欧州委員会、年金制度に関する報告書を採択

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

EUの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年3月

欧州委員会は、2002年12月に加盟各国の年金制度と高齢社会へのその対応状況を包括的に評価した報告書を採択した。同委員会がこの種の報告書を採択するのは初めてのことであり、欧州委員会と閣僚理事会による共同の報告書草案という形をとっている。同報告書は2003年春の欧州理事会に諮問される予定である。

報告書の背景と内容

年金制度については、人口の高齢化により年金給付額が2015年以降急激に増加すると予想されており、年金財政の維持が課題の1つとなっている。加えて、女性の職場進出、パートタイム労働者や臨時労働者、自営業者の増大といった社会の変化への対応も迫られている。そのため2001年の欧州理事会において、加盟各国は年金制度を維持するための11の共通目標に合意した。その後、加盟各国は目標達成方法等を示した報告書を提出し、欧州委員会がこれらを分析した上で今回の報告書を作成したものである。

報告書では、11の目標ごとに各国の取り組み状況などがおよそ160頁にわたって示されている。その主なものを見ると、まず第1に年金制度の妥当性についてはすべての加盟国がほとんどの国民に年金受給権を保障し、受給資格を満たしていない高齢者に対しても最低限の所得保障を行っていた。各国は、公的年金・私的年金制度を組み合わせながら退職者の生活水準を維持しようとしている。また多くの加盟国は、前倒し退職を条件に付加的な年金権を与えたり、労働協約に基づく年金制度導入の促進による年金額の改善を、期待している。私的年金は公的年金を補完するものとして奨励されているが、退職者の所得のほとんどは公的年金に依存しているのが現状である。

第2に年金財政の維持については、加盟各国はこの問題を緊急課題と認識し、雇用率の引き上げや年金制度改革など様々なアプローチをとるようになっている。また年金支給開始年齢以前に退職する者が多いため、各国は早期退職者を優遇する制度や労働市場政策の改革を検討している。

第3に年金制度の近代化については、まず非典型雇用への対応が取り上げられている。多くの国の公的年金制度はこうした状況に十分対応できているが、職域年金に関しては不十分である。また加盟国は、男女の役割の変化や仕事と家庭責任の調和といった問題に対処するために年金制度を改革している。ただ労働参加率や賃金の男女間格差が要因となって、女性の年金額は男性よりも格段に低く、雇用率の引き上げや賃金格差解消等によってもなかなか解決されない問題と捉えられている。

今回の報告書は、持続可能な年金制度の確保と労働市場の柔軟化への対応といった観点から必要な改革を加盟各国に促す目的を持っている。

2003年3月 EUの記事一覧

関連情報