移民と雇用に関する政策文書・報告書の公表相次ぐ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年8月

欧州労使関係観測所(EIRO)が2003年5月に「人口移動と労使関係」に関する報告書を公表したのに続き、同6月には欧州委員会が移民と融合・雇用に関するコミュニケ(政策文書)を提示した。EUは移民労働者の労働条件整備などの諸課題に取り組み、同時にEU域内での労働者の自由移動を促進している。そのため両機関とも、移民の重要性や新たな課題を考慮し今回の文書を公表している。

欧州委員会によるコミュニケ

欧州委員会は、2003年6月に移民と融合・雇用に関するコミュニケを提示した。今回のコミュニケは主に4部から成り、まず1は加盟国とEUレベルでの移民融合政策の現状、2は労働力不足や高齢化といった観点から見た移民の役割、3は融合政策の課題、4は今後の政策展望を、検討するものとなっている。

EUでは移民の融合政策についての議論が盛んに行われている。1は、この問題に対するEUと加盟国レベルでの取り組みを分析し、その上で共通の具体策の策定や新たな課題に対応するためにEUレベルでの団結した行動が必要であるとしている。

2では、将来予想される労働力不足や人口の高齢化といった課題を考慮し、より持続的な移民の受け入れが必要であろうとの見解が示された。コミュニケは、移民が経済や雇用に与える影響を積極的に評価し、リスボン戦略で示された目標達成のためにもまずEU域内で居住している移民を含めすべての人的資源を結集しなければならないとした。今後は、移民の受け入れと定着に関する施策を整備し、移民の融合を図ることが重要となる。

3は移民の融合政策を扱っている。欧州委員会は、融合政策を進める上で融合の経済・社会的側面だけでなく、文化的・宗教的多様性や市民権・政治的権利といった問題も考慮する包括的なアプローチの重要性を強調している。そして、融合政策の成否を握る要素として、労働市場へのアクセス、教育訓練、住宅・都市問題、医療・社会的サービス、社会的・文化的環境整備、国籍取得などの問題が検討されている。

4は、これまでの分析からEUがこれまで以上に移民の融合政策を効率的に展開する必要に迫られているとして、法的枠組の強化や関連諸施策の調整の迅速化等を求めている。特に国籍取得や欧州雇用戦略、貧困、差別等の分野で具体策が検討されている。また欧州移民ネットワーク創設に向け既に準備段階に入ったという。

EIROの人口移動と労使関係に関する報告書

欧州労使関係観測所(EIRO)は、EU域内や域外からの移民増加を受けて、この問題に関し労使関係の観点から検討した「人口移動と労使関係(Migration and Industrial Relations)」と題する報告書を公表した。

報告書は、まず人口移動や移民労働者の現状、そして移民に関わる立法や政策等の概略を示した上で、この分野でのソーシャル・パートナーの取り組みや労働協約における合意内容等を報告している。

まず報告書は、冒頭で移民や人の自由移動に関するEUの方針を確認し、本報告の目的が人口移動が労使関係にどのような影響を与えているかを分析することにあるとしている。

次に人口移動に関する基本的情報が示され、現時点においてEU加盟15カ国におよそ1900万人の移民が生活しているという。ここでの移民とは、居住している国の国民ではない者を指す。このうち1300万人はEU域外からの者により占められている。EU域外からの移民は増加傾向にあり、それに対応し移民労働者(外国人労働者)も増えている。そしてEU加盟国の国民とEU域外からの移民労働者を対比する形で、就業率や失業率、契約期間の有無や賃金などの労働条件を分析している。

続いて、移民に関わる立法や政策(具体的には労働許可・滞在許可、融合政策、平等取扱い・差別禁止等)の概要が示された。

そして最後の「ソーシャル・パートナーと人口移動」の部分では、移民政策へのソーシャル・パートナーの関与、この問題に関するソーシャル・パートナーの見解、労働協約における合意状況が詳細に報告されている。まずソーシャル・パートナーの関与についてだが、ほとんどの加盟国で移民労働者に関わる問題についてソーシャル・パートナーは政府からの諮問を受けている。またソーシャル・パートナーの立場を左右する共通の課題として、労働力不足と移民労働者に対する平等取扱いが指摘され、特に移民労働者受け入れについては労使間での対立が見られる。次に団体交渉や労働協約において移民に関わる問題がどの程度扱われているかに関し、多くの加盟国ではこの問題が主要な団体交渉事項となっていないことが明らかとなった。全国的な協約や産業別協約で平等取扱いなどに触れるものも見られるが、一部の国を除き企業レベルでの交渉事項となることはまれである。

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