国民投票ユーロ圏参加否決の背景

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2003年12月

2003年9月14日の国民投票で投票者の56.1%が反対票を投じ、ユーロ圏参加を否決した。スウェーデン労働組合総同盟(LO)に属するいくつかの労働組合はユーロ圏参加反対であったものの、最後には、使用者と多くの労働組合はなんらかの形でユーロ賛成の立場をとるようになった。ユーロ圏参加に関するキャンペーンは、国民投票直前に起きたリンド外相暗殺により、予定よりも早く終了した。政府が、できるだけ多くの国民が投票に参加するように呼びかけたこともあり、有権者は高い関心を示し、82.1%が投票した。

2003年9月1日には、使用者(スウェーデン企業連盟、地方自治体連盟、県評議会連合)と労組連合(LO、TCO、SACO)が署名入りの記事を新聞に発表し、ユーロ圏参加賛成の立場を明らかにするとともに、独立した経済評議会を共同で設置してEMU加盟後の経済安定化政策について分析、提言を行うことを公にした。この経済評議会は、政府、政党、労使とは独立に活動し、これらの政府や組織の意思決定に必要な情報提供のみを行う。評議会を設立する6組織からは、それぞれ1人のエコノミストが推薦され、経済評議会に参加する。それまでユーロ参加に公式に中立の立場をとっていた労組もあったが、経済評議会の設立に賛同したことにより、労組指導者たちがユーロ参加に賛成していることが明らかになった。ブルーカラー労組連合に所属する各労組は直ちに反応し、LO傘下の16労組のうち10労組の指導者はユーロ参加に賛成したが、ホテル、レストラン、運輸、商業部門など6労組の指導者は反対の意思表明をした。

労使が経済評議会を設置して、EMU加盟により、高い経済成長率、より多くの雇用、よりよい福祉制度が実現するという呼びかけを行った9月1日までに、すでに多くの国民の意思は固まっていた。国民は、経済成長や雇用に対し、EMU加盟が好影響も悪影響も及ぼさないと判断していた。むしろ国民は、EMU加盟によって、やがてヨーロッパ諸国の水準にまで税率を下げることになり、福祉国家が立ちゆかなくなることを危惧していた。

賛成派は、反対派の恐らく約10倍の経費を使ってユーロ参加キャンペーンを行い、政府、議会の政治家の約80%はユーロ参加支持の立場をとっていた。ペーション首相は、ヨーロッパ政治にスウェーデンが影響力を持つためにはユーロ圏加盟が必要だと国民に訴えたが、反対派は、すでにスウェーデンがEU内部の政治勢力として活発に活動している、と容易に首相の主張に対して反論することができた。

1万人を対象にした国民投票出口調査によれば、ブルーカラー労組連合であるLO組合員の65%は反対票を投じた。ホワイトカラー事務職労組連合(TCO)の組合員ではわずかにユーロ参加肯定が上回り(49.5%対48.8%)、専門職労組連合(SACO)の組合員のなかでは参加肯定派が多数であった(57.2%が賛成)。農民、失業者、早期退職者、積極的労働市場政策プログラムに参加している労働者の約65%はユーロ参加反対である。また女性(58%)のほうが男性(46%)よりもユーロ圏参加に反対している。その理由として女性の多くが公的部門で働いており、ユーロ圏参加後に公的部門が縮小し、失業することを危惧している可能性が指摘されている。

政労使は、なぜ多くの有権者がユーロ圏参加に反対したか分析を進めている。出口調査でLO組合員は反対の理由として、ヨーロッパ民主主義に対比したスウェーデン民主主義の維持、政治的独立性、国立銀行が行う金融政策の独立性、現在の社会保障制度の存続などを挙げている。労働組合員は、EUの民主主義に不満を持っている。特にヨーロッパ中央銀行は、民主主義的な統制を受けず、失業に配慮することなくインフレ抑制に努めている。また、各国の議会に意見を求めたり、労使との公聴会を経ることなく、EUが規制や勧告を行っており、各国に押しつけていることについても労働組合員は快く思っていない。

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