コール・センター産業のIT産業における組織化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

オーストラリアの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年5月

IT産業は企業倒産が相次ぎ、雇用が不安定となっている。また成長著しいコール・センター産業は、過酷な労働条件で知られている。こうした中、労働組合はIT産業とコール・センター産業における組織化を進めている。労組がこれらの産業でどのような組織化努力を行っているかをテーマに報告する。

組織化戦略の背景と進展

IT産業は、一般に労組による組織化が進んでいない分野と思われている。確かに高い技術を持ったIT技術者にとって労組は魅力がないものであり、さらにいくつかの企業は警備会社を使ってオルグが職場に立ち入らないようしてきた。一方、コール・センター産業は圧倒的に女性の職場であり、労組との結びつきが薄いと考えられている。

ところがこうした傾向にも変化が見られるようになった。というのは、株式取引の減少や企業倒産の影響を受け、IT産業ではレイオフが行われたり、倒産に伴う労働債権の保護が社会問題化した。そのような中で、2002年11月に連邦労使関係委員会は大手電気通信企業やコール・センター企業を対象とした産業単位のアワードを認めた。これにより、それまではアワードの対象とされていなかった約1万人の労働者にアワードの保護が及ぶこととなった。

ただ大企業の多くがIT部門を外部化するようになったため、労組は多くの組合員を失っている。そこで一部の労組は、IT労働者連合といったものを立ち上げ、レイオフに脅えるIT労働者に労組加入を促している。労組は解雇や労働債権の保護などで一定の実績を上げてきたため、人員削減の噂が広がると労組加入に関する問い合わせが増えるという。このように外部化(アウトソーシング)は労働組合にとって脅威である一方、組合員を増やす機会ともいえよう。

コール・センター産業では、アワードによる労働条件の改善が不十分であったことから、オーストラリア労働組合評議会(ACTU)が組織化の活動を強化し、労働条件を改善しようとしている。同産業は1990年代に急速に成長し、今では3850のコール・センターにおよそ2万2000人の労働者が働いている。顧客はオペレータの対応までにしばしば待たされ、フラストレーションがたまってオペレータや電話交換手に八つ当たりする。そのためコール・センター業務はもっともストレスが多い労働といわれている。加えてオペレータは1日平均800本の電話に回答している。その結果、同産業での欠勤率は高く、ストレスを理由とした退職者も目立っている。加えて、業務のチェックや監視は日常的に行われ、職場で個人的な電話をかけたり、受けることが事実上禁止されているケースも見られる。そこで、労組は労働条件改善と組織率上昇を掲げ運動を展開している。例えば、地域・公営企業組合(CPSU)はコール・センター産業での組織率を2倍にする目標を設定し活動を開始しているし、酒類・ホスピタリティ等労働者組合(LHMWU)は、伝統的な団体交渉だけでなく、直接社会に問題を訴えかける方法をとるとしている。

2003年5月 オーストラリアの記事一覧

関連情報