産業構造の変化と労組組織率

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年6月

国内最大のナショナルセンターであるスウェーデン労働総同盟(LO)は、近年組合員数の減少が続いている。2004年春の報告書では、前年度から組合員数が26万8000人が減少し、組織率は1.4%低下した。 かろうじてLO加盟の流通サービス産業労働組合のみが、僅かながら組合員数を増やした。また2番目の規模を持つ、ホワイトカラー労働者を中心とするスウェーデン専門職労連(TCO)の組織率は、ほぼ増減がなく安定した組合員数を維持した。一方、専門技術職の若手労働者を中心とする3番目の規模であるスウェーデン専門職労組連盟(SACO)は、昨年だけで組織率が3.5%上昇しており、組織の拡大傾向が続いている。

三大ナショナルセンターの組合員数の動向

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    2004年春に公表された報告書によると、ブルーカラー労働者を中心とするLOは、減少傾向にある。2003年の組合員数は、189万2000人(うち約25万人の組合員が退職者と学生)で、2002年の191万9000人から1.4%減少した。18の加盟組合のうち17労組で組合員数が減少し、例外は流通サービス産業労働組合のみである。流通サービス産業労働組合は、昨年2300人が新たに組合員として加入し、合計約17万人となった。また、組合員数の減少が最も大きいのは、スウェーデン金属労働者組合(Swedish Metalworkers' Union)で、昨年だけで1万人以上の組合員を失っている。しかしそれでも2003年時点で、約38万人の組合員を抱えるLO加盟最大の労働組合となっている。また、製紙・パルプ産業や林業労働組合にも相当な組合員数の減少がみられた。

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    一方、2番目の規模をもつTCOは、19の加盟労組をもち、ここ数年組合員数は横ばいに推移している。2002年末時点では、127万6000人で、今年もほぼ同数(前年度比1.2%増)である。組合員の内訳は、全体の8割以上を占める106万人が現役労働者組合員、退職者が14万人、学生が7万人となっている

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    また3番目の規模であるSACO は、ここ数年、組合員数の増加と組織拡大が続いている。 2003年12月31日時点で、 SACO の組合員数は、55万6000人であり、2002年末から1万8000人が新たに加入し、組織率は3.5%上昇した。組合員の内訳をみると、最も著しい増加は、学生組合員である。SACOは、 17%が学生組合員で、10%が退職者、残り73%が現役労働者組合員となっている。

スウェーデン主要労組の基礎情報(2003年)
組織名 組織状況
スウェーデン労働総同盟【LO】
Landsorganisationen i Sverige
結成 1898年
組合員数:189万2000人
男女比:54%(男性)、46%(女性)
加盟組合数:18組合
スウェーデン専門職労連【TCO】
Tjanstemannens Centralorganisation
結成 1944年
組合員数:127万5975人
女男比:63%(女性)、37%(男性)
加盟組合数:19組合
スウェーデン専門職労組連盟【SACO】
Sveriges akademikers centralorganisation
結成 1947年
組合員数:55万6000人
男女比:51%(男性)、49%(女性)
加盟組合数:26組合

資料:「新版世界の労働」堀田芳朗著日本労働研究機構(平成14年)european industrial relations observatory 2004年5月10日号より作成

産業構造の変化と労組の明暗

3つのナショナルセンターの組合員数の増減は、主に第2次産業から第3次産業への移行や公的機関の民営化など、就業構造の変化によるものが大きい。特にブルーカラー労働者を多く組合員に持つLOは、ここ数年の生産性の向上によるブルーカラーの雇用削減や工場閉鎖、製造部門の海外雇用移転が続き、それが組織率に影響を及ぼしていることが考えられる。しかし更に詳しくみてみると、確かにLOの組織率は少しずつ減少してはいるものの、ブルーカラー労働者の数が、戦後から現在までに半数以下に減少している事実を考えると、現状の低下率で済んでいることは評価に値する。LOはこれまで、加盟労組の再編成を積極的にすすめ、ブルーカラーやホワイトカラー、専門職の垣根を越えた組織化を実施し、更に市民運動と連携することで活動の幅を広げており、それが今日までの組織率の維持に貢献していると考えられる。

一方、SACOやTCOについては、サービス産業やIT産業の拡大とともにホワイトカラー労働者が増加しており、それとともに組合員も拡大している。特にSACOが、順調に拡大している理由としては、学生組合員の組織化に成功していることが挙げられる。TCOも学生の組織化を行っているが、SACOに押され気味で組合数は伸びていない。スウェーデンでは、教育と職業訓練が密接な関係にあり、学校教育の中で職業に比重が置かれている。そのため、スウェーデンの大学生は、若いうちから専門職としての自覚が強い。SACOは、このような学生らに対し、極めて安い組合費を提示することによって組織化に成功している。

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