労働市場の構造的変化と雇用保険制度の改正

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

通貨危機後構造調整や労働市場の流動化などに伴い、労働市場の構造的変化が顕著になり、最近は景気回復に伴う雇用情勢の改善とともに、非正規労働者の増加傾向や、労働力需給のミスマッチが一層目立っている。その一方、雇用保険は通貨危機後雇用情勢の急速な悪化に対応するためのソーシャルセーフティネットとして急速に拡充され、全事業所はもちろん臨時・日雇い労働者にまで適用されるようになる。と共に、ようやく緊急の失業対策から本来の積極的な労働市場政策へとその軸足を移している。

以下、労働市場の構造的変化と雇用保険改正の流れを追ってみよう。

労働市場の構造的変化

まず、注目されるのは、労働市場に新規参入する新卒者の高学歴化現象である。教育人的資源部と韓国職業能力開発院が1990年から2002年にかけての新卒者の就職状況を調べたところによると、高卒、専門大卒、大卒以上の割合は1990年の64.4%、11.8%、23.9%から2002年には24.3%、37.5%、37.7%へと大きく変わっている。新卒者数は90年の40万人から2002年には46万人に増えているのに対して、そのうち、商業・工業系高校新卒者の割合は90年の52.5%から22.5%へと半分以上減り、高卒者の大学への進学率は90年の33.2%から74.2%へと倍以上上昇している。

そして、1990年代にかけてサービス業での雇用は増える一方で、製造業でのそれは減り、また専門職や単純労務職は増えるのに対して、生産職や事務職は減るなど、産業別・職種別盛衰の傾向がはっきりと表れている。教育人的資源部と韓国職業能力開発院が1993年から2001年にかけての産業別雇用状況を調べたところによると、サービス業では320万人余分の雇用が増えたのに対して、農林水産業では65万6000人、製造業では47万8000人がそれぞれ減り、全体的には203万人余分の雇用が新たに創出された。

職種別には専門および準専門職(技術者含む)は109万4000人、サービスおよび販売職は169万5000人、単純労務職は7万人分の雇用が増えたのに対して、技能工および組立工の場合47万4000人分の雇用が減った。特に、製造業では、技能工および組立工は67万5000人、事務職は17万9000人がそれぞれ減ったのに対して、専門および準専門職は16万2000人、単純労務職は25万4000人がそれぞれ増えた。自動化の進展、生産拠点の海外移転、通貨危機後の構造調整加速などにより、生産および事務現場の仕事は減る一方で、高度な技術・専門知識を要する仕事と単純労務は増えるなど、労働力需要の二極分化が進んでいるということである。

その他、企業規模別には大手事業所の雇用は減っているのに対して、中小規模事業所のそれは増えている。500人以上事業所の雇用者数は47.9%(227万から118万人)、300-500人事業所のそれは8.2%(49万人から45万人)それぞれ減っているのに対して、50人未満事業所の雇用者数は32.0%(715万人から943万人)、50-100人事業所のそれは17.0%(103万人から121万人)へとそれぞれ増えている。

このように「大卒者数は急増する一方で、彼らが好む大手事業所の雇用者数が大幅に減る」という労働力需給のミスマッチ現象は、韓国労働研究院が雇用保険データベースを用いて調べた「若年層労働市場の構造変化」からも確認できる。まず、大卒者数は1995年の32万4000人から、2001年には47万3000人へと15万人が増えた。これに対して、上位30社の財閥グループ系企業、公企業、金融機関など、労働条件が相対的に良い大手事業所の雇用者数は1997年の152万6000人から2001年には123万7000人分と28万9000人が減った。特に、財閥系企業では、97年の90万3000人から70万2000人へと20万1000人が減り、その減少幅が目立った。それとともに、若年層の雇用比率は97年の9.6%から2001年には5.8%へと下がった。特に、通貨危機後新卒者の新規採用から経験者の中途採用へと採用方針を変える動きが急速に広がり、若年層の厳しい雇用情勢に追い討ちをかける格好となった。

もう一つ注目されるのは、生産・事務職を中心に正規職から非正規職への切り替えの動きが広がっていることである。韓国証券取引所が上場企業401社(12月決算)の雇用状況を調べたところによると、2001年末の雇用者数は65万753人で、2000年末の69万6448人より6.8%減った。その内訳をみると、生産職女性の減少幅が18.2%で最も大きく、次いで生産職男性が11.2%、事務管理職男性が6.1%、事務管理職女性が4.3%の順となっている。平均勤続年数は1999年の7年3ヶ月から2001年には7年8ヶ月へとわずかながら長くなっている。その反面、分社化やアウトソーシングなどの増加に伴い、臨時・契約職社員は1999年の5万9185人から、2000年に7万8203人、2001年には9万4803人へと増加傾向が続いている。

