2000年後半の失業情勢

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

失業者減少に陰り

労働力調査によるとスペインの失業者数は、2000年第3四半期に230万人まで減少している。これは前年同期に対して9%近い減少であるが、第2四半期に対する差はわずか1%にも満たず、失業の減り方がスピードを落としていることがわかる。1999年同期における年 間減少率は16%を超えていたが、現在では1997年から98年のレベルにもどっている。2000年第3四半期の失業率は13.7%である。

部門別に見ると、工業およびサービス部門では失業が減っており、逆に農業と建設では増えている。特に需要の変動にさらされやすい建設部門では、2000年を通じて失業者数が9%も増えている。年齢別では若年者ほど失業の減り方が大きく(-10%を超える)、年齢が上がるにつれて減りにくくなっている。

一方、国立雇用庁(INEM)によると登録失業率は、失業者への手当支給政策の実施に左右される数値であるため、信頼度の高いデータであるとは国際的にも見なされていないが、いずれにしても似たような失業率の動向を示している。

INEMは労働力の需給の仲介としては歴史的に機能は弱く、INEMを通じて就職するケースはわずかに20%、しかもその割合は低下する一方である。そのため求職をINEMに頼ろうとする失業者はいきおい少なくなりがちであり、したがってINEMでは失業者数を過小に数える傾 向がある。さらに、過去5年間を通じて失業者への各種手当支給枠が縮小されつつあることを考えれば、失業者にとっては何かと拘束の多いINEMへの登録が必ずしも利点とはなりえ なくなっている。

ただし、INEMの窓口で求職依頼をする失業者数は1998年11月より増えていることも確かで、これによりINEMの登録失業率は再び10%を超えるようになっている。2年半前までは登録失業者数は年間30万人近くの減少を続けていたが、現在ではその数は5万人程度であり、さらに減少する傾向にある。

労働力調査によると、2000年は女性失業者数が8%以上も減少しているのに対し、男性では5%未満となっている。それでも失業者全体の中では女性の方が多く、女性の占める割合も伸び続けている。現在の好況期の初めには女性失業者の割合は50%にも満たなかったのが、現時 点ではほとんど60%近くに達している。INEMの登録失業者を見ても、女性が60%を占めている。これを視点をかえ、家庭内での各人の役割の観点から見ると、子供たちの世代の失業率は 12%以上、世帯主の失業率も10%近く低下しているのに対し、圧倒的に女性が多い「配偶者」の間では失業率の低下はわずか0.5%足らずにとどまっている。

経済的に独立している、あるいは親と同居している若い女性の間では失業が減る傾向が見ら れるが、家庭に経済的貢献をしている既婚女性の場合、失業の減り方は前者よりもかなり小さい。失業の減少の背景にはより熟練度の低い雇用の増大があり、そのため、年齢が下がるほど 失業が減っているといえよう。

減少する長期失業者

現在の景気局面における雇用創出の最大の特徴は、長期失業者の動向である。これは、以前のような長期間にわたる失業手当支給が行われなくなったため、長く失業状態にあることのメリットが失せたことが大きく影響している。景気回復の初期には長期失業者(1年以上) が失業者数全体の60%近くに達していたが、現在では45%程度まで減少している。2000年における長期失業者数の減少率は15%を超えるが、逆に6カ月未満の失業者は12%増となっている。

また、より長い期間にわたって失業していた労働者ほど失業が大きく減少する傾向が見ら れる。2年以上失業状態にあった労働者の間では、2000年を通じ20%も失業が減少している。これはしかし、長期失業者の大幅な減少に向けてとられた政策の成果というより、労働市場 そのもののメカニズム、あるいは長期失業者の多くが有する知識・技能に対しての需要が高まった結果という側面が強い。長期失業者の期間の定めのない雇用に対する優遇措置も、20 00年第4四半期には7000人、すなわち当該期間における期間の定めのない雇用契約全体のわずか2%において適用されたのみである。

一方、失業に見られる地方間格差は、解消はおろか縮小すらしていない。経済開発度の高い 県では失業率が5%前後であるのに対し、南部の県では、この数値は6倍にはねあがる。

柔軟な労働市場

今回の好況を通じて、スペインでは雇用創出・失業率低下ともに1970年代以来最大の成果をあげたが、これは好調な経済局面に加え、かつてない柔軟な労働市場という受け皿があったことによる。つまり、経済成長がより迅速に労働市場の動向に反映できるようになったのである。 しかし、柔軟化とは諸刃の剣であり、不景気への転換の兆しがすでに現れ始めた現在、市場がより簡単に余剰人員切り捨てに傾くことも予想される。

1990年代を通じて導入されたスペインの労働市場改革は、インフレにつながらない構造的失業率の10%を超える低下という成果をもたらした。OECDの計算によれば、スペインの構造的失業率は1990年には労働力人口の17.4%だったが、1999年には15.1%まで低下している。

この間、欧州連合全体では構造的失業率は一定のまま変化を見ていない。しかし、スペイン の構造的失業率はいまだに欧州連合平均の2倍、OECD諸国の3倍に達する。OECDの報告によると、構造的失業率が1ポイント以上低下しているのはスペインのほかカナダ、オランダ、ニュージー ランド、イギリス、ポルトガル、アイルランド、ノルウェーだけである。

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