SARSがオーストラリアの労働関係に与えた影響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年8月

多くの国々でSARSに対する懸念が広がる中で、SARSの発生はオーストラリアの労働関係に部分的な再考をもたらしている。

SARSによる影響は、航空産業や観光業などで特に顕著である。カンタス航空によると、香港への搭乗予約は64%減少し、SARSの影響を受けていない地域でも予約が全般的に減少しているという。こうした事態が労働関係にも影響をもたらしている。

第1に、多くの企業が海外渡航を禁止したために、航空業界にとって事態はますます深刻となっている。そのためカンタス航空は2003年9月末までに3500人程度の人員削減を行う方針を示した。労組は人員削減数が多すぎるとし、カンタス航空がこの機に乗じて長年求めていた人員削減を実行しようとしていると主張している。

第2に、企業による海外渡航禁止措置がアジアでのビジネスを困難にしている。企業はこれに対処するために、遠隔会議など様々なテクノロジーを利用するようになった。そのため他国では普及していなかった技術などが積極的に取り入れられるようになった。

第3に、技術の進展が在宅勤務の可能性を広げた。特に隔離対象者にとって在宅勤務は重要な意味を持ち、企業は隔離対象者にラップトップコンピュータを提供し、在宅勤務を認めている。ただこうした措置は上級労働者や技術系労働者に限定される傾向にある。

第4に、SARS感染地域からの帰国者の処遇をめぐり問題が生じている。感染地域からの帰国者には10日間の隔離が課されている。問題は誰がその費用を負担するかである。たとえばANZ銀行は、感染地域に滞在し在宅勤務が不可能な労働者に10日間の疾病休暇か年次休暇を取得させる方針であると報じられた。この措置は、渡航理由が私的なものか業務によるかを問わない。ウェストパック銀行も同様の方針を打ち出したが、個人的な旅行に限定していた。これに対し世論や労組の反発は大きかった。金融部門組合(FSU)は、個人的旅行で病気になった者については疾病休暇の利用を認めたが、会社の業務による渡航者については疾病休暇等の利用は認められないと主張した。FSUは安全な労働環境を提供する責任は使用者にあるとの見解をとっている。結局、両銀行とも感染地域からの帰国者に課される強制隔離期間について賃金を支払うことに合意した。

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