経営幹部への報酬をめぐりコーポレートガバナンスが焦点に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年6月

オーストラリアでは退職した経営幹部に対し過大な報酬が支払われていることがたびたび発覚し、これが企業業績悪化の最中に行われていることが大きな議論を引き起こしてきた。特に老齢退職年金基金関連産業(生保や銀行等)では2002年の業績の落ち込みが激しかったにも関わらず、こうした支払いが行われており、コーポレートガバナンスという意味から国民の関心が高まっている。

老齢退職年金基金関連産業の業績悪化は直ちに年金基金のパフォーマンスと退職者の収入に関わるため、ハワード首相は企業に自主規制を求めたが、国民の反発は予想外に強かった。そこで、首相は企業幹部を招き、コーポレートガバナンスに関する自主的基準を策定するというオーストラリア証券取引所の提案を議論するよう強く求めた。

自主的基準の策定とその背景

最近の調査でも、経営幹部会の独立性が十分に保たれていないことが明らかとなっている。たとえば、大手200社のうち75%は独立した経営幹部機関を持っておらず、また75%は自らの業務を審査する機関に関し正式な手続を定めていなかった。従って、経営者が自らの利益を株主よりも優先できる状況にあるといっても過言ではない。

先に示したオーストラリア証券取引所コーポレートガバナンス協議会は、コーポレートガバナンスに関する10の基本原則を明らかにした。

この基本原則は、企業に

  1. 株主の権利を尊重する
  2. 適時にバランスのとれた情報開示を行う
  3. 財務報告の誠実性を確保する
  4. リスクを認識し、それを管理する
  5. 管理監督に関し確固とした基礎を築く
  6. 倫理的かつ責任感のある意思決定を促進する
  7. 価値を高めるよう経営幹部会を体系づける
  8. 業績向上を促す
  9. 公正かつ責任のある報酬の支払いを行う
  10. 株主の法的権利を認識する

などを求めている。

しかしこれらは行為規範としては到底十分とはいえない。

今回、コーポレートガバナンスに関し国民の間でこれだけ強い懸念が広まったのは、退職後の収入に関係していたからである。現在労働者の95%が強制退職年金制度の対象となっており、関連産業全体ではその価値は6000億豪ドルに相当する。同産業でのちょっとした誤りが多くの労働者の老後の収入に大きな影響を与えるために、それだけコーポレートガバナンスに関する基準の策定が強く求められているのである。

ただこれまでの報道でも、自主的基準では不十分であることが指摘されており、年金基金の中には機関投資家として倫理的でない経営幹部を解職するよう求める意向を示す所も出てきている。

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