公的年金制度の維持に関する「トレド協定」の更新

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2004年1月

スペインでは1995年に、国会の全政党が公的年金制度の将来およびその資金繰りをめぐって協定を結び、一連の政策勧告を行った(いわゆる「トレド協定」)。少子高齢化の進むスペインにおいて、年金制度の維持は深刻な問題であり、その意味でも全政党が制度維持に必要な改革の実行を約束したことは重要であるとして評価されてきた。

2000年にトレド協定の期限が終了して以来、国会下院トレド協定委員会は3年間にわたる専門家・関係者らへの諮問を経て報告書を提出、これを受けて10月2日には下院で協定の更新が承認された。報告書は政府、労組、雇用者団体に対する22の勧告から構成されるが、うち15は1995年の協定に始まった諸政策の継続に関するものである。

その他の新しい勧告は、特に近年の労働市場における様々な現象を反映したものとなっている。特に目を引くのは、社会保障制度への移民労働者の大量加入という現象が与える影響の分析、有期雇用やパートタイム労働、失業期間を挟んだ就業等の不規則な就業形態の拡大の分析、女性雇用の促進、定年前早期退職のストップといった勧告である。

トレド協定の更新が伝えるメッセージは極めてはっきりしたもの、すなわち、「将来に向けて公的年金制度を維持していくには、より多くの労働者がより多くの期間働くしかない」というものである。したがって、雇用成長(すなわち社会保障制度負担金を支払う者の数の増大)が必須条件となるが、なかでも女性および50歳以上の労働者の雇用拡大は最優先課題で、そのためには仕事と家庭の両立の支援や、年齢を理由とした解雇の制限といった政策が必要になってくる。

同時に、漸進的でよりフレキシブルな定年退職のあり方を通じ、労働者が任意で労働期間を延ばせるようにすることも重要である。現在のスペインにおける実質的な定年退職年齢は63歳であるが、これを法定の定年年齢である65歳に近づけることが目指される。その意味において、報告の作成に当たった下院委員会では、定年前早期退職がいかに好ましくない影響を与えるかについて特に強調している。近年大企業を中心に目立って増えてきた早期退職について、報告ではその濫用にストップをかけ、また早期退職者への手当のために公的資金を利用するのは、ごく限られた場合を除いて許可すべきでないとの勧告を行っている。

しかし、最も論争を呼んだのは年金額の決定方法をめぐる点であった。報告書は、公的年金制度の財政均衡維持の観点から、「労働者が受け取る年金額が、その労働者の社会保障制度負担金支払いの努力に見合ったものとなること」を今後も引き続き目指すべきとしている。この第一歩は1985年、当時の社会労働党政権が年金額決定の際に考慮される負担金支払い年数を2年から8年に引き上げたことで踏み出されたが、さらに1996年には国民党(保守系)政権が2大労組(労働者総同盟および労働者委員会)との合意の下に15年に引き上げている。今回の報告では、将来の政権がこの年数をさらに引き上げる可能性を認める一方、負担金支払い年数のすべてを考慮の対象とするとした案は最終的には採用されなかった。

今回のトレド協定更新は、2003年から2004年にかけて地方選挙や総選挙が立て込み、政党間の緊張が高まるなかで実現したが、そのなかで広範な合意が成立したことに対し、各政党とも満足の意を表明している。これと並行して、2002年6月のゼネスト決行以来断絶してきた政府と労組との関係にも歩み寄りの兆しが見えている。なお、報告書の承認に際して賛成票を投じず「積極的棄権」を選んだ統一左翼(スペイン共産党を中核とする左派連合)は、最低年金額を最低賃金に近づける、また労働者自身が負担金を支払ってきた全期間のなかから、自らの年金額決定に最も都合のよい15年間を選べるようにする等の提案を行っている。

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