問題山積のなかアロヨ大統領続投か?

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2004年6月

6年に一度の大統領選挙の投票が5月10日に行われたフィリピン。選挙をめぐる暴力事件や開票の大幅な遅れが指摘されるなか、民間の選挙監視団体「自由選挙のための国民運動(ナムフル)」の非公式集計により、得票率が46%に達した現職のグロリア・マカバガル・アロヨ大領(54)の当選がほぼ確定した。ただし、アロヨ氏の勝利宣言は、5月31日からの上下両院委員会の正式集計を受けた公式結果の発表後となる。

フィリピンの大統領制の任期は6年。アロヨ氏は、エストラダ前大統領が違法賭博献金疑惑で失脚した2001年1月に、副大統領から昇格し、前大統領の残りの任期を務めた。今回当選が確定すれば、アロヨ政権は通算9年半近い長期政権となるが、財政赤字や失業問題、テロ対策などの課題が山積している。

今回の大統領選挙の立候補者は五人。有力候補の一人とされていたラウル・ロコ前教育相(62)の健康面での不安が明らにされると、支持率がいずれも30%台でしのぎを削ってきた現職のアロヨ大統領と人気映画俳優のフェルナンド・ポー氏(64)の事実上の一騎打ちとなった。選挙戦の当初、ポー氏は、人口の半数近くを占める貧困層からの強い支持を受け、「庶民の人気者」として爆発的な勢いで他の候補者を寄せ付けなかった。しかし、経済界からは、政治・経済の分野における彼の経験のなさが懸念されていた。ポー氏は、候補者討論会への参加も拒否し続け、自ら政策を語ることも少なかった。対するアロヨ氏は、通商産業省、上院、副大統領、そして現在は大統領を務め、経済や雇用の重要性を理解しているという強みがあった。

財政赤字・人口爆発・高い失業率という問題に直面し、アロヨ大統領は2001年1月の就任以来、貧困問題対策に取り組んできた。貧困層の多い農漁業従事者への自立援助や農漁業の近代化の推進など、様々な対策を講じたが、長期的な救済策は少なく、失業者数も増加の一途をたどるばかりである。人口は増え続け、経済が実質的成長をみせても、新たに労働力に算入した者やこれまでの大量の失業者をまかなうだけの十分な雇用を作り出すには至らない。特に若年層の失業者数の増加傾向は著しい。国内での雇用停滞は、海外就労者数の増加につながり、フィリピン経済は彼らからの送金に頼る部分も大きい。しかしその一方で、優秀な人材の海外流出や、移住先での待遇に関する問題等が浮上している。国内の電気、水道や電話などの通信網の未整備や、飲料水の不足など、インフラの貧弱さも目立ち、国際競争力も年々低下している。

こうした問題を意識したアロヨ氏は、選挙期間中には現職の強みを活かした政策(政府が費用を負担する健康保険、政府系病院での医療サービスの無料化、住宅の提供、再雇用支援等)を次々と打ち出していった。これらの貧困対策を発表かつ実行しながら、潤沢な選挙資金と組織力を活かして地方や貧しい地域も含めて隅々まで選挙運動を行うことにより、後半の急激な巻き返しを実現させた。しかし、選挙戦で打ち出した数々の貧困対策を実現するための予算のあてがないというのが実情である。

現政権は、6月末をもって解散する。現在、6月中旬の新大統領発表に向けて、22名の上下両院議員から成る合同委員会の公式集計作業が進められている。6月30日の新大統領就任式までに、開票作業を終えることができるのか。開票の大幅な遅れは、国際社会における信頼度を著しく低下させる。米国のシンクタンクもフィリピンの状況の厳しさを指摘している。ダナ・ディロン氏(ヘリテージ財団アジア研究センター)新しいウィンドウは、アロヨ大統領が当選しても、フィリピンが抱える多くの問題の原因となっている制度上の脆弱性に変化を与えることはないであろうという見解を示している。失業問題の克服・貧困対策・歳入増への取組み・テロ対策等、多くの課題を抱えるフィリピンであるが、新大統領の道のりは、その第一歩から険しいものとなりそうだ。

参考

  1. フィリピンの政治体制
  2. 立法・行政・司法

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