進展しない労働法改正

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2004年12月

労働法の改正は、ルーラ大統領にとって2002年の大統領選での公約であった。このため政府は、就任直後は改正に向けた準備を行う行動は取ってみせたが、当初から政界、労使、学会の意見の対立が激しく、改正作業は頓挫している。リカルド・ベルゾイニ労相は、10月31日付新聞のインタビューに対し「労働党政権の任期中に、改正が可能かどうか、予測がつかなくなった」と、悲観的見通しを明らかにした。政治的に不利と見た政府は、労働法改正プロジェクトを、成り行きに任せる方針に切り替えたようである。

使用者側は、現在国内で就労者の過半数が、非公式就労となっている理由について、現労働法が、正式雇用した場合に企業を複雑な法令により拘束し、企業負担を過重にしている結果であると指摘、規制緩和を求めている。労働者寄りの労働法により、ブラジルの企業は国際競争力を失い、グローバル化の中で、国際投資がブラジルを避けるようになったという主張だ。

政府も労働問題に関して法的介入が多すぎることは認めており、現在の法令のように過剰な労働者の権利を法的に定める必要はないと考えている。しかし一方の労働者側は、労働法が時代錯誤的存在になっていることを認めているものの、改正するなら、既得権は温存し、更に権利を拡大する要求を出しているため、妥協点を見出すことが困難となっている。

政府は2003年から改正に向けて労使、政府代表によるフォーラムを設置した。しかし、これまで改正に向けた論議には、全く進展が見られていない。さらに10月28日には、労働法改正の前哨戦と言われた組合法改正に向けた議論で、労組側のフォルサ・シンジカル、CGT(労働者センター)、SDS(社会民主労組)の3中央労組が、政府と対立したことが原因になって、労働法改正フォーラム脱退を宣言、1年間続いた組合法改正討議さえも暗礁に乗り上げた。政府は、組合法の方が改正は比較的に容易であると考え、まずこれにフォーラムを組織して討議していた。現在かろうじて労働党と直結しているCUT(中央統一労組)だけが、組合法改正フォーラムに残っている格好だ。労働党と常に歩調を合わせてきたCUTのみが有利になるような改正案にしようとする政府の姿勢に、他の中央労組は危機感を強め反発している。従って労働法改正に向けた政府の予定は一段と困難になっている。

労働法の改正は、歴代政府が、企業の要請を受けて、一応改正計画を取り上げてきた問題。だが労使の利害が正面から対立するため、政治的反響を恐れて、どの政権も先送りしてきた。この改正を重要公約に掲げた労働党政権でさえ、残る2年の任期中に改正は困難であろうと認めている。ベルゾイーニ労相は、「現在のブラジルは、労働力の直接コストが企業競争力制約要因とはなっていない。ブラジルの賃金は競争の上で有利になっている。問題は正式雇用に対する官庁手続きの煩雑さにある。労働法改正案作成は非常に議論が多く、労働党政権の残る2005~2006年の2年の任期では時間が足りない。改正案を急ぐと、更に対立を煽る結果になるため、政府は労使、政府が妥当な線に同意を成立させるまで時間をかけなければならない。」と早期改正が困難との立場を強調した。

労働者出身のルーラ大統領は、労働者に対して、労働者を有利にする形で労働法は改正されるとの姿勢を崩していない。このため、企業代表との議論では常に対立を引き起こす。労相の発言が裏付けるように、労働法の改正は簡単には進展しない難問のようだ。

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