EIRO、労使関係の国際比較報告書を公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

欧州労使関係観測所(EIRO)は、EU加盟国とアメリカ、日本等の労使関係を比較検討した年次報告書を公表した。

報告書は、団体交渉の状況やその内容、ソーシャル・パートナーの役割、争議行為などについて分析を行っている。

報告書の概要

報告書の目的は、EUと日本、アメリカの労使関係の類似点と相違点を明らかにすることにある。そのため報告書は、冒頭で経済と雇用を取り巻く状況を説明した上で、団体交渉、賃金、労働時間、ソーシャル・パートナーの役割、争議行為、雇用平等・多様性、職業訓練・能力開発等に分けて比較検討を行っている。なお、今回の報告書は主に2001年の情報に基づいて分析を行っている。

報告書の概要は次のとおり。

  1. 団体交渉:団体交渉は、EUと日本・アメリカとの関係においてもっとも違いが大きい分野といえる。つまり、EU加盟国の多くは中央集権的な団体交渉システム(特に賃金については)をとっているが、日本やアメリカの場合は企業レベルでの交渉が主流である。ただ日本では春闘、アメリカではパターン・バーゲニングなどの方法もとられている。またEU加盟候補国は、相対的に企業別交渉が支配的である。
    労働協約により労働条件の一部が規制されている労働者の割合を見ると、EU加盟国では相対的に高いのに対し、日本やアメリカでは低くなっている。
  2. 賃金:団体交渉を通じて獲得された賃上げ幅は、EU平均では2001年に3.4%であった。日本に関しては、春闘による2001年の平均賃上げ幅は2.01%であったが、アメリカはEUや日本に比べて団交が賃上げに及ぼす影響は少ない。この他に賃金については、最低賃金制度や男女間賃金格差が分析されている。
  3. 労働時間:労働協約を通じて規制されている週の標準労働時間は、EIROの概算によるとEU平均で38.2時間であった(日本とアメリカについては適当な資料が入手できなかった)。同じく協約に規定されている年次有給休暇日数は、EU平均で25.7日であった。これに対し、日本の平均有給休暇日数は18日(ただ消化率が低い)、アメリカは勤続年数ごとの平均休暇日数に関する統計しかなく、勤続1年で9.6日、20年で20.3日であった。結論としては、法律上も実務上も年次休暇日数については、EUが日本やアメリカよりも多く、これが年間総労働時間数の差異をもたらす要因となっていると思われる。
  4. ソーシャル・パートナーの役割:まず労働組合に関しEUと日本、アメリカに共通した傾向が見られる。それは、労組の統合再編が進んでいることである。また労組組織率の低下は一般的に指摘されているが、今回の分析においてもこの現象は確認された。ただEU加盟国平均の組織率は日本やアメリカの2倍以上であった。
  5. 争議行為:争議行為の国際比較は、その定義の違いなどからかなり困難であるが、歴史的に見るといずれにおいてもその件数は相対的に低いレベルで推移しているといえる。
  6. 雇用平等と多様性:EU加盟国にとって、雇用平等と多様性は2001年の重要な議題であり、多くの法律が制定された。しかし、団交においては新たな展開はあまり見られなかった。これに対し、日本やアメリカでは法制化の動きは乏しかったものの、こうした問題は団交や労使協議である程度話し合われている。
  7. 職業訓練と能力開発:EU加盟国では職業訓練と能力開発は団交における重要な交渉事項であった。というのも欧州雇用戦略を背景に労働者の雇用可能性を高める観点から、多くの労働協約が有給訓練休暇などの規定を導入したのである。日本でもこの問題は重視されているが、企業レベルでの話し合いに委ねられがちであるため体系的なデータが得られない。ただ、1999年の調査では、過半数の労使協議機関が教育・訓練計画を扱っていた。アメリカに関してもこれに特化したデータを得ることはできなかったが、多くの企業が職業訓練を重視し計画を立てている。組織化された職場では、使用者と労組が共同で取り組みを行っている。
  8. 新しい労働形態:いわゆる非典型雇用(臨時労働者、パートタイム労働者、テレワーカー等)の増加は、EUと日本、アメリカいずれにおいても確認されている。EUレベルでは、この種の労働者が増加していることに対応し、差別防止のための法制化の取り組みやソーシャル・パートナーの協議が行われた。また労働者派遣の規制に関しては、賃上げを含め多くの労働協約が締結された。日本では、パートタイム労働者とフルタイム労働者の均等待遇が大きな議論となっている。アメリカではこの問題に関し法制化の動きは見られなかったが、フレックスタイム制や在宅勤務・サテライトオフィス等の導入が目立っている。

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