女性により良い仕事を
―欧州委員会、男女平等に関する年次報告

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2008年2月

女性の雇用は増加しているが、依然として低賃金・低技能職種にかたよっている--欧州委員会は、1月に公表した「2008年男女平等に関する年次報告」で、欧州の機会均等には進捗がみられるが、現状には未だ大きな課題が残されていると指摘、女性がより質の良い仕事に就くための各種の支援などを通じて、男女間の平等を推進するよう、各国政府に努力を求めている。

教育水準は向上、賃金までは改善せず

年次報告は、女性の雇用に関する現状を次のようにまとめている。

EU域内の女性の就業率は、2000年から2007年で3.5%増の57.2%と着実に伸びた。この間に増加した1200万人分の雇用のうち6割強の750万人分を女性が占め、失業率も過去10年間で最も低い9%に達している。教育訓練を受講している比率や教育水準は男性より高く、現在、毎年の大学卒業者の6割近くが女性であるという。しかし、男性との就業率の差は14.4%と未だに大きく、また賃金水準も男性より15%低い状態が2003年から続いている。産業・職種における男女間の分断も依然として残っており、新たに労働市場に参入する女性は、もともと女性が多い産業や職種で就業する傾向にあるといわれる。管理職労働者に占める比率でも、男性の半分以下の32.6%にとどまっている。また全体の3人に1人はパートタイム労働者だ(男性では10人に1人未満)。さらに、25~49歳層でみると、子供を持つ女性の就業率は62.4%で、男性に比べて29ポイント、子供のいない女性に比べても14ポイント低い。女性が不安定・低賃金で昇進もしにくい仕事に就きがちであることは、貧困層に陥るリスクが高いことを意味している。この傾向はとりわけ高齢者層の女性で高い。

質量両面の改善へ支援を

EUの男女間の平等に関する取り組みは、1975年に機会均等原則をEU法で規定して以降、およそ30年以上にも及ぶ。欧州委員会はこの間、欧州レベルの労使団体などとも協議を重ねながら、賃金や職種、職業訓練、社会保障など多くの分野で、EU法の制定や行動計画の策定などを通じて加盟各国に機会均等の推進を促してきた。欧州委員会は、男女間の平等の推進を通じて、経済の活性化や人口減少・労働力不足の歯止めなどにも効果を期待している。しかし、近年のEU拡大で加盟国の経済社会状況が多様化している影響もあり、政策の浸透には各国でばらつきがある。

欧州委員会は2006年、新たに2010年までの政策目標を掲げる「男女平等推進のロードマップ」をまとめた。優先的課題として、(1)男女の対等な経済的独立の達成(2)仕事とプライベート・家庭生活の調和の増進(3)意思決定への男女の平等な参加の促進(4)女性に対する暴力の根絶(5)女性に関する社会の固定観念の除去(6)EU外の男女平等の促進――の6項目を掲げている。

これらの政策課題の達成に向けた取り組みとして、今回の年次報告は、次の4点の推進を各国に求めている。第一は、女性のためのより質の良い雇用の創出で、女性の雇用の量的な改善のみが先行している状況を懸念している。ただしこれには、賃金などの男女間格差の是正だけでなく、仕事と家庭生活の調和への支援や、良質な仕事に就くための技能訓練などが必要となる。このため第二として、育児や技能訓練などのサービスへのアクセスの向上と廉価での提供を挙げている。第三は、女性に対する社会の固定観念の払拭で、教育・訓練・就業、あるいは家事への参加などに関する個人の選択を尊重するような文化的・社会的な改革が必要であるとしている。最後に、こういった政策を推進するための制度インフラの整備や、その制度を担う人材への男女平等に関する教育、また政策の進捗をはかるための指標の開発を求めている。

なお欧州委員会は、加盟各国の政策の評価や専門的なサポートの提供などを通じて、男女平等を推進する新たな団体の設立を進めており、今年中にもリトアニアでの開設が見込まれている。2007~13年のあいだに、5000万ユーロを予算として投じる予定だ。

(単位:%)

  就業率 賃金格差 管理職比
EU27 57.2 71.6 15.0 32.6 67.4
ベルギー 54.0 67.9 7.0 31.3 68.7
ブルガリア 54.6 62.8 14.0 30.5 69.5
チェコ 56.8 73.7 18.0 29.2 70.8
デンマーク 73.4 81.2 18.0 24.3 75.7
ドイツ 62.2 72.8 22.0 27.4 72.6
エストニア 65.3 71.0 25.0 33.4 66.6
アイルランド 59.3 77.7 9.0 30.2 69.8
ギリシャ 47.4 74.6 10.0 26.8 73.2
スペイン 53.2 76.1 13.0 31.8 68.2
フランス 57.7 68.5 11.0 38.5 61.5
イタリア 46.3 70.5 9.0 32.9 67.1
キプロス 60.3 79.4 24.0 16.1 83.9
ラトヴィア 62.4 70.4 16.0 40.6 59.4
リトアニア 61.0 66.3 15.0 40.7 59.3
ルクセンブルグ 54.6 72.6 14.0 25.9 74.1
ハンガリー 51.1 63.8 11.0 37.1 62.9
マルタ 34.9 74.5 3.0 18.6 81.4
オランダ 67.7 80.9 18.0 27.0 73.0
オーストリア 63.5 76.9 20.0 28.7 71.3
ポーランド 48.2 60.9 12.0 35.2 64.8
ポルトガル 62.0 73.9 9.0 33.1 66.9
ルーマニア 53.0 64.6 10.0 31.1 68.9
スロヴェニア 61.8 71.1 8.0 33.4 66.6
スロヴァキア 51.9 67.0 22.0 27.7 72.3
フィンランド 67.3 71.4 20.0 29.5 70.5
スウェーデン 70.7 75.5 16.0 31.8 68.2
イギリス 65.8 77.3 20.0 34.8 65.2

注:2006年データ。ただし管理職比については、デンマーク、ドイツ、エストニア、ラトヴィア、オランダ、ポルトガル、イギリスのみ2005年。また賃金格差は、男性に対する女性の時間当たり賃金額のパーセンテージを100から引いたもの。

出典:Eurostat

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