2001年第2四半期の労働市場

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年9月

スペインでは雇用創出が伸び悩みを続け、雇用のマイナス成長にも転じかねない傾向にある。景気は2000年に頂点に達したあと後退の兆しを見せており、国際的な期待感の減退および証券市場の下降もあいまって、労働市場では新規雇用創出に影響が出始めている。

2001年の第1四半期を通じて、就業人口の増加はわずかに0.03%にとどまった。毎年この時期には大きな雇用創出が見られないのが常であるものの、経済状況が最悪であった1994年以来最低の伸びである。過去2年間には第1四半期の雇用の伸びは1%を超えていた。一方前年同期比では2.8%増で、1990年代半ば以来の低い成長である。これもまた前年よりも2ポイントも低下しており、これほどの低下は1980年代までさかのぼらなければ見られないものである。

逆に、失業者数の減少はこの間わずか1%にとどまっている。就業人口のレベルが維持されているのに失業の数値がわずかながらも低下を生むのは、求職が飽和状態にある、つまり労働市場に参入する人口がこれ以上増えないことを意味している。この2つの要因の結果として、労働力率(成人年齢人口に対する<就業者数+失業者数>の割合)はほぼ一定で保たれており、過去数年間に雇用が急成長したにもかかわらず、労働力率の上昇は2%以下にとどまっている。スペインでは労働市場への移民労働者の参入が進みつつあるが、これも非就業者を労働市場へ引きつけるインセンティブを提供できないことを反映している。

2001年第1四半期の失業率は13.3%となっている。失業率は過去10年間でほぼ半減と目覚しい低下をとげ、EU並びに他の先進諸国のレベルに急速に近づいている。

しかし、失業の減少に伴って地方や労働者のタイプによる格差の縮小は見られなかった。失業率の低下は一家の世帯主層が中心で、逆に家族のその他のメンバーの間では、失業の減少度ははるかに低くなっている。全体に、労働市場の中でも状況が比較的悪くない層(成年男子)の失業減が最も大きく、その他のより不利な層ではあまり大きくない。労働市場の中核をなす成年男子の失業率は8%未満で、6年前の16.4%からは大きく低下している。

一方、失業率の地方間格差も非常に大きい。アンダルシア州のセビーリャ県、カディス県では失業率が25%を超えているが、これに対しバレンシア州のカステリョン県、カタルーニャ州のリェイダ県、カスティーリャ・イ・レオン州のソリア県の失業率は6%未満となっている。全体としては、近年の雇用増の中で失業率の地方格差がさらに深まる傾向が見られる。

近年は需要の変動への対応として雇用と失業の変動が激しくなっているが、これは労働市場の柔軟化の強化によるところが大きい。労働市場の硬直性と、これがスペインの高い失業率に与える影響については、何度も触れられてきた。しかし、1970年代、80年代を通じて特徴的だった労働市場の硬直性(いずれにしても他の欧州諸国とそれほど開きがあったわけではないが)は、大幅に改善されてきている。

問題は、この柔軟化が偏った形で進んできているという点である。つまり数量的な柔軟化だけが進み、需要変動への調整メカニズムの改善としての他の可能性は全く提起されてこなかった。高い解雇コスト、転勤・配置転換への障害、生産性と連動しない賃金といった硬直性の要因は、ほとんど手つかずのまま残されている。こうした状況に対し、使用者側は唯一合法的に許されている柔軟化の手段である雇用契約の柔軟化に訴え、その結果有期雇用がスペインの労働市場の最大の調整メカニズムとなったのである。

こうした文脈の中では、1997年の労使間雇用安定協定、また協定終了後も現在にいたるまでとられ続けている期間の定めのない雇用(無期雇用)促進の様々な措置も、その影響は限られたものとならざるをえなかった。無期雇用がわずかながらも増えたとはいえ、労働市場への大量参入は相変わらず有期雇用によるものである。しかも、現在の好況局面を通じて無期雇用労働者と有期雇用労働者の労働条件の差はさらに開き、労働市場の二重化に拍車がかかっている。

有期雇用労働者の労働条件の悪化は、2つの側面で進んでいる。まず、有期雇用労働者派遣会社(ETT)の存在が極めて重要である。この種の会社は1994年にスペインで活動を開始して以来、現在では全雇用契約の実に20%を占めるに至っている。ETTを通じて結ばれる雇用契約の95%は契約期間が5日未満のもので、そのため労働者の回転は激化し、有期雇用全般に対する影響も目立ち始めている。

有期雇用がスペインにおける唯一の労働市場柔軟化の手段となったため、経済成長の変動に対する調整方法にも大きな変化が見られる。硬直した労働市場のもとで1980年代の半ばまでは生産性の向上(設備投資および職業訓練による)の結果として経済成長が見られ、そこから市場への参入の低下と失業率の上昇が起こったが、それ以降は景気変動が特に就業人口に反映するようになってきている。過去数年間に見られた経済成長により、スペインではかつてなかった就業人口の増大が見られた。過去5年間にEU内で創出された雇用の5人に2人がスペインのものである。したがって、スペインでは歴史的に見て強い経済成長下でも雇用創出能力が欠如していたが、その状況は乗り越えられたものと見てよい。

このようにして形成されてきた新しい労働市場のネックは、1990年代初頭に見られた、あるいは今後予想されるような景気後退局面で雇用の激減が起こるということである。その一方で、生産性の成長はごくわずかしか見られない。実際、スペインにおける労働生産性の成長はEUでも最低である。有期雇用によって、景気後退時にはコスト・ゼロで解雇できる労働者の労働市場への新規参入の道が開かれたが、これは同時に生産性が低く労働条件も不安定な労働者の参入を意味している。事実、過去5年間に創出された雇用の4人に3人までが、ホテル業や商店などの低生産性・低熟練・小資本の部門に集中しており、景気後退の兆しが強まれば一気に雇用喪失に向かうことが予想される。

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