外国人労働者削減策をめぐる最近の動き

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2004年11月

マレーシア政府は、今年4月に、来年発表する経済総合5カ年計画「第9次マレーシア計画(2006~2010年)」に、外国人労働者削減策を盛り込む方針を明らかにして以降、次々と新施策を打ち出している。外国人労働者委員会委員長のナジブ副首相は、「このまま外国人労働者が増加すれば、2010年には労働力人口の3割を占めるようになり、多くの面で国益にかかわる」との懸念を示し、安価な外国人労働力への依存を軽減し、自国民労働者の生産性を高めることで、国際競争力を強化したい考えだ。マレーシアの正規外国人労働者数は、2002年1月に80万人であったのが、2004年7月には130万人に急増。不法労働者数も70万人に及んでいる。

これまでに人的資源省が明らかにした規制強化の中身は、1)国家職業訓練委員会(MLVK)が認定する訓練期間での事前研修の義務化2)雇用主による直接契約の義務化(仲介業者・エージェントによる外国人労働者供給制度の廃止)3)外国人を優遇雇用する企業に対する罰則(外国人雇用禁止)の導入(ただし、採用募集広告を週2回以上掲載してもなお自国民労働者の応募がない場合は外国人の雇用を容認)4)肉体労働に従事するビザを申請する外国人へのマレーシアに関する基礎知識の試験(語学、文化、法律)及びMLVKが実施する研修の義務付け――など。これに足並みをそろえるかたちで内務省は、1)個人情報チップ内蔵のIDカードの導入による出入国管理の厳重化2)指紋認証を使ったデータベースの開発3)不法就労者を助長する雇用主への罰則強化4)滞在期間の長短にかかわらず永住権の付与を熟練労働者のみに限定――などを実施に移す見込みだ。

こうした規制強化策と平行して人的資源省は8月、外国人労働者に関する実態調査に着手。調査担当の作業部会を設置し、合法・非合法の外国人労働者数及び雇用主の業種の把握を急いでいる。調査結果は、来年2月に公表を予定。それをもとにデータベースの構築も検討している。また、政府は、「全マレーシア人に仕事を」をスローガンに掲げ、自国民労働者の雇用優先を目的とするキャンペーンも実施。同時に、外国人労働者への依存を解消するため、生産設備の自動化や新技術の導入支援を目的とする企業に対する優遇制度の検討も進めている。

規制強化への動きが強まるなか、ニュー・ストレーツ・タイムズなどの地元紙も、外国人受刑者数が過去10年間で3倍に増加した――と、外国人労働者の急増による国内への影響を報じている。現在刑務所に収容されている囚人は4万人強だが、そのうち約4割を外国人が占めているという。受刑者の増加に伴い刑務所の維持費も増加していることから、議会では、外国人労働者の外国送金への課税を求める声もあがっている。地元紙は、外国人の急増が、結核、B型肝炎、HIV・エイズなどの感染症増加の要因のひとつにあがっていることも報じている。チュア・ソイレック保健相は9月4日、昨年医療診断を受けた外国人労働者70万人のうち、2.6%が何らかの感染症にかかっていた――と公表。政府は、入国者に対する健康診断の義務付けなどの対応策を講じはじめている。

一方、こうした一連の流れに対し、使用者側は、建設業界を中心とする慢性的な人手不足に頭を悩ませている。大量の不法就労者が本国送還となった結果、建設プロジェクトがストップするといった事態も招いている。マレーシア経営者連盟(MEF)は、1)直接契約のコストが大きい2)スムーズな外国人採用が阻害され、オーバーステイの増加等による不法滞在者の増加といった逆効果を招く――などを理由に、仲介業者による外国人労働者供給制度の維持を主張。不法就労者削減策としては、取り締まり強化による対応を求めている。

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