拡大局面下の労働市場

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年1月

労働市場の今次拡大局面を通じて、スペインの労働市場の伝統的な不均衡要因が修正される傾向は見られなかった。例えば、スペインにおける労働市場参入率は、欧州平均よりもかなり低いままである。就業者数の大きな増加にもかかわらず(アイルランドなど他の欧州周辺諸国よりはかなり少ないが)、労働力率(16歳以上の人口に対する就業者及び失業者の割合)は、1994年の49.05%から現在の51.32%まで、わずか2ポイント伸びただけである。しかもこの数値は1970年代初頭の就業率にも及ばず、欧州主要国や米国の70%を優に超える就業率にも大きく劣っている。

したがって、今次雇用成長局面では、すでに積極的に職探しをしていた労働者が仕事を見つけたものの、いわゆる「予備軍」(働くことを希望しているが、職探しをする意欲をとかく失いがちな人々)については、そのごく一部が労働市場に参入するのにインセンティブを与えただけであると言わざるをえない。純雇用創出は300万人近くにのぼるが、これは一方では失業者数の160万人減少、他方では労働力人口の約150万人増によるものである。

以上から2つのことが言える。一方では、働きたいと思う人の数がごくわずかしか増えない以上、労働市場における労働力供給過剰が見られる状況と比べれば、失業率の低下速度はかなり速くなることが考えられる。失業率が1994年の24.58%から現在の12.97%まで、つまり7年間でほとんど半減した理由はここにある。他方では、労働市場がますます多くの職場を提供しつつあるにもかかわらず、国内で労働市場に参入する人材が次第に枯渇しており、その不足分を外国人労働力で補う傾向があらわれている。他の欧州主要諸国ほどではないものの、熟練度の低い労働など、条件が悪くなくても国内で労働力を集められない職業を中心に、スペインでも外国人労働者の急増が見られる。1994年以来のスペインの労働力人口増大の17%は外国人労働者である。

全体としてみると、職探しにあまり期待していない労働者や移民労働者が労働市場に参入し始めたのは、雇用局面の回復から一歩遅れたと言える。1995年以来、雇用成長は年間3%以上を維持しているが、労働力人口は年1%の成長にも満たない。対照的に2000年には労働力人口増が3%に達している。少なくとも労働統計の示すところでは、スペインの労働市場への労働者の新規参入は、景気局面の後退そのものよりも失業減のスピードダウンを説明する要因となっている。

高い女性の参入上昇率

労働力率の上昇は、ほとんどが女性労働者の参入によるものである。男性労働者の労働力率は1994年の63.74%から2001年の63.83%とほとんど変化していないのに対し、女性は35.34%から39.72%と4ポイント以上上昇している。それでも、他の欧州諸国の女性労働力率に対する差は、男性よりもはるかに大きい。

また、女性の労働市場参入の増大は、必ずしも雇用における男女格差の緩和や、女性失業率の低下につながらなかった。過去7年間における300万の雇用創出のうち、女性は50.9%を占めている。女性就業者数は1994年の400万人から2001年の550万人と39%増加しており、男性よりも20ポイントも高くなっているが、これはもともと男女間の就業者数に差があったためである。

労働力人口と就業人口のデータに見られる差は、失業に見られる男女差にも反映している。1994年から2001年にかけて、男性の雇用は150万人増え、一方失業者数は200万人から90万人弱へと減少した。これに対して女性では、雇用が150万人増えたにもかかわらず失業者は94年の180万人から、現在では130万人になって、したがって雇用増で吸収された失業者数は50万人にとどまったことになる。つまり、男性失業者数が50%減少したのに対し、女性失業者減は25.8%である。

サービス部門への雇用集中

雇用の創出は部門によっても差がある。全般的には、今次雇用成長局面を通して、サービス部門への雇用集中傾向が進んだといえる。1994年から2001年までの間にサービス部門の雇用は30%増大し、全雇用の59.8%から現在では62.0%を占めるに至っている。しかし、雇用の成長が最も著しかったのは需要の激しい変動にすぐ影響される建設部門で、これは個人住宅の需要の急増によるものである。建設業では雇用増は68.4%に達し、全雇用に占める割合も94年の8%から現在では12%近くに達している。

一方、工業部門の雇用は13%増えたが、全雇用に占める割合は21.2%から19.9%に低下している。農業部門では、EUの共通農業政策により雇用の急減がようやく落ち着いたが、雇用増には向かっていない。農業は1994年以降で雇用が減少した唯一の部門で、全雇用に占める割合も10.0%から6.7%に低下している。

雇用のサービス部門への集中現象は、ほとんどが同部門における女性の雇用増という形で起こっている。逆に、男性の雇用に占めるサービス部門の割合は、1994年の50.8%から2001年の50.6%へと、ごくわずかながら低下している。この期間に創出された男性の雇用の45%がサービス部門であったが、女性では創出された雇用の20人に17人がサービス部門である。もともと女性雇用に占める同部門の割合は77.2%と高かったが、現在では81%にまで達している。

民間部門での賃金労働者の増大

スペイン労働市場のもう一つの傾向である賃金労働者の増大にも、拍車がかかった。賃金労働者が全雇用に占める割合は、1976年で68.6%、94年で73.3%、そして現在では79.5%となっている。絶対数では、1994年よりも316万人多くの賃金労働者がいることになり、これはこの間の雇用創出総数を上回る数値である。性別で見ると、女性の方が賃金労働者の割合が大きく、男性の77.5%に対し83.0%である。またこの差は、1994年には2.6ポイントであった。

賃金労働者の増加の背景には、家族従業者の大きな減少がある。家族従業者は統計上の区分であるが、この中には直接的な報酬を受けずに家業を手伝う労働者も多数含まれていた。またこれよりは目立たないが、自営業者の減少も見られる。しかし、賃金労働者を雇用する使用者数は、1994年から2001年の7年間で60万人に達し、50%増と過去最大の伸びを示した。相変わらず男性の使用者が圧倒的に多いが、女性企業家も1994年以降倍増し、10万人を超えている(全体の22.8%)。

賃金労働者の増大のほとんどは民間に集中しており、1994年以来31%増、絶対数では300万人近くの雇用増となっている。これに対して公共部門では、雇用減には至っていないものの、年平均で1%足らず、通算で10.9%の伸びにとどまっている。ただし、公共部門では雇用の提供及び需要とも構成に変化が見られた。すなわち、1996年を通じて中央の賃金労働者が16%減ったのに対し、地方では合計で46%も増えている。これは中央から自治州への権限委譲に伴うものである中央で創出された雇用の多くは、軍隊の職業化によるものであり、過去4年間で軍の要員は50%近く増え、中央の全雇用のほぼ15%を占めるに至っている。

また、過去7年間で公共部門における女性の雇用は35%増えたが、男性の雇用はほぼ一定数を保っている。その結果、女性の割合は1994年の42.9%から2001年には49.1%まで上昇している。また、民間の有期雇用率に変化が見られなかったのに対し、公共部門では1994年の有期雇用率は16.4%であったが、現在では21.4%まではねあがっている。

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