2002年雇用関係法施行
―フレックス勤務請求可能に
イギリスでは政府が「Work Life Balance」キャンペーン(注1)を行い、仕事と家庭生活のバランスを図る働き方を推奨している。その一環として、働く親がフレックス勤務や在宅勤務を請求する権利が2003年4月6日から認められるようになった。
対象となるのは、6歳未満の子供もしくは18歳未満の障害を持つ子供がいる従業員で、申請日までに26週間以上連続して働いていれば、フレックス勤務を請求できる。
請求できる内容は、1.労働時間の長さの変更、2.就労時刻の変更、3.在宅勤務。約370万人が対象になり、労働力人口の15%がこの資格を得るものとみられる。
従業員からフレックス勤務を要求された場合、事業主側は、1. 追加費用の負担が生じる、2.顧客需要への対応能力に障害が生じる、3.現存のスタッフ間で職務を分担できない、4.追加スタッフを雇用できない、5.品質を維持できない、6.企業の業績に負の影響が生じる、7.当該従業員の希望する就労期間では十分に職務を果たせない、8.企業組織の抜本的な再編が計画されている、の8項目の理由で請求を拒否できる。
手続きの流れについては、従業員が、どのようなフレックス勤務体制を希望するか、変更を開始する期日、世話をする子供との関係などを明らかにした書面を提出し、提出後28日以内に、雇用主と従業員との間で希望する勤務体制について話し合いがなされる。話し合いから14日以内に、雇用主は要求の許諾について従業員に書面で通知する。
この法律は、現政権が導入した法律の中で最も影響が大きなものであり、また、事業主に多大な影響を与えるという見方もある。貿易産業省の調査「Work-Life Balance 2003」によると、現在フレックス勤務をしていない労働者のうち、49%がフレックス勤務をしたいとしており、36%以上が労働時間を短くしたいとしている。また4000人の求職者を対象とした別の調査でも6歳未満の子供をもつ親の77%は、新しい仕事を選ぶ際にワークライフバランスは重要な要素であると回答していることからも、従業員はこの権利の行使に期待をしていると考えられる。
この法律の導入により、離職率の減少や社員のモラールの向上が期待できるとされる一方で、労働力の少ない中小企業の負担が大きくなること、子供のいない従業員はフレキシブルに働く権利が与えられず、その結果、不平等になることが懸念されているほか、老人の介護をする従業員も対象にすべきである、といった点も指摘されている。事業主側に従業員からの請求を拒否する余地をあまりに多く与えているとする見方もある。
長時間労働
メンタルヘルス財団(Mental Health Foundation)の調査「Whose Life is it Anyway ?」によると、週60時間以上働いている人は6人に1人で、ヨーロッパで一番割合が高く、男性では17.1%が、女性では7%が週60時間以上働いている。また、61%の人は長時間労働の結果、個人の生活に悪影響を被ったとしている。Andrew McCulloch同財団チーフエグゼクティブは、「ワークライフバランスに関わる法律が施行されたが、長時間労働を行う人が増えつづけている。(中略)全ての人がメンタルヘルスのためにワークライフバランスを必要としていることを認識しなければならない。」としている。
パトリシア・フューイット貿易産業相は、この法律が3年後に望ましい効果を上げていない場合は、法律をより強化する必要について検討するとしている。
すでに導入ずみの企業も
こうした長時間労働の実態の一方で、イギリスの働く女性の40%あまりはパートタイム労働者であり、EUの多くの国が10~30%台であるのに比べて高い割合となっている。また、前述の「Work-Life Balance 2003」によると、回答企業の82%がすでに何らかのワークライフバランスの慣行があるとしている。
父親休暇の導入
今回は男性の従業員にも「父親休暇」が認められた。2003年4月6日以降に生まれた子供の父親に対し、2週間の有給休暇が与えられる。
出産育児休暇の延長
有給の出産育児休暇も8週間延長され、26週間となった。1週間に従前の稼得の90%まで(最低100ポンド)を受給できる。当該事業所で妊娠前に26週間以上働いている女性は、さらに26週間の無給休暇が取得でき、合計で1年間の休職が認められることとなった。
注
- ワークライフバランスキャンペーンは、イギリス政府が2000年3月に開始したもので、あらゆる事業主、従業員に仕事と家庭生活のバランスをとる働き方を推奨するものである。ワークライフバランス・チャレンジ基金が設立され、ワークライフバランスの推進のために、過去3年間で約400社を対象に1050万ポンドが拠出された。(本文へ)
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