サービス部門の雇用急進

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

IBGE(ブラジル地理統計院)のデータを国立経済社会開発銀行(BNDES)が処理した統計によると、ブラジルにおいても、農業、工業部門からサービス部門への人口の移動は、最近、特に顕著になって来ている。

就業人口の配分 1900年及び2000年における割合(%)
経済部門 1999年 2000年
生産額 就業人口 生産額 就業人口
農業・牧畜 6.4 25.7 7.0 23.0
鉱業 0.6 0.5 0.5 0.3
製造工業 38.6 15.7 37.3 12.4
公益事業 2.5 0.6 3.2 0.3
建設業 7.6 6.8 7.9 6.3
商業 7.8 13.1 7.4 15.1
運輸 3.8 3.4 3.5 3.8
通信・報道 0.8 0.4 2.3 0.3
銀行 9.1 1.9 4.1 1.1
不動産賃貸 3.2 0.4 6.6 0.5
公共行政 11.3 9.9 11.4 8.8
その他のサービス 8.4 21.6 8.9 28.0
出所:ブラジル地理統計院/国立経済社会開発銀行

BNDESの雇用部門の執行取締役シェイラ・ナジベルグは次のように言う。

工業部門からサービス部門への就業人口の移動は、既に、1990年代から顕在化している。この期間、工業生産は、3%後退したが、就業人口は、さらに低下し、21%も減っている。商業部門は、生産で、5%減退したが、雇用は15%増加している。サービス部門は、生産で6%増加し、就業人口では、30%も伸びている。これは、国内市場開放の進展とともに、工業部門が競争力の強化につとめた結果、リストラ、業務の社外化に努め、これに、公共サービスの民営化が加わったからだと考えられる。

しかし、ブラジルでは、の雇用を増進するには、単純にサービス業を強化拡大するだけでは足りない。まず、数百万の失業者がいるブラジルでは、サービス部門だけでこれを吸収することはできない。第2に、国際収支バランスの改善を念頭におかなくてはならない。

この点で、政府が、とるべき政策は、農業部門、観光部門、教育、保健部門の強化である。農業部門は、観光出門外貨バランスの改善に役立つし、間接雇用の効果が大きい。観光部門も直接、外貨獲得に役に立つし、ブラジルは潜在資源が豊かである。教育、保健部門は、まだ、立ち遅れがはなはだしい。シェイラ・ナジベルグは以上のように述べている。

スーパーの労働者、自動車産業を追い越す

経済雑誌エザーメによると、銀行を除いた民間企業部門で、自動車産業を追い越して、スーパー・マーケットが首位を占めた。

銀行を除いた民間企業部門の労働者数
順位 1996年 従業員数 順位 2002年 従業員数
1 フォルクスワーゲン 29,616 1 ポン・デ・アスーカル 57,833
2 フィアット 21,359 2 カレフール 44,723
3 GM 20,800 3 マクドナルド 36,000
4 ポン・デ・アスカール 20,737 4 サジア 30,400
5 サジア 20,007 5 アテント 26,561

出所:エザーメ誌 「大企業と優良企業」

上記で、ポン・デ・アスーカルとカレフールはスーパー・マーケット、サジアは食品工業で、アテントは、テレ・マーケッティングの専門サービス会社である。

これを見て分かるように、1990年代に、上位3位までを占めていた自動車工業が、残らず姿を消し、かわってスーパー・マーケットの雇用数が、上位を占めている。ポン・デ・アスーカル社は、全国に507店舗を有して、ますます拡張を続けているのに、フォルクスワーゲンは、今年に入ってからも、700のポストを閉め、現在では、25,200人の従業員を有するのみで、上位5位にも入っていない。

フォルクスワーゲンの人事部長ジョン・ラシェードは、これについて、1997年には、自動車部門は、200万台を製造したが、今年は、150万台である。景気が回復すれば雇用も増えるだろう。しかし、技術的進歩ということも考慮しなくてはならないと述べて、慎重な態度をとっている。

これに対して、小売部門は、人依存産業であるから、事業の拡大は、直接、雇用の増進につながる。

例えば、マクドナルドは、さらに、94のキヨスク、26のマク・カフェー、配達サービスの開始、24時間レストランの開設で、12月までに、5,200、近い将来に、41,200の雇用を造出する予定である。

ブラジル・カレフールの人事部長アルバロ・デ・アンジェリス・コルデイロによると、ハイパーマーケット1店で、300名から400名の新規雇用が見込まれ、スーパーマーケット1店で、100から200人の新規雇用が見込まれる。

スーパーマーケットのトップであるポン・デ・アスーカルは、本年、2店のハイパーマーケットと2店のスーパーマーケットで、1,400人を雇用し、年末まで、さらに3店のハイパーマーケットの開店を予想して1,500人の新規雇用を見込んでいる。

しかしながら、賃金水準からすると、商業部門、サービス部門の賃金水準はまだ低く、サン・パウロ州とDIEESE(組合総連合調査統計部)の調査によると、大サン・パウロ圏内の平均賃金は、工業部門が、968.00レアルであるのに対し、商業部門は601.00レアル、サービス部門は、822.00レアルとなっている。

とは言うものの、商業部門の高学歴化は、すでに始まっており、特に、外資系企業(例えばカレフール)、大企業において特にこの傾向が著しい。

ポン・デ・アスーカル社の人事担当部長マリア・アパレシーダ・フォンセッカによると、15年前、小売業は、銀行、工業に就職がかなわなかった者の次ぎの選択部門であって、高度な知識と技能を必要としなかった。各級の長でも、上級教育在学中で、就職してから学業を継続する者が多かったし、中以下の職種では、毎日、低学歴、半失業者の求職者が、来社したが、今日では、キャッシュ・レジスターでも高校卒業、又は、大学卒の者が採用されている。管理職ともなると、大学卒業又は修士課程卒、時には、大学院専門課程を修了した者が求められている。

これとともに、スーパーマーケットからの転職率は激減し、かつてはなかった金融部門、工業部門から、小売部門の有望性を見て、転職して来る者も多くなったと言う。

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