2002年の労働と社会保障の統計

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年8月

労働社会保障部と国家統計局は、2003年5月8日、2002年の労働と社会保障の統計を発表した。2002年、労働社会保障部は、下崗労働者の再就職事業と年金・医療制度加入者の促進事業を強力に推進した結果、一定の成果が見られた(注1)

1.就業状況

(1)概況

就業人口は、対前年比715万人(約1%)増加し、7億3740万人に達した。各産業別では、第1次産業が3億6870万人(50.0%)、第2次産業が1億5780万人(21.4%)、第3次産業が2億1090万人(28.6%)になった。前年との比較では、第1次産業は変わらずで、第2次産業が0.9%の減少、第3次産業が0.9増加した。これは、国有企業のリストラ、サービス産業の成長、商業における自営業者の増加を反映している(注2)(注3)

中国の経済成長を支える都市の就業人口は、2001年と比べて840万人増加し2億4780万人に達した。特に、都市の私営企業の就労者と自営業者が609万人増加し4267万人に達した。

失業率は、0.4%増加し4%となった。なお、労働社会保障部は、政府発表の失業率が現状を表していないという国内外からの批判に応え、2003年中に、調査方法の大幅改定を予定している。

(2)下崗労働者

党と政府が、2002年の重点事業にして取り組んできた国有企業の下崗労働者は、前年の515万人から105万人(20.4%)減少し410万人になった。2002年中に、再就職服務センターに登録している下崗労働者の内、延べ120万人が再就職を果たし、登録下崗労働者の再就職率は、26.2%に達している。

しかし、下崗労働者の中には、技術が低く再就職が難しい者、再就職を諦めた者、退職年齢に達しているため再就職の斡旋が受けられない者もかなり存在すると見られ、こうした労働者の不満は相変わらず根強く、地方都市では、集団で政府に抗議するケースも発生している。

(3)職業紹介状況

労働社会保障部が、近年積極的に取り組んできた公共の職業紹介事業と労働市場整備では、90の主要都市で、求人・求職情報のネットワーク整備が進み、労働市場の各職業毎に需給関係を分析し発表するシステムが整備されつつある。

2002年末の各種職業紹介機関は2万6158所となった。職業紹介を通じて職を得た労働者は、延べ1354万人に達し、前年比10.2%の伸びを示した。この内、労働社会保障部門の職業紹介所(注4)は、1万8010所あり、延べ978万人が職を得た。

(4)職業訓練

2002年末現在で職業訓練学校は、3075校あり、在校生は前年比18万人(13.3%)増の153万人に達した。また、職業訓練学校では、延べ208万人の労働者が訓練を受け前年比27.6%という大幅な伸びを記録した。

各企業、工会、各種団体が設立した職業訓練センター、職業訓練機関は、2万815所に達し、延べ1071万人が参加した。この内、518万人の失業者と下崗労働者が、こうした職業訓練に参加した。

(5)技能検定

WTO加入以後、労働社会保障部は、労働者の質の向上のために、職業資格検定制度の整備を進めた。2002年末で、各種職業検定機関は、8517に達した。662万人が各種職業資格検定試験を受験し、合格率は84%で556万人が資格を得た。

ただし、2002年には、ニセの職業資格検定証書問題が発生したため、外資系企業の中には、海外の組織が実施する資格検定による資格所持者を重要視する動きが見られた。

図1:就業人口(万人)
画像:グラフ1

出所:労働社会保障部、国家統計局

図2:産業別の就業人口構造(%)
画像:グラフ2

出所:労働社会保障部、国家統計局

図3:登録失業者数(万人)
画像:グラフ3

出所:労働社会保障部、国家統計局

2.各種社会保障

(1)養老年金制度

養老年金制度に加入している労働者と退職労働者は、1億4736万人に達した。年金は、企業から支出される時代から、政府によって支給される時代に入り、99.4%が、政府から受給している。労働社会保障部の発表によると、大部分の退職労働者が、規定通りに年金を受給しており、赤字企業の年金未払い問題は、減少している。

しかし、財政状況の良好な単位では、単位独自による水増し年金を支給する制度が相変わらず存在している。このため、退職労働者間の所得格差が、生じている。2002年末の退職労働者は、前年と比べて205万人増加し、4223万人に達した。1人当りの平均年金額は、前年比13.7%増加し8849元に達した。

