非正規労働者の雇用実態と派遣労働者の直接労働者の直接雇用をめぐる判決

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年6月

非正規労働者をめぐっては、盧武鉉政権が社会統合の観点から労働条件における差別解消を雇用政策の柱に据える一方で、労働界も雇用安定や組織拡大の狙いからその組織化および保護対策に力を入れるなど、政府や労働界の取り組みが目立っている。一時、新政権側が差別解消の一環として非正規労働者に対して「同一労働同一賃金」の原則を適用するという理想論をいきなり持ち出したため、政労使の間でその是非をめぐる論議が盛り上がったこともあった。しかし、ここにきて、政府の方針は、非正規労働者の雇用実態をより正確に把握するとともに、非正規労働者を多用する公共部門でとりあえず差別解消の範を示すなど、より現実的な対応を優先する方向に定まったようである。

以下、4月中旬現在明らかになった非正規労働者の雇用実態とともに、その一形態である派遣労働者に対して直接雇用を義務付けた判決を紹介する。

非正規労働者の雇用実態

非正規労働者の雇用実態を探るにあたっては、まず労働条件における正規労働者との格差が拡大傾向にある点で概ね意見の一致をみているものの、その規模をめぐっては関係省庁や研究機関などの間で統計上のばらつきが大きく、意見が大きく分かれている。そのため、非正規労働者を十把一からげに扱うより、雇用形態別にその実態を把握するのが保護対策の立案や保護立法においてより有効であるという声が高まっている。

その一環として、統計庁の経済活動人口調査附加調査(毎年8月)に加えて、韓国労働研究院も民間企業6万カ所(非正規労働者136万人雇用、各地の労働監督官庁で各事業所を直接訪問し、集めた基礎データによる)を対象に雇用形態別実態を調査し、3月25日に発表した。

まず、雇用形態別分布をみると、日雇いが26.8%で最も多く、次いで、短期契約25%、時間制18.3%、派遣型請負16%、自営型請負9%、派遣3.7%などの順となっている。

第二に、時間当たり平均賃金は5926ウォンで月平均定期給与は91万6000ウォン、特別給与を含む賃金総額は93万3000ウォンとなっている。時間当たり平均賃金でみると、非正規労働者のそれは正規労働者(5人以上事業所、9760ウォン)の60%にとどまっている。

そして雇用形態別にみると、自営型請負は1万90ウォンで最も高く、次いで短期契約6127ウォン、日雇い5880ウォン、派遣5478ウォン、時間制5305ウォン、派遣型請負4227ウォンなどの順となっている。時間当たり賃金の分布をみると、2000-4000ウォン未満が37.9%で最も多く、次いで、6000ウォン以上33.1%、4000-6000ウォン25.8%、2000ウォン未満3.2%などの順となっている。月平均定期給与でみると、50-100万ウォンが46.8%で最も多く、次いで、50万ウォン未満22.1%、100-150万ウォン19.8%、150万ウォン以上11.3%などの順となっている。このように非正規労働者の間でも雇用形態別に賃金格差が大きく、平均値を上回る層が3割以上で、最低賃金(51万ウォン)にも満たない層も2割以上を占めている。

第三に、賞与と退職金の支給対象となっているのは、それぞれ33%、47%にとどまっている。そして社会保険の加入状況をみると、労災保険には52.2%、雇用保険には43.7%、健康保険には40.8%、国民年金には38.2%がそれぞれ加入している。雇用形態別にみると、短期契約、派遣、派遣型請負は70%前後が加入しているのに対して、日雇い、時間制は20-40%、自営型請負は10%を下回っている。

第四に、週当たり労働時間は39.7時間で、雇用形態別にみると、派遣型請負が49.1時間で最も長く、次いで派遣44.5時間、短期契約43.8時間、日雇い35.6時間、時間制31.7時間などの順となっている。以上のように正規と非正規労働者の間のみでなく、非正規労働者の間でも雇用形態別に労働条件の格差が大きい。

このような労働条件の格差のゆえ、非正規労働者に対する需要は依然として根強い。オンライン就職情報会社ジョブリンクが求人企業1036社と求職者3584人を対象に非正規労働者の雇用状況について調査したところによると、「昨年より採用を拡大する」と答えた企業は45%、「昨年の採用規模を維持する」のは38%、「採用規模を縮小する」のは11%などとなっている。非正規労働者を採用する理由については「人件費削減」が36%で最も多く、次いで「雇用管理上の柔軟性確保」が33%、「業務量の変化への対応」が17%などとなっている。その反面、非正規労働者雇用上の問題点としては、「頻繁な離職」(40%)、「雇用不安の心理的な影響で業務遂行上の効率性低下」(30%)、「正規労働者との摩擦」(18%)、「低い忠誠心」(9%)などが挙げられている。「人件費削減および柔軟性向上」のメリットと「低い定着率および効率性低下」のデメリットを天秤にかけながら、非正規労働者の採用に踏み切らざるを得ない企業が多いことがうかがえる。

次に、求職者側の意見を聞いてみると、その88%は「正規職への就職が難しい場合、非正規職への就職も視野に入れる」と、またその80%は「非正規職でのキャリアは将来正規職への就職に役立つはずである」と答えている。非正規労働者の採用において改善すべき点としては「給与および福利厚生」(46%)、「雇用の安定性確保」(24%)、「法制度の整備」(20%)、「教育およびキャリア開発機会の提供」(8%)などが挙げられている。これらの要望は求人企業側の思惑とは裏腹の関係にあるだけに、正規と非正規労働者の間における雇用および労働条件の格差是正に政府や労働界がどこまで介入すべきかが問われているのである。

