新政権の主要労働政策の新たな方向づけをめぐる動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年4月

新政権の政策課題をめぐって政権引継委員会と関係省庁間の協議が一段落し、2月中旬現在新政権の政策フレームワークはほぼ固まったようである。そのうち、労働政策をめぐっては、1月9日の労働部の政権引継委員会への報告、1月24日の盧武鉉次期大統領への報告、2月3、4日の政権引継委員会主催の討論会などを経て新たな方向づけが定まった。

以下、主要労働政策の新たな方向づけについて2月中旬現在明らかになった点をかいつまんで述べる。

主要労働政策の新たな方向づけ

1.「新しい労使協力体制」の構築

新政権の主要労働政策課題の一つとしてまず挙げられるのは「新しい労使協力体制」の構築である。その基本方向は、労働関係法制度の改正により、合法的な組合活動(労働参加)の範囲を広げると共に、公権力の介入を最小限に抑え、労使間の自律的な問題解決を誘導することである。

具体的には、第一に、国際基準に合わせて労使関係法制度を整備する。例えば、公務員労組の早期合法化(2003年月)のほかに、必須公益事業所指定範囲の縮小、職権仲裁への回付要件の強化、公共部門労使関係特別調整委員会の新設、複数労組体制のもとでの交渉窓口一本化などに取り組むということである。

第二に、労使紛争は労使間の自律的な解決に委ね、公権力の行使やむやみな拘束措置を最小限に抑える。例えば、使用者側の不当労働行為と同様に、不法スト行為に対しても器物破損や暴行などを伴わない場合は拘束措置を最小限に抑える。

また、スト行為の責任追及措置として損害賠償請求や財産仮差押などが乱用され、正常な組合活動が妨げられているという労働界の声に応えて、対策の一つとして労働裁判所制度の導入を検討する。

第三に、労使政委員会の機能を強化する。まず、同委員会が扱うべき議題を労働者の利害に直結する経済・社会政策全般に拡大し、「社会協約機構」としての性格をより明確にする。さらに同委員会の運営においては「論議終結デッドライン制」を導入し、予め定められた期限内に政労使間の合意が得られない場合は政府に最終決定を委ねるほか、合意事項が実行されない場合は関係省庁の関係者に同委員会に出席、報告するよう求めるなど、同委員会の社会協約機構としての実効性を高める。

その他に、労使交渉チャンネルの重層化の一環として、労使政委員会の傘下に産業・業種別労使政委員会を新たに設け、産別交渉への移行を促すための基盤づくりに努める。例えば、民間業種に対しては、産別交渉の鍵となる使用者団体の結成を奨励するために行政上の支援策を講じるほか、公共部門では1,2ヵ所でパイロットモデルとして産別交渉を試みてその結果をみながら、拡大の如何を決める。そして企業別交渉を前提とする現行の労働関係法制度も産別交渉を後押しする方向へと改正する。

2.非正規労働者差別解消

新政権の主要労働政策課題としてもう一つ注目されるのは、非正規労働者の乱用阻止や差別解消である。その基本は、経済的観点から非正規労働者に対する需要増加を是認しながらも、他方で社会統合の観点からその乱用を食い止め、賃金および労働条件上の差別を解消するなど、厳しい綱渡りを試みるというところにある。

第一に、非正規労働者に対する「同一労働同一賃金」の適用をめぐっては「法律で強制すべきである」という立場をとる政権引継委員会と、「現実的に同原則を適用するのは難しい」という労働部との見解の相違が一時目立ったが、最終的には「同一労働同一賃金の原則を労基法、労働者派遣法、男女雇用平等法などに明記し、それに違反する場合、罰金刑を科すなど軽い罰則条項を設ける」方向に定まったようである。例えば、現行の労基法における差別待遇禁止条項に性・人種・宗教・国籍などのほかに雇用形態を新たに付け加える。

第二に、非正規労働者の差別解消策の一つとして、司法機関とは別途に「差別是正機構」を新たに設け、具体的な差別判断基準の確立、差別事例の調査、是正命令などの業務を専門に行うようにする。

第三に、非正規労働者の乱用食い止め策の一つとして、単なる解雇規制回避のために期間制労働者や派遣労働者などを契約更新で継続雇用することや、パートタイム労働者を非自発的にフルタイムで働かせることなどを規制する方向で、関連法を改正する。

