ハンガリー/障害者の労働と雇用に関する調査

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

本調査のサンプルと前提

ハンガリーで初めて、障害者の雇用状況に関して社会科学的調査が実施された。国内上位200社を調査対象とし、各企業の人事管理担当者が面接による質問に答えた。本調査は2年前に立案されたもので、今回の調査結果が最近発表された。(1)

本調査の中心となる前提は、「人材の需要と供給のいずれにも、ハンガリー経済の顕著な地域格差が反映している」ということだ。例えば表1からは、ハンガリー国内の失業率における大きな地域差の存在が見て取れる。

表1 ハンガリーの地域別失業率(2)
地域 失業率(%)
  2002年4月 2001年4月 2000年4月 1999年4月 1998年4月
中央ハンガリー 3.3 3.4 4.0 4.7 4.9
北ハンガリー 15.5 16.8 17.9 17.6 16.3
北部大平原 13.2 15.4 16.8 17.9 17.6
南部大平原 9.3 10.3 10.9 10.6 10.4
中央トランスダニュービア 6.7 6.9 8.0 9.0 9.1
西トランスダニュービア 5.0 5.1 5.9 6.0 6.4
南トランスダニュー 11.2 11.8 12.5 12.5 12.2

国内の求人に関しても同様の地域格差が確認された。詳細は表2を参照されたい。

表2 EUの地域分類(NUTS2)によるハンガリーの地域別求人
地域(NUTS2) 質問:「あなたの会社には未補充ポストがありますか?」(%)
いいえ はい
西トランスダニュービア 58.8 41.2
中央トランスダニュービア 77.8 22.2
南トランスダニュービア 80.8 20.0
中央ハンガリー(首都ブダペストを含む) 85.5 14.5
北ハンガリー 100.0 0.0
北部大平原 100.0 0.0
南部大平原 66.7 33.3
合計 82.6 17.4

国内の求人に関しても同様の地域格差が確認された。詳細は表2を参照されたい。

障害者の雇用状況:地域格差の影響は企業の所有形態別の影響ほど大きくない

ここで注目すべきは、地域格差が障害者の雇用状況(例:失業)には差程影響していないことだ。例えば上位200社に対する調査結果では、賃金の地域格差は明白である。障害のある労働者の月額総賃金に関していえば、首都(ブダペスト)やペスト県(中央地域)が他の地域より高い。しかし地域差に起因する賃金格差は、企業の所有形態の違いによる賃金格差に比べて小さい。

一例を挙げれば、多国籍企業(MNCs)では一般従業員と障害をもつ従業員の賃金格差は最小であり、月額総賃金は、一般の従業員が14万4000フォリント(注:1円=2ハンガリー・フォリント)、障害をもつ従業員が12万8000フォリントとなっている。これに対し、ハンガリー企業の場合、月額総賃金の平均は12万1000フォリント、障害者の月額総賃金はこれより4万フォリント低い。こうした状況は合弁企業においても同様である。すなわち、一般の従業員の月額総賃金は13万4000フォリントなのに対し、障害者の月額総賃金はそれより30%も低い9万5000フォリントに過ぎない。

所有形態の違いによる賃金格差は注目に値する。表3を参照されたい。

表3 (主要所有形態別)障害者賃金
所有形態 月額平均賃金(フォリント)
外資系企業 128,480
ハンガリー企業 82,570
合併企業 94,750
  • 注:1フォリント=0.5円
  • 出所:Keszi,(2002年)Op.cit.:p.42.
表4 所有形態別の障害者雇用
所有形態 障害者を雇用(%) 障害者を雇用せず(%)
国営企業 70.6 29.4
ハンガリー民間企業 46.2 53.8
従業員所有企業(従業員持株制度) 66.7 33.3
外資系企業 50.8 49.2
協同組合 33.7 66.7
地方自治体 100.1 0.0

出所:Keszi,R.(2002年)Op.cit.p.36

障害者が従事する仕事の種類

以下は障害者の仕事に関する最も重要な特徴の一つである。障害者の過半数が(すなわち調査対象となった企業の半数では)自分の専門分野の職務につき、障害者の3分の1が専門分野にある程度関連した職務につき、専門外の仕事についている障害者は5分の1以下(17%)である。調査対象となった企業の所有形態別に、専門性との一致という点で職務構成を分析してみると、以下のような類型が確認できる。合弁企業と外資系企業は、地方自治体所有の企業より多くの障害者を自分の専門に合致した職務につかせている。

