ハンガリー/多国籍企業:解雇の増加 (最近の動き)

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年6月

有名なオランダ電機企業であるフィリップスは、オーストリアとの国境に近いSzombathely市で500人の従業員を解雇している。欧州大手建設会社であるSvanskaは、我が国から撤退しようとしている。多くの多国籍企業は、この撤退の理由として市場環境の悪化を指摘している。ハンガリーの経済環境の悪化を説明する様々な動機を見ると、諸多国籍企業の「退出」の理由はいくつかある。

世界的需要減退による生産縮小(注1)

従来型のPCモニターの需要の減少と更なるコスト削減のため、ハンガリーフィリップス社は、中国に生産を移転しており、この経営上の決定によって、Szombathely市の工場で500人の雇用が喪失される。ハンガリーから中国への生産移転の動機は、我が国のEU加盟やハンガリー通貨(フォリント)の強さには関係ないが、従来型モニターへの需要減とLCDモニターへの需要増に関係する。こうしたモニターの移行は、テープレコーダーや従来のレコードプレーヤーの需要減と類似している。

(フィリップスは、1989年からハンガリー市場に進出し、生産規模は継続的に増加した。ハンガリー工場の経営陣は、同社本社の将来戦略計画を知らされていない。2001年の統計によれば、同社は、年間売上で第3位である。2001年の輸出額は、5,330億フォリントであった(注2)。同社は、ハンガリーの三市Szombathely, Gyor, Szekesfehervarに工場を持っている。Gyor市では、光メモリ及びラジオハイファイ機器が製造されており、3千人を雇用し、経営陣はさらに(300人)雇用を増やそうと計画している。この動きを支えるため、雇用政策・労働省は、6千万フォリントの助成をしている。)

ハンガリー政府は、付加価値の高い生産又はサービスをもたらす投資を歓迎しているが、過去数ヶ月の工場閉鎖は、我が国の労働市場に深刻な影響を与えている。

フィリップスの工場閉鎖の発表前に、有名な多国籍企業である靴製造のサラマンダーは、Bonyhad市での工場閉鎖を発表した。最新情報によれば、ドイツの同社所有者たちは、560から900人の解雇を意図している。昨年もっとも厳しく抜本的な工場閉鎖は、IBMがSzekesfehervar市で決定したものであり、同地は1990年代にハンガリーで最も急成長した工業地帯の一つであった。このアメリカ企業はハードディスク工場を閉鎖して3,700人を解雇した。同市は、「危機委員会」を設置して、こうした地元市場での大規模な雇用削減の影響に対処しようとした。しかし、IBMはハンガリーからの完全な撤退は意図していない。同社は特別の税制優遇を受け、我が国での営業期間中は会社税を支払わない。Vac市の工場で、電子デバイスの製造を続けているからである。(注:多国籍企業による人員整理は、我が国全体で7,000人となった。)

表1 生産工場を閉鎖した外国企業と雇用への影響2002-2003年
会社 製品種別 人員削減の規模 工場閉鎖発表
サラマンダー
(工場閉鎖)
560-900 2003年1月
ケンウッド
(中国へ移転)
カーラジオ 190 2002年12月
IBM
(工場閉鎖)
ハードディスク 3,700 2002年10月
フレクソトロニック
(中国へ移転)
Xボックス 1,200* 2002年5月
マンネスマン
(中国へ移転)
カーラジオ 850 2002年10月
  • 出所:Nepszabadsag、2003年1月15日、p.15
  • 注*:公式発表では1,200人の解雇だったが、実際は300人だった。

ハンガリー経済における技能の質の低下(注3)

ドイツ・ハンガリー商工会議所は、技能者の供給を最近評価し、非常に問題があるとしている。ほとんどの外資系企業は、ハンガリーの経済実績には満足しているものの、我が国への投資意欲についてはそうではない。ハンガリーへの投資意欲の弱さの理由としては、次のことが挙げられる。

  1. 賃金の急上昇
  2. 社会的コストの高さ
  3. 熟練労働者の不足
  4. ハンガリー通貨の強さ

同会議所の報告によれば、職業技能の状態は非常に危機的である。技能者の供給が企業の需要を満たせないが、その理由は求職者の多くが高卒者だからである。この調査の対象企業は、社内訓練制度のみではこの問題を解決できない。

雇用労働省の最近の措置は、訓練に関する問題について企業を援助しようとするものである。この取り組みの中で、同省は、中小企業に対して、競争力を高めるための訓練に5億フォリント程度の援助を計画している。昨年(2002年)、企業の訓練ニーズは増したが、訓練への国家助成金を利用したのはほとんど大企業であった。雇用政策・労働省の新しい取り組みは、2002年に利益を上げられなかったか又は訓練資金を受けられなかった企業を援助しようとするものである。

上記の支援制度への企業の参加については、企業は訓練用拠出金(企業賃金基金の1.5%)を支払っているが、その金額は150万フォリントを下回っている。国家助成金の上限は一社あたり20万フォリントである。労働省の推計によれば、この助成金は、5,000から15,000人の従業員の訓練を補助する。2002年には、33億フォリントが訓練に支出され、訓練参加者が6万人であったことに注目すべきである。各種のコースの中で、語学訓練の分野でもっとも増加が見られ、語学訓練時間数は2000年に3,817時間、2002年に25,000時間であった。

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