第四に、民間企業に範を示すべく、とりあえず公共部門に勤める非正規労働者に関する実態調査を行い、不法派遣や契約違反などがみつかれば、行政指導を通して是正に努める。

ちなみに、民主労総は「2003年の賃上げ要求案」に次のような非正規労働者差別解消案を盛り込んでいる。つまり、労基法第5条に雇用形態による差別禁止を付け加え、「同一事業所内での同一労働同一賃金の原則」を明記するほか、事業所別労使交渉の際に同一労働同一賃金の条項を労働協約に盛り込み、賃金格差が大きい社内下請け労働者に対しては基本給よりはボーナスや成果給に同原則を適用するよう求めるというものである。

3.外国人労働者雇用許可制の早期法制化

新政権の主要労働政策課題の一つとして政権引継委員会と労働部の見解が一致しているのは外国人労働者雇用許可制の早期法制化である。労働部は1月9日、政権引継委員会に労働政策の現状を報告する際に、「変則的な外国人労働者受け入れ制度として機能している現行の外国人産業研修生制度を研修制度本来の姿に戻す。とともに、2003年6月末まで外国人労働者雇用許可に関する特別法を制定するか、国会で継続審議中の『外国人労働者雇用許可および人権保護に関する法案』を成立させ、2004年から雇用許可制を施行する」案を提示していた。

外国人労働者をめぐっては、2002年11月に政府の呼びかけに応じて自主申告した不法滞在外国人労働者28万9000人余のうち、国内滞在期間が3年を過ぎた14万9000人余は2003年3月末に強制退去させ、3年未満の者に対しては同期限を1年猶予する方針が打ち出されていた。

政権引継委員会は2003年3月の強制退去期限を前に、外国人労働者の保護と外国人労働者への依存度が高い中小企業への影響などを考慮し、2月の臨時国会で継続審議中の関連法案の成立を目指す。とともに、同法案には不法滞在外国人に関する付則条項を盛り込み、雇用許可を得る場合は現在の職場で優先的に就業することを認める方針を明らかにした。

しかし、中小企業協働組合中央会は2月12日に、「外国人労働者雇用許可制は中小企業と直結する問題なのに、中小企業の意見収斂などの手続きを踏まず、臨時国会で性急に関連法案を処理するのは望ましくない」と主張し、「反対の立場を経済5団体共同で政府や国会に伝えた」ことを明らかにした。

盧武鉉次期大統領の労使関係観

以上のように、主要労働政策の新たな方向づけには、「社会統合(参加および連帯)」を柱とする新政権の改革志向がその根幹を成すだけに、既得権益構造の壁を承知のうえであえて理想の姿を追い求めようとする側面が強い。その成否は政治経済の状況如何もさることながら盧武鉉次期大統領の「対話および妥協方式」がどこまで通用するかに大きくかかっているといえる。

盧武鉉次期大統領は2月13日、韓国労総と民主労総を相次いで訪問し、「現在社会的力関係(世論支配力)において経済界が優勢にあるが、任期中に社会的力関係の不均衡是正に取り組む」と労働界寄りのスタンスをとる一方で、労働界に次のように注文をつけるなど、労働組合の権利と責任を同時に強調した。

つまり、「労組は雇用保障のために戦うよりは産業構造の調整にどう対応すべきかについて進んで政策開発に努めるよう」求めるほか、「本来組合員の権益保護のための労使交渉に政治活動が絡むことや、労組専従者の賃金を会社が全額負担すること、労組が会社の主要施設を占拠することなど」の不合理な慣行に疑問を呈し、「いままでの強硬闘争路線から脱却し、対話と妥協を通して新しい労使文化を発展させるべきである」と持論を述べるなど、「新しい労使協力体制」の構築に向けての労働界の運動路線の転換を促したのである。

そして、2月21日に開かれた中小企業協働組合中央会主催の中小企業政策討論会では、大企業労組の独占利益志向の問題点を指摘している。例えば、「大企業と中小企業の間で労働条件の格差が開いている背景には大企業労組の存在が影響している。大企業労組は政府を相手にしても強い交渉力を誇示できるにもかかわらず、中小企業や非正規労働者の労働条件の引き上げには積極的ではない。大企業労組のリーダーらは賃上げ闘争のみでなく、下請け企業の納品単価の引き上げに対しても代案を示すべきである」と述べている。

また、外国人労働者雇用許可制をめぐっては、「中小企業に支障や混乱が生じないように、漸進的に改善していく。中小企業が反対すれば、無理に推進することはできないし、国会での成立も期待できない。中小企業と協議したうえで、無理が生じないようにする」と、中小企業への影響に配慮する姿勢を見せている。

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