男女賃金間賃金格差縮小への政府の試み
スウェーデンでは2001年1月1日に新男女雇用機会均等法が施行されたが、男女間の賃金格差は一向に縮小していない。女性の平均賃金は依然として男性より18%低い。年齢、教育水準、職種などを考慮しても、8%の格差は男女差別によるものというほかない。たしかに、職種ごとに差別の実態を数値で立証できるほど詳細な賃金統計はないが、差別の傾向は今もはっきり見てとれる。
差別の原因を明らかにするため、調停機関と賃金統計に責任を負っている機会均等オンブズマンは、新男女雇用機会均等法のもとで、民間企業は男女間の不当な賃金格差を解消する義務をいかにして果たしているのかについて重要な調査を開始した。
この2つの政府機関は、労使間の賃金交渉においても機会均等法の遵守を確保するよう政府から指示を受けている。ブルーカラー労働者の職場の賃金交渉では、均等法の精神がある程度反映されている。スウェーデン労働組合総同盟(LO)傘下にあるすべてのブルーカラー労組は、賃上げ要求で協調した結果、小売り業、ホテル、レストラン、清掃会社、地方自治体の組合(低賃金の女性労働者が圧倒的多数を占める)は、製造業より実質的に高い賃上げをどうにか実現できた。金属労組や化学労組などからの全面的な支援がなければ、こうした賃上げはできなかっただろう。
残念ながら、ホワイトカラーや専門職労働者の組合ではこのような賃金の男女平等が実現されていない。個別の賃金交渉によって全体としては過去最高の賃上げ率を達成しているが、団体交渉で詳細な労働条件を定めず、賃上げのより大きな部分が個別の賃金交渉で決定される傾向がある。したがって、賃金格差、とくに男女間の賃金格差を著しく拡大している。
LOのように中央組織が男女格差縮小を意図している賃上げ要求は別として、新機会均等法は全国レベルの部門別労働協約の内容には何の影響も与えなかったようだ。全国レベルの労働協約を企業レベルでどう解釈するのか、新法は詳細なルールを定めていない。その結果、全国的な賃金統計は、女性が差別されているのかどうかを立証することもできない。
とはいえ、新法は義務的な賃金評価を導入して職場組合を支援している。使用者と職場組合が共同で賃金体系を綿密に検討すれば、状況を改善できるはずである。たとえば、個人の交渉で一部の人々が大幅な賃上げを得ている場合、協約期間が終わろうとしている時に賃金評価を行うことによって、人種、性別などの差が賃金の格差とどのように関わっているかを理解することができる。
もっとも、構造的な格差があり、これを解消するのはさらに難しい。男性が大多数を占める職種に比べて一般に価値の低い職種に女性はついている。この場合、労働組合と使用者は大きな課題に直面する。たとえば、製造業労働者の全国組合が、自分たちの事務所を清掃している女性たちが他の清掃会社に雇用されている場合、清掃する女性の賃金引き上げのために自分たちの要求を犠牲にするとは思えない。上位の組織、つまり全国組合の連合体が団体交渉で一定の役割を果たす場合に限って、賃金の協調的な分配が可能になる。
このような観点から、製造業の中核をなす職種を除き、すべての職を外部委託してきたことが賃金差別の原因になっていると考えることができる。清掃が、当該産業の労働協約の対象となる常勤従業員によって行われた場合、職場組合は「清掃婦」を賃金面でも生産チームの一員とみなした。業務外部委託が進んだ現在では、スウェーデンの女性ブルーカラーに望めるのは、全国レベルで賃上げ要求がなされる場合にLOに訴えることくらいである。
言うまでもなく、構造的な問題に対応するには、女性が専門的なキャリアを選択して労働市場の男女分業に対抗するという長期的な変革も必要である。労使関係や経営手法においても男女の機会均等が実現されているかが吟味されるようになれば、民間部門でも公的部門でも女性がもっと昇進できるよう状況を変えられる。
1万社の企業が機会均等オンブズマンから問い合わせを受け、新機会均等法に規定された義務を再認識した。現在、第2段階として、そのうち500社が2度目の警告を受け、まったく異なる職種の比較に使える職務評価制度がないとしても、同じ職場内の男女間の賃金格差を解消するためにどのような取り組みをしているのか、報告書を提出するよう求められている。
現在、職業と職の評価が、差別的であることを示す証拠が随分ある。女性が圧倒的多数を占める職種は価値が低いとされている(いわゆる「価値の差別(value discrimination)」)。だからこそ新機会均等法は「同等価値の職」を規定し、女性が多数を占める職種と、女性の占有率が低い同等価値の職種の賃金を比較するよう求めている。
他の形態の差別としては「職務差別(job discrimination)」の解消に取り組まなければならない。つまり、男性より女性のほうが職務階層の低レベルで雇用されているという問題である。
政府部門の労使はともに、政府内のあらゆるレベルで男女の機会均等を促進していくことを決めた。必要ならば逆差別の措置もとる。これは、ある職種について男女ともに資格がある場合、女性がその職種の少数派であれば女性を採用するという考え方である。こうした措置は民間部門ではまだとられていない。
2001年男女雇用機会均等法は、賃金構造と男女間の賃金格差を明らかにすることを規定しているだけではない。平等賃金の原則に反することなく、平等化を進める取り組みも奨励している。たとえば、女性と男性が同等価値の仕事をしていない場合でも、男女間の賃金格差を縮小すべき理由があることを使用者に呼びかけている。
調停機関は今後、詳細な専門コードを採用して賃金統計の質的向上を図っていく。ただし、これで男女間の8%の賃金格差が縮小するかどうかは、また別の問題である。
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