労組の不法スト行為の責任を問う法的措置をめぐる労使対決

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

盧武鉉次期大統領の選挙公約に盛り込まれた労働政策課題のうち、とりわけ非正規労働者への同一労働同一賃金原則の適用をめぐってそれに難色を示す労働部と政権引継委員会との間で見解の食い違いが表面化する一方で、選挙公約の実現に期待を寄せる労働界と競争力への悪影響に強い懸念を示す経済界の政治的攻勢も日増しに活発になっている。

もう一つ、争議権制限の是非が問われている必須公益事業所の指定範囲や職権仲裁制度などの見直しをめぐっても労働界は期待、経済界は警戒の色をそれぞれ示すなど、両者間の隔たりは大きい。これに対して、労働部は政権引継委員会に選挙公約に盛り込まれている労働政策課題について報告する際に、「新しい労使協力体制構築」の一環として次のような方針を掲げている。つまり、基本的に労働3権の保障範囲を広げることで、公権力の介入を最小限にとどめ、労使間の自律的な交渉による合意を誘導するということである。これは、労働組合および労働関係調整法の見直しを方向づけるものとして注目される。

現行の必須公益事業所指定範囲や職権仲裁制度などをめぐっては、労働界は「争議行為を不法行為に仕向ける手段と化している」としてその見直しをかねてから強く求めていた。通貨危機後、構造調整(争議行為の対象にならない)に反対する争議行為や、労働委員会の調停期間中の争議行為、必須公益事業所での職権仲裁に違反する争議行為など、不法行為とみなされるストライキが多発し、民主労総の集計によると、拘束された労働者数は金大中政権の誕生から2002年末現在まで延892人に上り、争議行為の責任者(労組50カ所)に対する損害賠償請求額と財産仮差押請求額はそれぞれ849億ウオンと1373億ウオンに達している。そのうえ、このような不法スト行為に対する法的措置が新たな労組弾圧の手段として広く用いられるようになったとみて、労働界は労働3権の保障範囲を広げる方向で労働組合および労働関係調整法を見直すよう求めている。

このような労働関係法の見直しに対して、検察側は「合法に見せかけた不法スト行為が蔓延し、業務妨害罪の適用が難しくなる恐れがある」と懸念を示し、経済界は「労働界の活動範囲を広げるだけである」と反対の立場を表明している。そして、経済界は不法スト行為に対する法的措置に対しても「労組の不法スト行為に対抗できる唯一の手段である」と主張している。

そういうなかで、斗山重工業で、2003年1月9日に代議員経験の組合員1人が前述のような不法スト行為に対する法的措置の不当性を訴えて焼身自殺したため、労使関係は再び急速に悪化している。同社の労使関係は公企業の民営化の成否を占ううえで欠かせないケースとして注目されていた。つまり、同社では、2000年末の民営化を前後に、公企業時代の慣行(例えば不法ストの責任を問わないことを条件とする労使合意)にこだわる強硬派労組側と、株主利益重視の経営方針に基づく構造改革(既得権益の調整)を強行し、不法スト行為に対しては法的手続きに基づく強硬な措置を貫く経営側との対立構図がしばらく尾を引き、人員整理、企業内分社化制度の導入、産別交渉関連条項の破棄など争点を変えながら労使紛争は毎年繰り返されてきた。しかし、2002年末の労使合意を機に労使関係は安定を取り戻すかに見えた。その矢先に不法スト行為の責任を問われ、給与の仮差押に遭った組合員の焼身自殺という不幸な事態が発生し、同社の労使関係のみでなく、新政権の労働政策にも重い影を落とすことになりそうである。

盧武鉉次期大統領と政権引継委員会は1月22日に相次いで、「会社の難しい事情に理解を示し、労使間の自律的な解決を期待する」としながらも、「解決の糸口をつかむには経営側が積極的に取り組むしかない」という見解を示し、経営側のイニシアティブよる解決を促しており、労使の出方が注目されるところである。

その他に、労働界や市民団体などの間でも、公企業の民営化や現行の労働関係法などの見直しを求める動きがより活発になっており、新政権の舵取りが厳しく問われるのはこれからである。

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