓国の若者(15~29歳)の失業率は高い。2009年現在、若年失業者は34万7000人で、前年より3万3000人増加した。若年失業率は8.1%で、2009年の全体の失業率3.6%と比べると2倍を超える。失業率の高さについては他のOECDの国々と比べると目立たないが、雇用率はOECD諸国の中でも最低水準である。90年が43.6%、95年が45.6%、IMFの緊急支援を受けた98年には40.6%を記録した。その後、2002年には45.1%と回復したが、経済危機の影響から、2009年には1982年経済活動人口調査を始めて以来最低の40.5%を記録している。

中心はITベンチャー

支援策の中心はITベンチャーの育成。アメリカのシリコンバレーをモデルにしていると見られる。韓国でもかつてITベンチャーブームの時期があった。しかし、当時林立したベンチャー企業のほとんどは失敗に終わった。それはベンチャー起業が持つ特性のみならず、韓国社会の問題、すなわち、ベンチャー起業の失敗を補うセーフティーネットの無さが浮き彫りとなった。社会インフラが未整備の状態では、リスクを恐れる若者は起業に躊躇し、踏み出すことができない。今回検討されている施策は、そうした過去の失敗を生かし、起業しようとする若者が事業に失敗した時のリスクを最小限に抑えられるような設計となっている。

一方、ITベンチャーだけでなく、社会福祉分野におけるサービスを提供する起業支援を模索する方向も存在する。韓国は急速な経済成長と少子高齢化が同時に進行している。しかし、経済成長は必ずしも社会福祉の向上に繋がっていない。今後、韓国の団塊世代に当たるベビー・ブーマー世代が定年を迎え、本格的な高齢化社会に突入する。その需要を賄える公共的なサービスが足りない。需要を満たし、また様々な社会の価値を追求する、若者による社会的企業の起業が同時に進められている。

起業の失敗が失業増に転じるリスクも

しかしこうした施策にも、警戒する声が存在する。つまり、若者のベンチャー起業が中堅企業として成長するためには、現状の支援体制ではまだ足りないからだ。現在検討されている支援策は政府や自治体が中心で、かつ短期間、投資規模も小さいという限界を持っている。起業が真に成功するためには、もっと大規模な投資と、長期にわたる支援が必要だ。つまり、資金力を持つ大企業による投資と支援、大企業との連携によるシステムの構築が必要だと言われている。逆に長期に亘る支援がなく、短期間での成果中心になると、多くの若者の起業は失敗に終わり、若者の失業問題はさらに悪化する可能性が高い。若者への起業支援は両刀の剣でもある。

ソウル市は「若者起業 1000プロジェクト」

現在ソウル市は、市独自のプロジェクトとして「青年(若者)起業1000プロジェクト」を積極的に展開している。2009年から始まったこのプロジェクトは、起業環境への助成を焦点にしたものだ。厳格な審査を通った若者は1年間、1人当たり10㎡の事務スペースと月70~100万ウォンの活動費の支援を受ける。このほか、経営に関連する教育やコンサルティング支援、投資の紹介なども行っている。2009年の一年間で、合計509の企業が起業に成功した。また、外部の投資を受けたのは148件、知的財産権の登録などは489件に上る。その結果、約1700人の雇用創出効果があったという。

参考

  • 韓国雇用労働部、中小企業庁などの中央政府機関Web情報、報道資料
  • ハンナラ党などの政党のWeb情報
  • 雇用労働部「雇用白書2010」
  • 韓国政府「青年明日つくりプロジェクト1次プロジェクト」2010.10.14
  • 韓国政府「青年明日つくりプロジェクト2次プロジェクト」2011.05.19
  • 中央日報(2011年9月5日付、9月19日付)、連合ニュース(2010年3月19日付)など新聞報道

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