労組はペアより雇用保証を重視
 ―電力危機など取り巻く環境悪化で

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年11月

サンパウロ州工業連盟の発表によると、州内工業は2001年7月に5,199人の雇用を減少させた。これは1999年1月のマクシ為替切り下げ以後の混乱が最高に達した同年4月の6,415人解雇に次いで多い雇用減少である。主要原因として同連盟は、隣国アルゼンチンの財政危機の影響と電力危機、政府が採用している高金利政策、欧米及びアジアの経済減速を指摘した。そのうえ連盟では、8月の解雇はさらに増加すると予想している。これは、労働者の社会保障基金強化の必要上、政府が2001年9月以降の正当な理由のない解雇に対する罰金を支払い額の40%から50%に引き上げると決定しているために、追加負担を避けようとして、8月中に解雇する企業が増えると見ているためだ。

こうした状況を反映して、サンパウロ州では2001年下半期に年間労働協定の更新を迎える労組の作戦に転換が起こっている。

ブラジルの2大中央労組であるCUTとフォルサ・シンジカル自体が、労使交渉の段階になると給料の引き上げよりも、職場を守るほうが重要な交渉事項になろうと認めている。昨年同期は経済情勢が有利に進展していたために、大部分の労組はインフレ・アップ率以上のベアを確保している。2大中央労組に所属する3300万人のうち、2001年8~12月に労使交渉を行う業種は全国で1800万人と計算されており、金属、化学、銀行、石油精製、食品工業など強力な労組が並んでいる。

CUTは8月から開始した交渉運動に統一したべア要求率は定めず、各業種別労組が業種別生産性を考慮して、各自で要求率を定めることとしている。CUTは例年なら下半期のベア要求運動を6月から開始するが、今年は節電と言う予期しなかった障害が発生したために、8月後半まで様子を見守り、2カ月以上遅れてようやく開始している。

6月から始まった南東、東北、中西部地帯の平均20%節電義務は、いつまで続行するのか、毎週金曜日を休日とする第二節電計画を発令する事態に至るのかどうか、現状では全く予測が付かないために、労組としても作戦がたてられなくなっている。5月から始まる冬の乾季は9月で終わるが、現在のように70年振りの旱魃といわれている天候不順では、順調に10月から降水が始まるのか、10月以降の夏の高温と年末向けの工業生産が加速すべき時期に電力が足りるのか、といった疑問が労組内でも議論されていて、中央労組は工業各社の解雇状態とにらみ合わせながら検討している。

CUTが所属組合内で電力消費依存が大きい金属工業労働者約70万人を調査したところ、2カ月の内に1,310人が解雇されており、節電と解雇は連結しているとの結論を出した。金属工業は8月に入っても解雇を続行している。CUTの発表ではパラナ州の古川電工が760人の従業員のうちから68人を解雇すると発表した。会社の発表では電話線の製造設備利用率が7月始めの100%から8月は20%に激減した結果だと伝えている。

こうした情勢変化が各部門に見られるために、CUTのジョン・フェリシオ委員長は、大部分の大手企業の労働者でも、雇用維持が労使交渉の最も重要な到達目標になろうと認めている。さらに、中小企業ではもし節電が強化されれば、いかに交渉しようとも解雇は避けられないだろうとの現実的な見方を示している。

サンパウロ首都圏の工業地帯サンベルナルト金属労組のルイス・マリーニョ委員長も、「解雇リスクが強い時期の労使交渉はいつも雇用維持が優先される。今年は自動車生産を主体として、工業生産が低下中のため、特に雇用維持を考慮する必要が有る」と交渉の困難さを予想している。

もう一方のフォルサ・シンジカルは、9月始めに、実質6%とインフレによる損失補填分9%を合わせた15%を統一要求率として掲げると決定している。「昨年以来のベア要求作戦は変更せず、電力危機は要求拒否の理由にはならない。8月までに行なわれた解雇は電力危機の影響ではなく、通常の労働力ローティションである」と、表向きは強気な発言をしている。しかし事務局レベルでは、実際の交渉に入ると下半期はベア要求よりも雇用維持が主要テーマになり、解雇回避策として「労働時間銀行」で危機を切り抜けるような手段を交渉することになろうと予想している。

すでに自動車部品労組は使用者側と、8~10月に解雇をしない代わりに120時間を上限とする労働時間銀行に参加し、10カ月の間に超過勤務で支払うとの約束を行った。しかし、この契約を交していながら労組自体が、節電が長期化して長い期間の減産が必要になれば企業は労働時間銀行のような措置では耐えられないだろう、と心配している。

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