2003年度失業保険導入に向けて:各方面からの視点

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年1月

2003年10月の導入が予定されている失業保険制度の概要と、これまで数十回と開かれてきた公聴会から、制度導入に対する各界の反応をまとめた。

反応の中には、長引く不況の中で、保険料の負担が労使ともに現実的ではないとの声や、社会保障基金との統合を疑問視する声が大きい。

失業保険制度の内容

労働・社会福祉省の失業保険制度案では、経営者と従業員がそれぞれ月給の1%を負担し、政府は0.5%を拠出する予定。ただし、政府の拠出金は2006年までの3年間とし、その後は経営者と従業員の拠出金のみで運用される計画。

社会保障局が定める規定によって「失業者」と認定された者は、失業以前の平均月給の50%が1年間支給される。失業者の認定基準は以下の通り。

  • 失業してから6カ月以上15カ月未満の間、失業保険の負担金を支払っていること
  • 雇用局に登録済みであること
  • 雇用局から提供される仕事に対して、十分な職能と、働く意思を持ち合わせていること
  • 技術訓練に参加する意思があること
  • 月に1度は雇用局に来局すること
  • 前職を、業務の怠りや経営者に多大の損害を与えるような行為を行ったために解雇されていないこと
  • 年金支給を受けていない者 (解雇されてから8日後に失業保険を受け取る権利が発生する)

公聴会での意見
現在までの公聴会で出された三者からの意見は以下の通り。

(1) 経営者側からの意見

  • 制度の理念には共感できるが、経営者と従業員の負担金の支払能力に関しては更なる調査が必要だろう。
  • 経営者、労働者だけの負担金支払いは、三者構成の原則から考えても理想的ではない。
  • 従業員の家族の疾患手当まで保障を拡大すること。
  • 社会保障制度と30B医療制度のダブルスタンダードの問題。30B医療制度はタイ国民全員が享受できるサービスのはずであるが、社会保障制度の加盟している労働者は、30B医療制度の対象外となっている。
  • 労働・社会福祉省の限界。現在の社会保障制度も問題が多数指摘されているにもかかわらず、更なる省への負担増は不可能ではないか。
  • 2003年1月から技能開発基金のための支払いが開始されるため、経営者が従業員に対して技能訓練サービスを提供しなくなる恐れがある。
  • 2003年1月から、「技能開発基金」と呼ばれる労働者の技能訓練のための制度が開始され、経営者は更に1%の保険料負担が決定している。
  • 経営者はすでに、社会保障基金に8.5%の負担をしている。これ以上の負担は企業の社会保障費を増加させ、世界市場の競争から遅れる恐れがある。
  • 商工会議所や、タイ鉱業・金融連盟は、労働・社会福祉省に対して、失業保険導入の延期を求める嘆願書を提出した。
  • 失業保険は、海外直接投資(FDI)に影響を与えることはないと考えられるが、中小企業にとって大きな負担となるだろう。

(2) 労働者・労組の意見

  • 失業保険の保険料は政府、使用者がそれぞれ1%ずつ負担し、労働者の負担を0にすべきである。
  • 失業1年後、失業者は社会保障局で登録をしなければ、保険料をもらう権利を喪失することの問題性。
  • 失業保険制度は強制的なため、保険料を支払いたくない労働者も支払わなくてはならないことの問題性。
  • 退職間近の労働者に、保険料の支払いを強制することは、彼らが利益を受けられないために困難である。

(3) 政府の意見

  • 社会保障基金は国内最大の基金であり、基金運営のためには労組が反対しているような負担金の増加はやむを得ない。また、今後の基金運営上、社会保障に関する法律の改正が必要となってくる。
  • 現在失業保険を実施している国は、税徴収制度の整備された先進国か旧社会主義国のみである。そのため、タイ政府への負担は大きい。
  • 政府は失業保険運用のための財源は確保してあるが、フォーマルセクターの労働者のみを保護するために財源を利用することは、国民への平等な保証という観点から望ましくない。
  • 中小企業の経営者や、季節労働者を多数雇用する企業で、労働者自身も社会保障を望まず、かつその負担金を支払うことを望まない労働者がいる企業では、これらの制度は適切ではない。
  • 原則として、失業保険の負担は、「自己保険」の一環として、労働者が行うことが望ましい。

(4) 研究者からの意見

  • 失業保険制度は深刻な社会問題を解消するためにも必要不可欠である。
  • 失業保険は、今導入すべき制度であり、社会保障基金とは別の運営方法をとるべきである。現行の制度と統合することが最も容易な方法ではあるが、長期的な視点から考えるとその方法は避けるべきである。
  • 三者構成の原則から、政府も経営者と従業員と同様の額を負担すべきである。3年の期限を設けるべきではない。
  • 企業の倒産などによって失業した労働者らの保護を第1に行うべきである。
  • 社会保障局は、正確なデータベースを構築することが不可欠である。

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