2000年後半の労働力人口及び就業人口

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年5月

最近の統計(2000年第3四半期)を見ると、スペインの労働力人口は、直前の四半期に対して2.7%増の約1700万人に達している。一方、就業者数がこれを上回るほぼ5%近い伸びを維持しているため、失業率は大幅に低下している。しかし、1996年以降一貫して見られた労働力人口の増加率と就業人口の増加率の差が、ここへきて縮まる傾向が明らかになっている。まず、労働市場への参入に期待が持てず、そのため最初から求職意欲を喪失しがちだった層が、雇用の順調な拡大に励まされる形で、労働市場への参入を始めており、これによって労働力率が上昇している。しかし、経済全体の成長がスピードダウンする中、雇用の伸びもそろそろ安定化してきている。将来的にこうした状況が続くことで再び失業増につながることも予想できるが、当面は景気への期待感が縮小する中、今後数四半期にわたって労働力率と雇用増加率がどのような動きを示すかが、失業の動向にとって決定的となろう。

労働力人口の大きな増大の結果として、スペイン労働市場の二重構造がさらに深まっている。つまり労働力率の上昇は、もともと労働市場への参入の度合いが高い男性の方が、女性よりも大きい。同様に、年齢別に見ても労働市場の中核である、25~54歳の層で大きな労働力率の上昇が見られたのに対し、両端の若年層と高年層では逆に低下している。具体的には、16~19歳の層及び55歳以上の層の2000年第3四半期の労働力率は1.4%減となっている。ただし、これは両方の年齢層の人口減によるところも大きい。1960年代~70年代のベビーブーム世代の後に続く、より人口の少ない若年層の参入によって、2000年の彼らの労働力率はほとんど7%近い上昇を示した。労働力率全体は第3四半期には51.6%に達し、長年にわたって越え難いとされてきた50%のハードルを越えたものと見られている。

就業率はこれと全く逆の動きを示しているが、それはもともと労働市場の中でもより不利な層に就業人口増が集中したためである。女性の就業者数が労働力調査で対前年比7.5%、男性では3.5%を下回るより緩やかな伸びを示した。一方年齢別で見ると、下降の一途をたどっていた55歳以上の層の雇用が大きく伸びている。20~24歳の若年者でも、就業者数の増大は平均を上回っている。

平均で4.8%にのぼる就業人口増を支えているのは、建設部門、及びサービス部門の熟練度の低い雇用である。ただ、最近になってわずかながら内需が落ち込みを示した結果、ここ数年にわたって続いた建設部門の雇用の急増にもややかげりが出ている。建設部門は景気変動の影響を非常に受けやすく、すでに状況の変化が見え始めたようである。一方サービス部門の雇用成長は5.5%に達しているが、過去数年ほどの勢いはなく、やはり好況局面が終わりに近づいているのを示唆しているようである。

雇用の伸びが最も大きかったのは、技術者・大卒レベルなど高度技能・知識を有する労働者層で、逆に最も小さかったのは補助事務員である。サービス部門を中心に中程度技能の層が全体に縮小し、工業部門の雇用の伸びは平均を下回っている。

1980年代から90年代初頭にかけての相次ぐ改革の結果、スペインの労働市場は大幅に柔軟化してきており、需要の変動に対する調整がもっぱら有期雇用と有期雇用労働者の解雇に集中することになった。賃金労働者の3分の1近くを占める有期雇用労働者の解雇コストはゼロであり、そのため雇用者側は生産性向上という長期的な目標を目指すかわりに、人材の拡大・縮小という手段に訴えがちになっている。そのため、1995年以来スペインの生産性向上は欧州連合諸国間でも最低レベルにとどまっており、スペイン銀行のデータによれば99年の生産性の向上率は1%にも達していない。

2000年第3四半期までの賃金労働者数の増加は6.1%で、雇用増全体の平均を上回っている。特にサービス部門ではこの傾向が顕著である。一方農業部門では、賃金労働者は2.1%減となっている。

賃金労働者数の増加率は1999年半ばに10%近くに達した後、徐々に低下傾向にある。特に目を引くのは、公共部門の雇用動向が1998年半ばの3%減から一気に5%増へと転じ、民間での雇用の後退の影響を緩和している点である。

とはいえ、公共部門での雇用成長は決して一様ではない。2000年を通じて中央行政の賃金労働者数が1%減少したのに対し、自治州レベルの行政では11%と大幅な成長を見ている。中央政府から自治州への権限委譲に伴って自治州行政の人員は増え、中央行政での人員削減を上回る伸びである。自治州への権限委譲分を差し引いた中央行政での雇用増の大半は、軍隊の職業化によるものである。過去4年間で軍隊の要員はほぼ50%も増え、中央行政の創出する雇用の約15%を占めるに至っている。市町村行政での雇用の伸びは2000年を通じてほぼ1%となっている。期間の定めのない雇用労働者の数は、第3四半期までに7.7%増加し、一方、有期雇用労働者は3%増となっている。このため有期雇用の割合は2000年を通じてわずかながら減少したものの、急速かつ大幅な減少とは言い難く、スペイン人労働者のほぼ3人に1人が有期雇用労働者という構図にほとんど変化はない。

公共部門における有期雇用の率は全産業部門平均を下回っているが、過去数年間で大きく増えている。一方、有期雇用率における男女差はもともと大きくなかったが、さらにその差を縮める傾向にある。恐らく有期雇用率は、労働市場でも唯一女性に対する差別が認められない要因である。

部門別では、建設部門のみで有期雇用の減少が見られたが、それでももともと建設の有期雇用率は非常に高く、70%近くに達している。企業の規模別による差は狭まりつつある。一般に、企業規模が大きくなるほど有期雇用率は低くなるが、小企業の有期雇用率は低下しており、逆により大きな規模の企業の有期雇用率は2000年を通じて上昇している。

公共部門でのは自治州ごとにかなり異なる様相を示している。スペイン語以外の自治州独自の言語を有する州は、アストゥリアス州を除き、いずれも公部門の雇用の占める割合が全国平均を下回っている。例えばカタルーニャは雇用全体に占める公部門の割合が9.3%と最も低く、続いてバレアレス及びバスク(11.8%)、バレンシア(12.5%)、ナバラ(13.3%)、ガリシア(13.6%)となっている。1県だけから構成される州も、公部門の割合は平均をやや上回る程度で、カンタブリア、ラ・リオハ、アストゥリアス、ムルシアの順に15.3%から16.1%の間にとどまっている。唯一例外はマドリッド州だが、これはマドリッド市がスペインの首都であることを考えれば当然といえよう。一方スペイン南部の地方では、公部門の重みが非常に大きい。セウタとメリリャはともに北アフリカに位置するスペインの都市だが、軍の重要拠点となっていることから、公部門の割合は全国一で、実際被雇用者の2人に1人が公部門で働いている。続いてエストレマドゥラ、カナリアス、アンダルシア、カスティーリャ・ラ・マンチャ、カスティーリャ・イ・レオンとなっているが、いずれも経済発展度は全国平均を下回っており、公部門の雇用に占める割合は16.5%を越えている。

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