ハンガリー/失業率と労働力率、最近の労働市場情報
ハンガリーは1980年代末まで国家社会主義政治経済制度のもとで完全雇用が続き、労働力不足の状況にあったが、労働市場再編の劇的な第1期を1990年代半ばに終えた。そして2000年末には失業率は欧州連合(EU)の平均より低いが(中央統計局の労働力調査によれば、2000年の失業率は6.4%)、非労働力人口の割合は高水準にあるという状況に至った。労働年齢人口に占める非労働力人口の割合が高いのは、国家計画経済から市場経済への移行に伴う民営化と経済再編で1989年以降1990年代半ばまでに150万人が失業し、1999年まで雇用が増加しなかったからだ。もっとも、1999年の雇用増11万4000人のうち3分の1以上は賃金助成のある職に雇用されていた(例えば公共事業や何らかの賃金助成付き雇用)。
2000年の就業者数の増加は小幅で、新規雇用は8万1000人。その一方で4万3500人が失業した。賃金助成付きの雇用がやはり重要な役割を果たし、3万8000人の雇用を創出した。同年には平均約6万2000人が公共事業や賃金助成のある職に雇用されていた。
15-64歳人口に占める非労働力人口の割合は2000年には39.8%で、依然として高い。15-64歳人口のうち270万人は経済活動に参加せず、参加しているのは約400万人である。特に女性の非活動率が高く、ほぼ2人に1人(47%)が労働市場に参加していない。一方、男性の非活動率は32%であるが、残念ながらこれはEUの平均21%より10ポイント以上高い。EUの女性の非活動率は40%で、ハンガリーはこれより7ポイント高い。
労働年齢にある非労働力人口220万人のうち70万人は学生、同じく70万人が退職者(退職の動機は早期退職、障害などさまざまである)で、30万人は育児手当を受給していた。もっとも、50万人は収入が得られず労働市場から「姿を消した」。家庭にいる女性は別として、男性非労働力人口の一部はいわゆる闇経済(インフォーマル経済)で就労していると思われる。周知のことであるが、失業手当の受給期間が過ぎてしまった者の大半は失業者として登録されず、雇用機会が得られなければ賃金所得者のカテゴリーから除外される。
ハンガリーにおける「就業者」と「失業者」の双方をこのように概観すると、「非就業」現象は、正式に定義された失業や登録された失業より相当広範囲にわたっているのは間違いない。中央統計局が2001年に実施した労働力調査によると、非労働力人口(国際労働機関(ILO)の定義による非就業者)のうち56万人は働く意思があったが、就職活動をしていないか就労や職探しの意欲をすでに失っていた。この人数は、同じ労働力調査で失業中とみなされ就職活動をしている者の倍以上にのぼる。
表1は部門別、性別の雇用分布を示している。
部門 | 1992年 | 2000年 | ||
---|---|---|---|---|
女性 | 男性 | 女性 | 男性 | |
農業 | 7.7 | 14.3 | 3.5 | 8.9 |
鉱業 | 0.4 | 2.1 | 0.2 | 0.7 |
製造業 | 24.8 | 26.6 | 22.5 | 25.5 |
電気 | 1.7 | 3.5 | 1.1 | 2.8 |
建設 | 1.7 | 8.3 | 1.2 | 11.6 |
商業 | 15.0 | 9.0 | 16.1 | 12.3 |
ホテル、ケータリング | 3.6 | 2.2 | 4.0 | 2.9 |
運輸、倉庫、郵便 | 5.5 | 11.0 | 4.9 | 10.6 |
金融 | 2.8 | 0.7 | 3.2 | 1.3 |
不動産 | 3.6 | 3.1 | 5.4 | 5.2 |
行政、社会保険 | 5.5 | 8.6 | 7.7 | 7.7 |
教育 | 12.7 | 3.4 | 14.3 | 3.3 |
医療、社会福祉 | 9.5 | 2.7 | 10.5 | 2.8 |
その他 | 5.2 | 4.6 | 4.9 | 3.7 |
- 出所:Labour Force Survey, 1992-2000, Budapest: Central Statistical Office, (in) Simonyi, 2003:8.
