2001年の労働情勢

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年4月

2001年、労働政策の改革は、経済発展と同様には進行していない。人口大国インドでは、毎年、大量の人口が労働市場に流入する。中央政府は、この問題を再度、重要視する必要がある。また、解雇された労働者や非組織部門の労働者に対して、社会保障政策をどのように充実してゆけばいいのだろうか。労働組合は、これら重要な問題に対し、どのように対処すればいいのか決めかねている。2002年、中央政府は、巨大な労働力人口を最大限に活用しながら、雇用の維持と経済発展を両立させる政策を再検討する必要がある。

労働政策の変化

中央政府は、ここ数年の労働改革に関わる労使紛争の続発にもかかわらず、労働改革続行の決意を固めている。労働大臣を中心とした閣内の労働政策改革作業グループ(GoM)は、その改革案をまとめ内閣に近く提出する予定である。

2000年2月に組織されたGoMは、2001年の内閣改造の影響を受け改革案づくりが遅れた。内閣が承認したとしても、労働争議法、経営悪化企業法、賃金法の改正が、議会でスムーズに承認される保証はない。雇用環境が悪化による、社会的緊張の高まりと、適正社会保障制度の欠如は、労働改革をより困難にしている。さらに、この問題は、任意退職制度の氾濫と、解雇者の増大により一層複雑化している。

GoMが提出した一連の労働法改正法案が承認されると、労働者が1000人以下の企業は、解雇に際し政府の承認の必要がなくなる。概算によると、インドの企業の95%は、1000人以下である。また、アウトソーシングする事業に中核部門と非中核部門の差を設けないことも決められた。政府は、労働者側に立った任意退職制度に対する援助策を与えることにより、労使間のバランスを取ろうとし、2つの援助策を準備した。1つは、勤続年数に15日分から45日分の日給をかけた金額を退職手当として支給する増額させる。もう1つは、解雇の不利益を補うものとして、退職手当計算時の労働者の最高賃金月額を1600ルピーから6500ルピーに増額することである。

WTO体制の下、経済と貿易が自由化され、インドは、労働市場を以前のように厳しく管理することはできなくなった。今後、インドは、生産物の品質を改善し、国際的競争力を身につけた新しい企業を生み出す必要がある。企業は、世界の経済環境の急速な変化の中で、生き残り、発展していくために技術力を高め、労働生産性を向上させる必要がある。このために、労働政策は、経営に関する管理と拘束から、労働組合が経営に大きく関与することを制限する政策にしなければならい。

労働組合と政党

労働組合の組織方法は、労働組合と政党の関係を密接なものにしている。

現行の労働組合法は、1926年に発令されたものである。7人労働者が集まれば、労働組合を組織することができ、幹部の50%は、外部者でも良い。これは、一部の外部者が突出した役割を果たす労組の体質を懸念したもので外部者が労組を指導する場合は、組織と労働者の利益を追求するよりも、彼ら自身の目的追求のために労働者を利用する場合を想定したものである。

公務員、民間、あるいは業種を問わず、多くの労働組合は、特定政党と密接な関係を持つ。労働組合の活動は特定政党の政治戦略と密接に結びついている。この結果、全国の労働者の8%を辛うじて統制しているに過ぎない労働組合の指導者たちは、不合理な要求であってもそれを認めさせるのに十分なほど、政府に対し影響力を持つ。

労働市場の分析

A労働者は、経済構造の改革の痛みを経験してきた。控えめな概算でも、1992年度に100万人以上の仕事が組織部門(注1)から消えた。さらに、製造業に加え、金融機関での雇用規模も大きく縮小した。その後、企業は、グローバリゼーションに曝され、競争が激化し、国際的な競争力を高め、生産性を向上させるため、一層の人件費削減を実施せざるえなくなってきている。

人口増加も労働市場に大きな影響を与えている。中央政府の概算では、労働力人口は、年間約1.71%増加している。これは、年間700万人から800万人の新規労働者が労働力人口に加わっていることを表す。雇用は、仮にGDPが年間6.5%増加すれば、1.43%増加し、年間500万人から700万人の雇用が生み出される。この新規雇用は、民間部門で生み出される。雇用増加率は、経済成長と直接関係するのである。

しかし、他方で労働力人口の増加と雇用機会のギャップを埋める特別な努力がなされないと、失業者数は、1999年度の905万人から、2007年には2594万人、2012年には3,242万人に増加すると予想される。

第10次5か年計画で提案されているように、GDPの成長率が、年8%に向上しても、失業者数は、2007年には1972万人、2012年には1794万人に増加すると予想する研究者もいる。また、GDPが、年9%成長すれば、失業者数は、2007年で1,432万人、2012年で1,005万人になると分析する研究者もいる。

このような情勢に対処するため、経済成長を促進し、雇用機会を増加させ、労働者の技能を向上させる政策が必要になってくる。特に、解雇された労働者に対し再就職のための訓練事業を整備する必要がある。

以前は、雇用機会を増加させる分野として、農業とインフラの整備が期待されていた。植林事業、灌漑事業、耕地開発が、大きな雇用を生むと予想されていた。しかし、最近の研究によると、今後10年間の新規雇用の70%は、サービス業で生まれると予想されている。

サービス業は、今後、数も種類も増加すると予想されている。主なものは、外食産業、旅行産業、不動産業、小売業、運輸業、金融業である。

望まれる社会保障制度の整備

市場経済の導入と経済のグローバル化に伴い、終身雇用制度は崩壊しつつある。企業間の、労働力移動を促進するために、失業者の再就職活動中の生活保障を整備する必要がある。社会保障が整備されれば、労働組合が、経済改革についての協力者となる可能性もある。

中央政府は、社会保障の範囲を拡大することにより、労働組合からの圧力に対する危惧を解消するよう全力で取り組まなければならない。加えて、労働者の技能の向上と、再就職へ向けての労働市場の機能を向上させなければならない。この目的のために、政府は、マレーシア、シンガポール、韓国を参考にして、再訓練のための機関を設置する必要がある。

しかし、労働市場改革は、雇用機会が減少傾向にある現状では実施しづらく、グローバリゼーションの圧力は、世界の多くの国に予想以上の衝撃を与え、インドも例外ではない。

また、一部の研究者からは,国家新生基金(NRF)を、改善し再創設する提案がなされている。

NRFは、公営企業のリストラで影響を受けた労働者の生活を維持するために、1991年度に中央政府により創設された。この基金は、任意退職制度を選択した労働者に対する特別助成金、また事業の閉鎖により解雇された労働者に対する生活補助金として準備された。NRFは、リストラされた労働者の再就職訓練事業に対する財政援助としても使用される予定だった。基金の財源は、中央政府予算と世界銀行からの融資により賄われた。この制度が発足して以来、公営企業の任意退職制度(VRS)の支払いに対する補助金として、150億ルピーが使用された。

しかし、この基金の目的である、解雇された労働者の再就職訓練や転職支援事業は、まったく無視されてきた。最近では、NRFの存在とその目的は、ほとんど忘れられている。このため、一部の研究者から,中央政府は解雇された労働者に対する再職業訓練や転職支援事業を行うためにNRFを改善し、事業範囲を広げてはどうかという提案が出されている。

しかし、非組織部門の労働者に対する社会保障をどのように提供するかが問題として残る。非組織部門の労働者は、全労働者の90%以上を占める。非組織部門の労働者は、組織部門の労働者と比較すると、賃金や社会保障の水準においてかなりの差がある。労働市場の自由化は、非組織部門の労働者に対しても、失業保険を中心とした社会保障の導入を伴うものでなければならないが、現在の国情では実現は難しい。

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