スペイン造船業における労働紛争

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2004年10月

夏休み明け9月のスペインは、造船会社イサル(Izar)の分割民営化プランをめぐる紛争で幕を開けた。

スペインの公営造船所であるAESAはすでに20年にわたる経営難を引きずっており、いずれの政府も解決策を見出せないまま今日に至っている。2000年、軍事部門(戦艦製造)の旧国営企業バサン(Bazan)社がAESAを吸収合併する形で現在のイサル社が生れ、政府の持ち株会社であるSEPIの傘下に入っているが、これは事実上破産状態にある造船業を、収益の見込まれる軍事部門と合併させることで生き残りをはかる戦略であった。しかし民間部門は、現在もほとんど受注なしの状態が続いている。

世界的な造船業の後退の中で、イサル社は韓国を中心とするアジア勢との激しい競争に曝されている。しかし決定的な打撃となったのは、欧州委員会によるイサル社への補助金返却命令であった。

バサン社と合併する以前、AESAにはすでに4回の調整プランが適用されてきたが、その中で欧州委員会はAESAに対する最後の支援パッケージを承認し、同時にスペイン政府は今後AESAにいかなる支援も一切行わない旨約束した。しかし99年にSEPIがAESAの造船所を資産価格をはるかに上回る額で買収したことに加え、バサン社によるAESA吸収のオペレーションに対しても欧州委員会の調査が行われた結果、11億ユーロの違法な支援が行われたと判断され、その返却が命じられることになった。SEPIでは、これによりイサル社の破綻は免れえないとしている。

SEPIは9月に入ってイサル社救済プランを発表したが、これは収益が見込まれ、また政府の補助金を受けることができる軍事部門を民間受注部門から切り離し、後者については民間資本を導入するというものである。欧州委員会による補助金返却命令について、SEPIはブリュッセルと交渉を続ける可能性が閉ざされたとの前提に立っている。一方、労働者側は交渉の余地が残されていると見ており、SEPIのプランを全面的に拒否、イサル社及び周辺産業の雇用維持を可能とする包括的な解決策を要求している。

二大労組の労働者委員会(CC.OO.)と労働者総同盟(UGT)は14日にイサル社の全造船所での抗議行動実施を決定、また15日に行われるSEPIとイサル社労働者側代表との交渉結果次第では、月末までの間にストを行う可能性も否定しなかった。しかし、14日を待たずに各地の造船所で抗議行動が行われた。15日のSEPIの労使交渉でも、結局両者の歩み寄りは見られず、労働者側は21日、28日、30日にゼネスト実施を決定、16日以降も北部バスク州のセスタオや南部アンダルシア州のセビージャ、サン・フェルナンド等の造船所で、労働者側が古タイヤのバリケードに火を放つなどの激しい抗議行動を行い、警察との衝突で怪我人も出る騒ぎとなった。

イサル社の紛争は、4月に発足したばかりの社労党(PSOE)政権にとって、早速直面しなければならない労働問題となった。SEPIとイサル社労働者側の会合に先立ち、12日、サパテロ首相は、来春のバスク州議会選挙に向けてビルバオ市で行われた社労党集会に出席した際、会場前に集まったイサル社セスタオ造船所の労働者代表らと急きょ会合し、「本政権は我が国の公営造船所を救済する」と発言し、イサル社の全雇用を維持できるプランの策定を約束した。首相のこの発言は当然労働者側の大きな期待を持って迎えられたが、翌日首相は国会でSEPIのプランを支持する旨述べ、首相発言の真意をめぐって様々な解釈が錯綜した。一方、現政権の経済部門の統括責任者でもあるソルベス経済大蔵大臣は、軍民の切り離しがイサル社救済の唯一の道であるとの見方を表明している。結局サパテロ首相の発言は、バスク州議会選挙をにらんだ党の集会に悪影響が出るのを恐れて行った日和見的なものに過ぎなかったとして、労働者側の失望感が高まっている。

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