1~1.失業者の特徴
ハンガリーでは高かった長期失業者の割合がやや低下し、失業期間が1年を超えた失業者の割合は1996年の50%から2000年には44.2%になった。失業期間の平均も1996年の18.8カ月から2000年には16.8カ月に縮まった。これは失業手当受給期間が短縮され、ことに社会的支援を受ける資格要件も厳しくなり、受給期間終了後に職が見つからなければ登録から除外される失業者が多いからである。
失業率に見られるもう1つ重要な特徴は、地域格差が大きいことである。例えば、北東部の失業率はブダペストや西部(西トランスダヌビア、中央トランスダヌビアなど)の2.4倍にのぼる。また、開発地域や中央経済地域は労働需給が良好で平均失業率が低いが、そうした地域にも失業率の高い(10-13%)地区や居住区がある(上記の西部地域など)。
興味深いことに失業の構造に注目すると、女性の失業率が男性の失業率より低い。例えば、2000年の女性の登録失業率は5.6%であったが、男性は7.0%である。しかしこの数字からは、大きく変容する労働市場において実際には女性のほうが非労働力人口の割合が高いという事実が見えてこない。2000年の女性の就業率は43%である。1970年代、80年代は国家社会主義政治経済制度のもとで女性の労働力率は約80%と「高かった」が、それが40%台にまで低下した。労働市場の動向を見ると、女性はいったん失業すると、再就職するのが男性よりはるかに難しい。女性の失業率が低いのは、労働力率が男性より低いことに加え、女性が従事する職の性質も関係していると思われる。女性は男性より賃金が低いために従来産業における大量解雇の対象にならない場合があり、また女性は医療や教育など公共部門で働く者が多く(詳しくは表1を参照)、やはり大量解雇の対象になりにくい。
若年層も労働市場で一般に弱い立場にある。25歳未満の若年層に占める求職者の割合は2000年には4.7%であった。これはEUの平均8.5%に比べればかなり低い。
失業のもう1つ重要な側面として受動性が挙げられる。ILOの定義による「受動的」失業者の割合がハンガリーの労働市場でも高い。これは職探しをしていない者(いわゆる「意欲を失った失業者」で、職探しをあきらめてしまった者)で、ハンガリーの労働力調査によると、こうした人々を含めると失業者数は30%強増える。
最後に、ハンガリーの労働市場のもう1つの特徴としてロマの存在に触れておく必要がある。ロマが多い地域の失業率は依然として約30%にもなる。小さな集落の場合、ロマの一家には就労者が実際にいない。これまでの調査で指摘されてきたことであるが、ロマの社会で精力的に就職活動をしても、ロマ以外の求職者に比べて職が得られる確率が低い。
まとめると、ハンガリーの労働市場は、1990年代初めに急速に情勢が悪化した後に安定したが、停滞した雇用水準を指摘できるだけでなく、非労働力人口の割合が高い一方で非正規の不安定な就労が増えるという矛盾した、おそらくは相補的な傾向も指摘することができる。労働市場のこうした傾向は「闇」あるいは「インフォーマル」経済、つまり正規に提供されてはいない職や非典型的な雇用に限ってみられる。半ば正規で半ば非正規の仕事(家事、家族サービスや近隣サービスの非公式な交換など)もこうした多元的傾向の一部を成しており、非典型的な雇用の現れとされている。
1-2.労働市場で安定した地位にある労働者の特徴
国際労働事務局は2001年に世界的な調査を実施し、ハンガリーもこの調査団に参加した。この国際的な調査は「ILO-PSS」調査と呼ばれており2、調査結果によると、労働市場の安定と就業者の特徴に次のような相関関係が見られる。第1に、現在の雇用の安定度と就業者の年齢は比例し、就業者の年齢が高くなるほど雇用の安定度も明らかに高くなる。第2に、教育水準が高いほど同じ職にとどまるのに有利である。賃金所得者を職業別に見ると、管理職や専門職のほうが雇用が安定している。地域的側面が果たす役割にも注意を向ける必要がある。ハンガリーの中部や西部では就業者や企業家の割合が国全体の平均より高く、失業率は低い。
2.労働市場の最近の動向(2003年1~3月)
2003年1-3月期におけるハンガリーの就業者数は386万人、失業者数は26万5000人であった。労働力調査によると、労働力人口も失業者数も前年同期より増加した。
2003年1~3月期の労働力率は平均64.0%で、前年同期比0.7ポイント上昇した。男性労働年齢人口の64.5%(205万9000人)、女性労働年齢人口の55.1%(173万1000人)、男女合わせると労働年齢人口の59.8%(379万人)が就労していた。
2003年1~3月期の失業率は6.4%で、前年同期に比べて0.6ポイント高くなった。失業率の上昇は以下の要因による。
- 世界的な景気後退
- 失業者数の季節変動
- 卒業して労働市場に参加する若年層の増加
- 退職年齢引き上げによる退職者の減少
- ハンガリーの失業率は、EU(15カ国)の同期の平均失業率より1.9ポイント低い
失業率の上昇を分析すると、若年層(15~24歳)の失業率の上昇幅がもっとも大きいといえる。2003年1~3月期の若年層の失業率は14.4%で、前年同期より2.6ポイント上昇した。(2003年1~3月期のEU15カ国の若年層失業率は15.8%であった。)
2003年1~3月期における失業期間は平均14カ月であった。
最後に表2は、15~74歳人口の経済活動を2002年1~3月期と2003年1~3月期で比較したものである。
期間 | 就業者 | 失業者 | 労働力人口 | 非労働力人口 | 失業率 | 就業率 | 労働力率 |
2002年1~3月 | 3,840.0千人 | 236.2千人 | 4,076.2千人 | 3,690.0千人 | 5.8% | 49.4% | 52.5% |
2003年1~3月 | 3,859.6千人 | 264.7千人 | 4,124.3千人 | 3,629.1千人 | 6.4% | 49.8% | 53.2% |
- 出所:Employment and Unemployment, January ― March 2003. (Labor Force Survey’s Results), Budapest: Central Statistical Office, 2003, April 28, p.3
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