ジョブ・ネットワークの改革
―その概要と課題

カテゴリー:職業相談・職業情報・職業適性

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  • 国別労働トピック:2003年11月

2003年7月1日より、数多くの課題を抱えながら、第3次ジョブ・ネットワーク事業が始まったのでジョブ・ネットワークの概要を紹介する。

ジョブ・ネットワークの概要と問題点

第1次ジョブ・ネットワーク事業は1998年5月1日より始まった。同事業は、政府による就労支援・職業紹介サービスを民間委託し、市場にゆだねるということを基本としていた。その一環として、政府は求職支援サービスや失業手当の支給を管理していた公的機関であるCESを廃止した。この事業の基本的な発想は、民間部門のほうがより効率的なサービスを提供できるというものであった。したがって、失業者は失業手当の受給要件として民間職業紹介業者に登録することを求められた。失業者が当該業者の名簿に登録されている間、業者は政府から資金を受け取る。さらに失業者が就職すれば、業者に対し報奨金が支払われる。他方、職業紹介業者は、企業からの要請に基づき求人情報を全国データベースに載せることができる。

このように、同事業は市場原理にゆだねるとのイデオロギーに基づき着手されたが、その実は政府自身によって設定された条件やサービスの量に基づき業者に資金が提供されていた。また、ジョブ・ネットワーク事業の中心的存在として、政府機関である「エンプロイメント・ナショナル」が設置された。

職業紹介サービスを提供するためには、まず職業紹介業者は入札に参加しなければならず、その落札価格の決定に影響を及ぼしたのが国内最大の職業紹介業者であるエンプロイメント・ナショナルであった。最初に問題点として指摘されたのは、サービス提供価格があまりにも低く設定されており、職業紹介業者が倒産してしまうというものであった。さらに、業者間の競争を勝ち抜くために、多くの業者は求人情報を全国データベースに載せず、それを自分のところで蓄えるようになった。

政府による改革と課題

連邦政府が2003年7月1日より実行に移した第3次ジョブ・ネットワーク事業の内容は次のとおりである。まず第1に、エンプロイメント・ナショナルは廃止された。これにより各地に点在した165の事務所が閉鎖され、400人あまりが失職した。この改革の実行に伴い、失業者に対するサービスの削減が始まったとの見方が強い。

第2に、政府は民間業者の業務量を劇的に増加させようとした。具体的には、7月1日直後に職業紹介サービス受給者に対し面接への参加を義務づけ、その履歴書を政府のデータベースに載せるよう求めたのである。現在、およそ70万人の失業者が登録を行っており、そのうちの14万人強が面接に参加できなかった。そこで、政府は業者に対し電話や文書で追跡調査をするよう要請した。こうした業務量の増大と新規則実施に伴うソフトウェアの変更などで、コンピューターシステム自体に問題が生じた。例えば、ある男性求職者は誤って男娼として求職登録され、その仕事に応募するよう求められた。

さらに14万人強もの求職者が面接に参加しなかったという事実が、新たな問題を引き起こした。つまり、求職者がその際に業者から職業紹介サービスを受けなければ、政府から提供される資金は減額される。そのため業者にとっては資金不足の問題が生じた。また規則では、面接に参加しなかった求職者は「相互義務要件」を順守していないと見なされ、この場合には最高で3カ月間失業手当が支給されないこともありうる。こうした事態が、ジョブ・ネットワークや政府の失業支援政策に対する批判を噴出させることとなった。

政府の改革により、多くの職業紹介業者は危機的状況に陥った。その結果、政府はジョブ・ネットワークに対する緊急援助措置を講じざるをえなくなり、そのために2000万豪ドルが計上された。このこと自体が、同事業に十分な資金が提供されていないことを示唆している。しかし、政府は今後とも自己責任の名の下に、失業支援サービスに対する資金を削減する方向にあるといわれている。

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