「ホワイトカラー」対「ブルーカラー」という構図も障害者雇用のもう一つの特徴である。この点では、障害者の大多数が「ホワイトカラー」のカテゴリーに属しており(70%)、「ブルーカラー」は3分の1に過ぎない。ハンガリーの主要7地域について障害者を職務カテゴリー(「ブルーカラー」と「ホワイトカラー」)で比較すると、以下のようなパターンが確認できる。「ブルーカラー」のカテゴリーに属する障害者の比率は、中央トランスダニュービア地方と中央ハンガリーで最も高く、南ハンガリー、北ハンガリーでは極端に低い。統計的に見るとこれらの差は際立っている。詳細については表6を参照されたい。

表6 ハンガリーにおける「ブルーカラー」障害者労働者の地域別割合
地域(NUTS2) 「ブルーカラー」労働者の割合(%)
西トランスダニュービア 23.7
中央トランスダニュービア 44.3
南トランスダニュービア 8.8
中央ハンガリー(首都ブダペストを含む) 42.0
北ハンガリー 5.5
北部大平原 27.0
南部大平原 25.0

出所:Keszi,R.(2002年)Op.cit.p.48

障害者労働力人口とその教育水準と非典型雇用(atypical employment)

障害者層の教育水準の実態は以下の様になっている。すなわち、その半数強(52%)が中等教育レベル以上の教育を受けている。半数弱(48%)は初等教育しか受けていない。企業の所有形態別教育水準を見ると、外資系企業・合弁企業では障害者従業員の半数近くが大卒もしくは短大卒(17.4%)である一方、ハンガリー企業では障害者における大卒の割合は極めて低い(1.4%)ことがわかる。

障害者労働力に関してはいわゆる非典型雇用(使用者にとっては需給緩衝の手段となる)の役割を知ることが重要である。これに関連して、ハンガリーの人的資源管理の慣行においては非典型雇用の割合がきわめて低いことに言及する必要があろう。それは障害者の雇用にも当てはまる。例えば、調査対象企業のうち障害者の「パートタイム」勤務制度を実施しているのは半数に満たず(43.5%)、「季節雇用」実施企業の割合は10%以下(9.3%)である。中でも「テレワーカー」の割合がきわめて低い。非典型雇用の普及を地域別にみると、最も発展した地域(中央ハンガリー)では非典型雇用の形態で障害者を雇用する企業の割合が、北ハンガリーや南部大平原地域の3倍に上ることがわかる。非典型雇用形態の障害者労働人口への適用にも、所有形態の違いが大きく反映している。例えば外資系企業と合弁企業はハンガリー企業に比べ、障害者に非典型的勤務形態を実施している割合が高い。つまり障害者に柔軟な勤務時間制度の利用機会がより多く開かれているのは、ハンガリー企業よりも外資系企業だということになる。障害者に対する非典型的勤務制度の実施状況を、表7と表8にそれぞれ地域別と所有形態別で示した。

表7 非典型勤務制度の地域別実施状況
地域(NUTS2) 障害者にパートタイム勤務制度を実施している企業の割合(%)
西トランスダニュービア 50.0
中央トランスダニュービア 40.0
南トランスダニュービア 42.9
中央ハンガリー(首都ブダペストを含む) 62.5
北ハンガリー 20.0
北部大平原 20.0
南部大平原 0.0

出所:Keszi,R.(2002年)Op.cit.p.52

表8 企業の所有形態別非典型勤務制度
所有形態 障害者に対するパートタイム勤務制度の実施
外資系企業 52.6
ハンガリー企業 33.3
合併企業 44.4

出所:Keszi,R.(2002年)Op.cit.p.52

まとめ

調査対象となったハンガリーの上位企業の過半数(52%)が障害者を雇用している。しかし障害者雇用に対する意欲は、所有形態や非典型雇用制度の役割、経営側の姿勢などの要因に左右される。しかし経営側の姿勢はむしろ、その企業が操業している地域の特色に大きく関係してくる。例えば中央地域や首都に居住する障害者は、ハンガリーの他の地域に居住・労働する障害者よりも恵まれた立場にある。障害者の雇用の拡大を阻むもう一つの壁は、ハンガリーにおける非典型雇用の役割が限られていることである。特にパートタイム従業員あるいはテレワーカーとして働く意欲のある潜在的従業員に対して、使用者側からの需要が少ないことが挙げられる。最後に、調査対象となった人事管理担当者の半数近くが国の支援制度を知らなかったという事実にも注目する必要があろう。

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