臨時・契約職など非正規労働者の増加傾向は労働部の新たな分類基準に基づいた集計結果からも確認できる。労働部が2001年8月の「経済活動人口附加調査」のデータを用いて集計し直した時点で非正規労働者の割合は全雇用者数の27.3%を占めていたが、2002年3月には27.8%へと0.5%増えている。

その一方で、高度な技術・専門知識を身につけた、いわゆるコア人材に対するニーズは高まり、コア人材の争奪戦が労働市場の流動化を象徴する側面もみられる。大韓商工会議所がソウル地域の220社を対象に「コア人材の雇用実態」を調べたところによると、全体の73.3%がコア人材の不足を訴えている。部門別にはマーケティング・営業(42.4%)、研究開発(26.6%)、経営企画(14.8%)などが挙げられている。コア人材不足の原因については「コア人材の育成プログラムの不備(43.4%)」、「コア人材の引き抜き(26.2%)」が挙げられている。特に「コア人材の引き抜きに遭ったことがある」のは58.1%に上っており、コア人材の争奪戦が繰り広げられていることがわかる。そして、コア人材を確保する方法としては、公募が57.3%で最も多く、次いで社内外での人脈の活用が20.9%、ヘッドハンティング会社への依頼が20.0%などの順となっている。「コア人材を確保するためには破格の待遇もやむをえない」と答えたのは63.9%に上っている。コア人材の不足状況を解消するための政府の対策としては、「専門人材養成費用の助成拡大(30.6%)」、「大学教育の改革(27.8%)」が挙げられている。

雇用保険の改正

以上のように、若年層の高学歴化が進む一方で、企業の労働力需要および採用方針が高度な技術・専門知識をもつ人材の中途採用や正規職から臨時契約職への切り替えなどにシフトするにつれ、高学歴若年層および中高年層の需給ミスマッチ拡大や非正規労働者の増加傾向などには歯止めがかからないなど、労働市場の構造的変化はより顕著になっている。

そのため、雇用保険は通貨危機後しばらく「失業者救済(生計保障および再就職支援)」に重点をおいていた緊急避難措置の段階から、労働市場の構造的変化への対応を重視する積極的な労働市場政策の姿に戻っている。それとともに、通貨危機後ソーシャルセーフティネットとして拡充される過程で引き上げられていた雇用保険料率も引き下げられるようになった。

まず、雇用保険の3事業のうち、雇用安定事業と職業能力開発事業においては労働市場の状況に合わせて各種助成制度の統合・新設とともに、助成・受給要件の緩和や支給額の引き上げに踏み切るなど、弾力的な運営方針がとられている。最近の改正案のうち、注目されるのは次の通りである。

第一に、雇用調整助成制度では企業の常時構造調整を支援するために転職支援奨励金、また定年退職者の再雇用を促すためには再雇用奨励金がそれぞれ新たに設けられている。

第二に、雇用促進助成制度では、相対的に雇用情勢が厳しい高齢者・長期失業者・女性向け雇用促進奨励金が設けられているほか、職場保育施設支援・建設費融資なども新たに加えられている。特に、中小企業の求人難と中高年層失業者の再就職難を同時に解消するために、再就職訓練を修了した中高年層を雇用する中小企業の事業主(500人未満)を対象に雇用奨励金(1人当たり1年間420万ウオン)が設けられ、在職労働者の能力開発プログラムに対する助成金額の上限が引き上げられるほか、労働者個人向けにも能力開発・資格取得コースの受講奨励金(50人未満の中小企業在職者、100万ウオンまで支給、300万ウオンまで低利融資)が新設され、有給休暇訓練助成の要件が緩和されている。

その他に、母性保護の観点から産前産後休暇の延長(60日から90日へ)に伴う追加給与(30日分)や、育児休職に対する給与補助(2003年1月に月20万ウオンから30万ウオンへ引き上げ)も新たに導入されている。

次に、雇用保険料率は保険収支の推移や経済状況などを考慮して3%の範囲内で失業給付・雇用安定事業・職業能力開発事業別にそれぞれ決定されることになっている。

雇用保険導入当初の保険料率は失業率が2-3%に推移することを想定して次のように決定された。失業給付は労働者と事業主両方が0.3%ずつ、事業主のみが負担する雇用安定事業と職業能力開発事業はそれぞれ0.2%、0.1%-0.05%(大規模事業所ほど低い)となった。

通貨危機後失業率が6-7%台に急上昇したため、1999年に急遽、失業給付は0.5%へ、雇用安定事業と職業能力開発事業は0.3%、0.1-0.7%(大規模事業所ほど高い)へとそれぞれ引き上げられた。

2003年1月に再び保険料率の改正が行われ、失業給付は0.4%へ、雇用安定事業は0.15%へとそれぞれ引き下げられることになった。

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