拡大する好況下の労働市場

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年12月

1994年第2四半期のスペインの失業者数は380万人であった。それ以来7年間失業者数はほぼ間断なく減少し続け、2度の労働市場統計方法の修正を経て、2001年第2四半期には220万人となっている。これは約42%、年平均6%の減少であった。これと平行して、失業率は24.6%から13.0%に低下している。失業の減少傾向は現在ほぼストップしつつあるかに見えるが、ここでスペインの労働市場が近年の好況局面においてどのように変化したかを振り返ってみる。

拡大する雇用

伝統的にスペイン経済には、経済成長を雇用拡大につなげる能力が欠如しているとされてきたが、過去7年間を振り返るとこの点は克服されたかに見え、注目に値する。最近の好況局面においては、経済成長率1ポイントに対する雇用成長率は0.8%となっている。ちなみにこの数値は、直前の雇用拡大局面である1986~91年では0.4%であった。

しかし、このような雇用創出能力の向上にネガティブな効用が伴わなかったというわけではない。中でも最も明らかなのが労働生産性の停滞であるが、これが長期的に見れば経済成長に決定的な影響を与えうるのは言うまでもない。1980年代には生産性の上昇率が年間10%に達したこともあったが、過去3年間ではほとんど0%すれすれまで落ち込んでいる。今回の雇用拡大局面(1994~2001年)を通してみると、生産性上昇率は年平均1.1%で、86~91年の7.2%よりかなり低くなっている。

つまり、雇用の拡大が生産性の低い部門に集中する傾向が見られたということである。具体的な数値で見ると、好況局面を通じて生産性の低い部門に雇用創出の6割以上が集中したのに対し、生産性が中程度の部門と高い部門では各々2割程度にとどまっている。一方、情報通信部門での雇用創出の急増に伴い、過去数年間では熟練度の高い部門の雇用増がスピードアップしているようである。

生産性上昇の減速

生産性上昇の減速は、今回の雇用拡大局面のもう1つの特徴である労働市場の柔軟化の結果でもある。この柔軟化はもっぱら雇用契約形態の柔軟化という側面にのみ集中し、その結果として有期雇用契約が急増し、これが熟練度の低い労働者の大量参入につながったのである。費用対便益の観点から見れば、使用者側は、景気拡大局面を通じて、熟練度・生産性ともに低い労働者を有期雇用の形で雇用するインセンティブを有した。言いかえれば、有期雇用という契約形態によって解雇コストを回避することができたのであり、そうでなければ使用者側が進んで雇用創出を行うことはまずなかっただろうとさえ言えるのである。

労働市場柔軟化が雇用契約形態の柔軟化に集中するという現象は、個別の景気局面の状況だけによるのでなく、スペイン労働市場の特徴となっているようである。政府、労組ともに、有期雇用率(賃金労働者総数に対する有期雇用労働者の割合)を減らすべく多大な努力を傾けてきたものの、労働市場をとりまく諸状況の中で全く効力を持たなかった。1994年の有期雇用率32.6%に対し、2001年は31.5%と、ほとんど変化していない。

様々な労働指標の中でも、有期雇用率は、男女格差があまり見られない唯一のものかもしれない。男性の有期雇用率29.9%に対し、女性のそれは34.0%となっている(過去7年間でこの差は1ポイントのみ縮まっている)。一方、年齢は決定的要因である。16~19歳の賃金労働者では83.0%が有期雇用労働者であり、逆に61歳以上ではわずかに11.5%である。

有期雇用に関して過去7年間にわずかながら変化が見られたのは、公共部門における有期雇用率の上昇である。民間では有期雇用率が37.8%から34.3%に低下したのに対し、公共部門では16.7%から20.3%へ上昇している。公務員の雇用形態は一般に硬直性が高いが、有期雇用の導入は、行政側によるこの硬直性の緩和の試みと見られるだろう。

外国人労働者の増加

以上2つの特徴と並び、今回の雇用拡大局面の第3の特徴は、外国人労働者のスペイン労働市場への参入である。この現象自体は景気局面とは直接関係ないものの、1994~2001年の間に移民労働者の数は急増している。外国人の就業者数は1994年の7万人(全就業者数の0.59%)から、2001年には27万5000人(2.35%)へと、ほぼ4倍に増えた。また、このうちEU以外の地域の出身者だけに限ってみると、その数は5倍に増えている。労働市場の国際化は国内の労働市場の好況にやや遅れて反応する形で、近年急激に進む傾向にある(1999年で全就業者数の1.21%、2001年で前述の2.35%)。

外国人労働者の構成にも変化が見られる。外国人労働者総数のうちEU諸国出身者の占める割合は、1996年の45%から2001年の25%へと低下している。これと対照的に、EUに加盟していない欧州諸国出身の労働者数は、1994年の3%から現在では11%に達している。ラテンアメリカ出身者は、1990年代の初頭よりすでに最も数の多いグループであったが、2001年には外国人労働者の37%となっている。

外国人労働者の多く、特にEU以外の地域からの労働者は、熟練度の低い部門で雇用されている(全体の約60%)。性別で見ると、女性の外国人労働者1人に対し、男性は1.5人となったいる。ただしEU以外の地域の出身者だけに限って見ると、女性1人に対し男性1.38人で、これは家事労働者として働く女性が多いためである。外国人労働者の男女比は、移民流入の波があるたびに変動し、例えば1998年には女性の数が男性のそれとほぼ等しくなるほど増えた。

ただし、女性の外国人労働者は、スペイン人女性労働者よりも労働市場への参加率が高いと言える。スペイン労働市場全体で見ると、女性労働者1人に対する男性労働者の数は1.7人である。ただし今回の雇用拡大局面を通じて、女性の参加率が高まったことも確かで、1994年には女性が労働市場の34%であったのが、2001年には36%まで伸びている。

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