このような非正規労働者の雇用増加が目立つのは通貨危機後急激な構造調整とともに経営合理化(人件費削減)にいち早く取り組んできた金融部門である。金融産業労組によると、都市銀行9行における非正規社員は2002年末現在1万8200人で全社員8万3300人の21.8%を占めている。そのうち、国民銀行のそれは30%、外換銀行、韓美銀行は27%前後に達するなど、優良銀行ほど非正規社員への依存度が高い。特に、窓口業務やコールセンターなど女性社員が多い部門で非正規社員の採用が急増したこともあって、非正規社員の84%は女性である。全女性社員3万3700人のうち、非正規社員は45%に上っている。

金融産業労組は非正規社員の組織化および労働条件の改善を重要課題と位置付け、非正規社員向け労働協約を作成する方針を打ち出している。ただし、「正規職と非正規職との間では業務内容の違いに比べて労働条件の格差が大きすぎる点」は認めながらも、「経営側が人件費削減のために、非正規職の処遇改善の代わりに正規職の労働条件引き下げに動く恐れもある点」を警戒するなど、慎重な構えを崩していない。

その一方、韓国労総傘下の17非正規労働者労組(組合員3000人)は3月30日、連合組織として「非正規労働組合連帯会議」を結成し、政府に対して「非正規労働者の労働3権保障、同一労働同一賃金の実施、公共部門における非正規労働者の雇用実態調査、非正規労働者の保護立法など」に早急に取り組むことを求めた。その他に、韓国労総や民主労総も非正規労働者の組織化や保護対策に本格的に取り組む方針を明らかにするなど、労働界の動きがより活発になっている。

不法派遣労働者の直接雇用を義務付ける判決

一方、非正規労働者の一形態である派遣労働者をめぐって、「不法、合法を問わず派遣労働者を2年以上継続して使う場合、雇用主には直接雇用義務付け条項が適用される」とする判決が下され、派遣労働者の雇用安定を保障する試みとして注目されている。

ソウル高裁は3月14日、派遣労働者3人が中央労働委員会を相手に起こした「不当解雇救済再審判定取り消し請求訴訟」で原告勝訴の判決を下した。派遣労働者3人は人材派遣会社からS社に派遣され、2年が過ぎた時点ですでに直接雇用の身分になったと主張したのに対して、S社は契約職への切り替えを要求し、それに応じないことを理由に解雇した。これに対して、派遣労働者3人は「不当解雇にあたる」として訴訟を起こしていた。一審では「不法派遣労働者には雇用契約自体が成立しないため、派遣法上の直接雇用義務付け条項を適用することはできない」として、原告敗訴の判決が下された。

今回ソウル高裁でこの一審の判決が覆されたのである。その判決要旨は次のとおりである。すなわち、「S社は形式上人材派遣会社と請負契約を結ぶ形で派遣労働者を使ったが、これは事実上不法派遣にあたる。しかし、原告側の派遣が合法ではないにしても雇用主が2年以上継続して派遣労働者を使う場合は、派遣労働者を直接雇用したものとみなすべきである。そして、派遣労働者の担当業務が派遣法で認められている対象業務に当たらないため、直接雇用義務付け条項を適用することはできないと雇用主は主張するが、合法的な派遣業務のみに限定して直接雇用義務付け条項を適用することになれば、派遣労働者の雇用安定という立法の目的に反して、派遣法で認められていない業務に不法派遣労働者を使うよう雇用主を仕向けてしまうことになりかねない。派遣法の基本趣旨は、雇用主に派遣労働者を常時使うのを認め、正規労働者を派遣労働者に切り替えるのを許容するのではなく、2年という法定期間がすぎても派遣労働者を継続して使う場合は、派遣労働者を正規労働者に切り替えるのを義務付けることで労働者の雇用不安を取り除くところにある」というものである。

今回の判決は「不法、合法を問わず派遣労働者を2年以上継続して使う場合、雇用主には直接雇用の義務が発生する」点を明らかにすることで、公然の秘密となっている不法派遣労働者の雇用慣行にメスを入れるところにその狙いがあるとみられている。

下請け契約を装った不法派遣とみなされるケースが目立っているのは製造業部門での社内下請けである。金属産業連盟と韓国非正規労働者センターが従業員500人以上の大手事業所52ヵ所(正規労働者547人、社内下請け労働者875人合わせて1422人)を対象に調査したところによると、社内下請け労働者のうち、大手事業所の経営者や正規労働者の指示・監督を受けるのは45.9%、特に鉄鋼や機械金属部門の場合はそれぞれ84.2%、70.7%に上るなど、下請けを装った不法派遣とみなされるケースが目立っている。その背景には正規労働者と社内下請け労働者の労働条件の格差がある。まず、時間給では正規労働者が平均4423ウォンで、社内下請け労働者は3081ウォン(69.7%)、それに賞与などを含めた月平均給与では、正規は226万ウォンになるのに対して、社内下請けは134万ウォン(58.9%)にとどまるなど、その格差はさらに広がる。その反面、労働時間をみると、社内下請けは週55時間で、正規の週50.9時間より長い。

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