2002年に徴収した養老年金の掛け金総額は、前年比22%増加の2551億4000万元に達した。また、これ以外に、財政部からの補助金が408億2000万元あり、その他の収入を加算すると3171億5000万元の収入があった。一方、支出は、2842億9000万元あった。積立金残高は、1608億元になった。

労働社会保障部は、今後の課題として、農民向けの農村養老年金制度への加入を促進しており、現在は5462万人が加入している。

(2)医療保険制度

全国の大部分の都市部で医療保険制度が実施され、加入者は、前年比2114万人(29%)の増で、9400万人に達した。在職労働者と退職労働者別では、在職労働者が、1455万人(26.6%)増加して6926万人に、退職労働者は、658万人(36.3%)増加し2474万人に達した。

医療保険制度収入は、607億8000万元あり、支出は、409億4000万元だった。積立金残高は、450億7000万元に達した。

現在は、医療保険制度は黒字であるが、今後、一人っ子政策の人口構造への影響が顕著になるに従って財政問題が表面化すると予想されている。ただし、2002年における、退職年齢や給付開始年齢に対する審議状況は、公開されていない。

(3)失業保険制度

政府の強力な指導にもかかわらず、失業保険制度の加入者は、減少した。他方、受給者は、大幅に増加した。

2002年末の失業保険金の受給者数は、前年比128万人(41.0%)増加し440万人に達した。財政状況では、加入者は173万人減少したが、賃金が上昇したことにより15.3%の増収で215億6000万元となった。支出は18.9%増加し186億6000万元に達した。

労働者が、失業問題に対し冷静に対応するようになったこと、企業が、余剰労働者を再就職研修センターを通さずに労働市場に出すようになりつつあることを考慮すると、今後失業保険金の受給者は一層増加すると予想される。

(4)社会保険基金監督制度

1990年代、各単位が管理していた社会保障が、政府の管理に移行され、各種保険制度が設立されるに従い、地方のボスや基金管理担当者による基金の無断流用問題が社会問題となった時期があった。このため、労働社会保障部は、基金の監督業務を強化してきた。

239都市で基金監督機関が設立され、13の省、自治区、直轄市で省級の社会保障監督委員会が設立された。また、28の省、自治区、直轄市と205の地方都市で、社会保険基金管理に対する直通の苦情受付用電話が設置された。

図4:医療保険加入者数(万人)
画像:グラフ4

出所:労働社会保障部、国家統計局

図5:失業保険金の受給者数(万人)
グ画像5:グラフ

出所:労働社会保障部、国家統計局

3.賃金

都市労働者の年間平均賃金は、前年比14.3%増で1万2422元となった。
単位別の賃金状況を見てみると、国有の単位で就労する労働者の平均賃金は、1万2869元、都市集団企業の労働者は7667元、その他の単位は1万3212元に達した。

企業は、賃金制度改革を積極的に推進しており、2万3000社がポスト賃金制度(注5)を導入し、3万社が賃金集団協議制度(注6)を実施している。
29の省、自治区、直轄市で、賃金ガイドライン制度を設立し、118の大中の地方都市で、労働市場において指標賃金(注7)を公表している。
特に、地方都市で公表され始めた指標賃金は、当該地域への進出企業、あるいは進出を検討している企業に好評を得ている。

図6:都市部の労働者の年間平均賃金額(元)
画像6:グラフ

出所:労働社会保障部、国家統計局

4.労使関係

労働争議件数は、激増した。各級の労働争議仲裁委員会が受理した労働争議件数は、前年比19.1%の増加で18万4000件、関係した労働者は前年比30.2%の増加で61万人に達した。この中の、集団労働争議件数は、1万1000件で、前年比12%の増加だった。各級の労働争議仲裁委員会が仲裁した労働争議は、17万9000件で仲裁率は91%に達した。

このように、労働争議が激増した背景には、次のような理由が考えられる。

  • 国有企業が、市場経済化の進展、中国のWTO加入という外部経営条件の激変の中で、余剰労働者を整理せざる得なくなった。
  • 労組が、団結して経営者側に要求を提出するケースが増加した。
  • 中華全国総工会は、官製の労働組合という方針を一部改め、企業レベルの労組に積極的な労働組合運動を展開するよう指導を開始。
  • 労働者が、マスメディアを通じて、海外の労働組合運動を認識し、それを参考にし始め、経営側に対し積極的に要求を提出するようになった。

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