全国賃金審議会、03年上半期の賃金凍結を勧告

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

全国賃金審議会(NWC)は2002年11月19日、2003年1~6月期の賃金改定について、内外の経済の先行きが不透明であるとの判断から、過去1年間に適用されたガイドラインの内容を継承して、賃金の凍結・削減を勧告した。政府は翌日、同勧告を受け入れた。

NWCは政労使の代表で構成され、毎年5月に当該年度の賃金改定について勧告を発表しているが、2001年は、5月に勧告を出した後、経済状況が急激に悪化したため、12月に勧告内容を改訂した。それによると、02年1~12月期の賃金改定について、収益が悪化している企業については「賃金の凍結もしくは削減」を実施すべきとの内容であったが、今回発表された勧告は、経済の先行きがなお不透明であることから、さらに6カ月(03年1~6月期)、前回の勧告内容を延長適用するとしている。主な勧告は次の通りである。

賃金

景気低迷の影響で業績が不振な企業は、労組や従業員と協議のうえ、賃金の凍結、あるいは業績や見通しに応じて賃金削減を実施してもよい。

業績が良好な企業は、従業員に特別手当の支給や賃上げを実施すべきである。賃上げについては、月次可変部分給(MVC)(注1)でなされるのが望ましい。

CPF使用者側拠出率

日本の厚生年金に相当する中央積立基金(CPF)について、拠出率は従来、労使とも20%であったが、経済危機の際に使用者のコスト負担を緩和するために、使用者側拠出率を10%に引き下げた。その後、景気の回復に合わせて16%まで段階的に引き上げてきたが、労働界は20%への完全復帰を求めていた。しかし政府は02年11月に、景気の先行き不透明を理由に、当面16%に据え置くことを決定し、NWCも政府の決定を支持している。

柔軟な賃金決定方式

シンガポールの賃金コスト競争力を確保するため、年功ではなく生産性で賃金を決めるベースアップ賃金システム(BUWS)と、月次可変部分給(MVC)の導入を早期に導入すべきである。導入状況は、労組を有する企業は34%、有しない企業は3.4%で、全体としては4.8%にとどまっている。

職業訓練

知識集約型経済への移行期にあって従業員の雇用可能性を確保するため、使用者は技能再開発プログラム、人材開発支援プログラム、全国技能認証制度、戦略的人材移転プログラムなど、政府の提供する各種職業訓練プログラムを積極的に活用すべきである。

他の事業コスト

賃金以外の事業コストについて、政府は引き続き、低水準で維持されるよう努めるべきである。

政府、NWC勧告を受け入れる

政府はNWCが勧告を発表した翌日、同勧告を受け入れると発表した。失業率が4.8%に悪化するなど(9月末時点)、雇用環境が悪化していることを理由にあげた。また、02年の経済成長率予測を3~4%から2~2.5%へ下方修正したことも明らかにした。

従来は、賃金は固定給(基本給)と可変給(年間増補賃金とボーナス)から成り、賃金コストを削減する場合は、年末に支給する可変給で行うのが一般的。同方式は、高成長期における小さな景気変動に対してはよく機能してきたが、90年代末のアジア経済危機では、年末での可変給調整まで待てずに解雇で対処する企業が続出した。

そこで全国労働組合会議(NTUC)が提案したのが月次可変部分給(Monthly Variable Component, MVC)で、それによると、従業員の年間賃上げ分を二つの部分に分け、一方を基本給のベースアップに、残りを月次可変部分給にあて、景気が急に悪化してコスト削減が必要になった場合は、MVCを減らすという仕組み。

同案について、NWCは「1999-2000年賃金勧告」(1999年5月)以来、導入を推奨している。

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