CPF使用者側拠出率、2年間据え置き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

政府諮問機関の経済再生委員会(ERC)は2月6日、シンガポールの経済発展戦略の指針を示した最終報告書を発表した。提言の一つとして、中央積立基金(CPF)の使用者側拠出率を向こう2年間据え置く案を盛り込んだ。政府はこれを受け入れ、2003年度予算案に反映させたが、労働界では失望感が広がっている。

CPFとは

中央積立基金(CPF)は、老後の生活原資を国営基金の個人勘定に積み立てる国立積立基金の一種で、その内実は「強制積立貯蓄制度」である。1955年に被用者の老後の所得保障、死亡・傷害時の生活保障を目的に導入され、以降、住宅保障、財産形成、医療保障の機能を併せ持つ総合的な社会保障システムとして発達してきた。

原則として、すべての被用者が加入者となり、その使用者はCPFへの掛金の支払い義務を負う。掛金は年齢と所得に応じて使用者と本人が負担し(現行は一般拠出率が使用者=16%、本人=20%)、個人名義のCPF口座に拠出する。口座は用途にあわせて分かれており、掛金は年齢層ごと設定された割合で各口座に拠出される(注1)

拠出率の動向

CPFの拠出負担は使用者にとって人件費として決して軽くなく、不況時には人員削減の一因にもなっている。一般の拠出率は1994年以来、従業員(加入者本人)と使用者とも従業員月収の20%であったが、1997年に始まったアジア経済危機の対策の一環として企業コストの軽減を図るため、1999年1月に使用者拠出率は20%から10%に引き下げられた。その後、段階的に16%まで戻し、労働界では20%への完全復帰を求める声が日増しに強くなっていた。

ERC最終報告書におけるCPFについての提言

経済再生委員会(ERC)は2001年の不況を受け、ゴー・チョクトン首相の提案により同年12月に設置された。リー副首相が委員長を務め、7つの小委員会(注2)、29の作業部会から構成されている。

今回の最終報告書でERCは、経済の先行きが不透明であることから、本格的な景気回復は2004年にずれ込むとの見通しを示しているが、長期的には毎年3~5%の成長を目指すとしている。そのためには政府がビジネスコスト抑制措置を通じて外国企業を誘致する必要があるとの基本的な立場から、1.税制、2.土地、3.賃金・CPF、4.企業家精神、5.製造業、6.サービス、7.人的資本――の7項目からなる提言を行っている。うちCPFに関わる提言は次の通りである。

  • 現行16%の使用者側拠出率を少なくとも向こう2年間据え置く。2年間凍結して以降についても、目標拠出率の20%への復帰は状況を見て決定すべきである。
  • 拠出対象となる賃金(月給)の上限額を6000Sドルから5000Sドルへ引き下げる。これにより高所得者への拠出負担を軽減する。
  • 拠出対象となる賃金(月給)の最低額を200~363Sドルから500~750Sドルへ引き上げる。これにより低所得層の手取額を増やす。
  • 51~55歳の従業員の使用者側拠出率については、将来的にも、現行の16%のまま据え置く。

反応

まず労組は、経済が好転の兆しが見え始めていることから使用者側拠出率の20%への復帰を期待していただけに、現行16%を2年間据え置くとの提案に失望の色は隠せない。とくに現時点で2年の凍結期間を設定したのは時期尚早であるとの見方が支配的だ。

一方、使用者側は、人件費がビジネスコストの15~50%を占めているだけに、今回の提言を歓迎している。

ゴー・チョクトン首相は、シンガポールから他のアジア諸国へ移転する企業が増えているなか、政府がビジネスコスト抑制策を講じなければシンガポールは国際競争力を喪失するとの危機感をあらわし、CPFについての今回のERCの提言は妥当であるとの認識を示した。

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