高まる育児給付引き上げ要求

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年6月

昨年9月の総選挙の1カ月ほど前、政府は中産階級の支持を失いつつあるのではないかと懸念していた。そこで蔵相は、疾病給付と育児給付の算定対象となる所得の上限を2003年7月1日より大幅に引き上げると約束した。

現在、休業中の労働者には基礎額の7.5倍の所得を年間所得の上限として12カ月で割り、その80%が支給される。現在の基礎額は3万8600クローネである。つまり、所得月額が2万4125クローネを超えている場合、どれほど高額の所得を得ていようと、1万9300クローネの給付しか受けられない。

政府は2002年、この所得上限を基礎額の10倍(1カ月3万2166クローネ)に引き上げると約束していた。これが実現すると、給付の最高額は1カ月2万5733クローネまで増え、かなりの増額となる。

ところが数週間前、首相は経済が予想ほど拡大していないことを理由に、所得上限の引き上げは延期せざるを得ないと発言した。すぐに労働組合などから抗議の声があがった。現在、全労働者の約16%(約69万5000人)は所得が基礎額の7.5倍から10倍の範囲にあるためである。

三大労組連合、すなわち、ブルーカラーのスウェーデン労働組合総同盟(LO)、ホワイトカラーの職員労働組合連合(TCO)、専門職の大卒専門技術労働者労組連合(SACO)は、より高い費用が必要な疾病給付の引き上げはさておいても、育児給付は2003年夏に引き上げるべきだという要求を行った。

育児給付の引き上げを強く要求する理由は、男女どちらが育児休業を取るべきかという長年の懸案事項と関係が深いからである。つまり、父親が家庭で子どもと過ごす時間をもっと増やすにはどうすればよいかという問題と関係する。現在、高所得層には男性の方がかなり多い。従って、母親でなく父親が休業すると、一家の収入がより大幅に減ることになる。そのため男性の育児休暇取得を促進するために、所得上限の引き上げが期待されている。

現在、妥協案として、育児給付の給付水準を2段階に分けて引き上げるという案が出ている。まず2003年夏に所得上限を基礎額の9倍まで引き上げ(月2万8950クローネ、給付額は最高月2万3160クローネ)、さらに2003年以降に基礎額の10倍に引き上げる。

もっともスウェーデンでは、低年齢の子どもを持つ父親の多くは、育児責任を担うことに依然として消極的であるようだ。育児休業取得者に占める男性の比率は15.5%で、ほとんどの政治家はこの数値を低すぎるとみている。

政府は最近、将来は父親と母親が同等に育児休業をとるべきだという見解を示した。父親と母親が3分の1ずつとり、残り3分の1はどちらかがとるというものだが、研究調査機関SIFOが行った世論調査によると、18歳から45歳の男性の87%、同じく女性の85%がこれに反対している。

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