「2002年欧州の雇用」報告書が公表される

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年1月

欧州委員会は、2002年9月に「2002年欧州の雇用」と題する報告書を発表した。欧州の雇用報告書は毎年発表されるもので、今回の報告書は1990年代半ば以降の欧州の労働市場の動向を分析している。さらに、欧州理事会で設定された雇用率の目標や雇用の質が生産性や雇用実績に与える役割、労働市場におけるジェンダーや地域による格差の問題、EU拡大がもたらす新たな課題なども焦点となっている。

報告書の内容

まず「経済情勢と雇用実績」について、報告書は現時点における経済と雇用に関する展望は依然として不確定であるとしている。ただ2001年の経済成長は1.6%と鈍かったものの、雇用者数は1.2%増を記録していることから、以前に比較しEUは困難な状況に対処する用意ができていると評価している。雇用実績をみると、新規雇用者の6割以上が女性により占められており、これにより女性の雇用率は2000年の54.0%から54.9%に上昇した。また新規雇用に占めるフルタイム雇用の割合は75%と高率であった。高齢者の雇用率は2000年の37.8%より上昇し38.5%となったものの、2010年までに50%とするという目標値からは依然として遠いものである。この目標を達成するためには、税制や年金制度の改革、生涯学習機会の提供等が必要であると指摘されている。そして報告書は1995年以降の雇用状況を分析した上で、欧州労働市場の構造的改善が構造的な失業の減少をもたらしたとしている。これには欧州雇用戦略や単一通貨が大きな役割を果たしたことが強調されている。

次に報告書は、雇用率の目標を達成するのに必要な解決すべき課題を示している。すなわち、これまでの分析から雇用の質と生産性や雇用実績は密接に関連しており、雇用の質を改善させる政策が雇用創出に役立ちうることが明らかとなっている。しかし現状ではフルタイム労働者の4分の1、非自発的なパートタイム労働者の3分の2以上が質の低い職に就いており、こうした労働者は失業の危険性がより高く、また再就職の可能性も低い。したがって、質の低い職に就いている者を支援し、より安定的な職へと移行させることが重要であり、そのためには訓練機会の提供と政策の柔軟性と安定性の適切なバランスを図ることが求められる。

また男女間の格差と地域格差の解消も課題として示されている。男女間格差に関しては、EU全体でみると女性の賃金は男性よりも16%程度低くなっており、その主な原因は男女間職務分離や家庭責任の負担、管理的地位に占める女性の割合が低いことなどである。男女間の賃金格差解消のためにはこれらすべてに対処しなければならない。

地域格差については、まずサービス業の就業者が多く、技能レベルが低いという特性を持つ地域は、相対的に低いレベルの人的資本のために雇用率の観点から他の地域に追いつくことができない状況にある。EU拡大により所得と雇用率の地域間格差は拡大する可能性もあり、2004年の新加盟国加入でEU全体の雇用率は1.5%低下すると思われる。したがって、雇用率の目標を達成するためにも、地域間の結束強化が必要である。

最後に報告書は、EU全体の雇用率が2003年には65%程度となるとし、2005年までに67%という中間目標も達成可能であるという見方を示した。

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