工業部門の労働協約、38カ月で8.5%賃上げが標準に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年4月

ブルーカラー労組(LO)とスウェーデン経営者連盟(SAF)の各部門が並行して労使交渉を行っている。工業部門のどの部門で最初に労働協約が締結され、どのような相場が形成されるか、各部門の労使は注目していたが、最初に協約合意した合成化学産業部門では、38カ月で8.5%に相当する賃上げ率が定められた。他の工業部門も類似の協約を結ぶものと思われる。

合成化学産業・最初の工業部門労働協約

3年間で6.95%の賃上げと各年1日分ずつ追加される時短(1.5%の賃上げに相当)、あわせて約8.5%が、スウェーデン工業部門の3年労働協約の標準になると予想される。使用者団体のALMEGAとLO傘下の労働組合(Industrifacket)は、最終期限の2週間前の1月16日に、最初の部門別(ゴム・プラスチック・医薬品産業)労働協約を締結した。現在、鉄鋼、エンジニアリング、製紙、木材を始めとする全産業で並行して交渉が進められている。労使双方が緊密に協調しているため、後続の部門別協約はコスト総額では大して差がない線で落ち着くと考えられるが、その内訳や細目については異なってくる可能性がある。

今回締結された最初の協約は、最も賃金の低い労働者に特に注意を払っており、最低賃金率を1時間当たり70.65クローネから80.24クローネ(1クローネ=12.12円)へと3年間で15%近く引き上げている。組合側は、この賃上げが経済全般の賃金水準にもプラスの影響を及ぼすと期待しているが、使用者側のALMEGAは「最低賃金を支払われている労働者は非常に少ないため、この賃上げは追加的な賃金ドリフトをもたらさないだろう」と指摘している。

ALMEGAによれば、賃上げ率は2001年2.7%、2002年2.2%、2003年2.05%である。協約期間は2001年2月1日から2004年3月31日までの38カ月間である。労働時間は2001年に1日、その後の2年間にもそれぞれ1日ずつ短縮される。企業と職場組合は、時短に代えて、0.5%の賃上げか、賃金0.5%相当の年金基金拠出増額を取り決めることもできる。組合側は、勤務時間を弾力的に設定する権利について、使用者に新たに譲歩することなく、この時短を勝ち取った。

スウェーデンがほぼ完全雇用を達成しており、複数の工業部門の使用者が、求人に苦労する可能性を考えれば、ある程度の賃金ドリフト、すなわち協約の枠外での賃上げがあるだろう。だが、今後3年間で総賃上げ率が10%を超える高水準に達すると予想する者はいない。したがって、中央銀行や閣僚が表明している「賃金が上がればスウェーデンはEMU(欧州経済通貨同盟)に参加できなくなる」という懸念は、根拠がないように思われる。

鉄鋼産業:38カ月で8.5%の賃上げ

2001年1月21日、LO傘下の金属労働者労働組合と鉄鋼産業使用者連盟は、反対しようのない協約を公平な議長(労使双方によって、予め共同任命された、労使交渉における議長)から最終的に提示された。鉄鋼労働者2万7000人を対象とするこの新協約は、賃上げに関しては加工業の先例に従い、2001年2月1日から2004年3月31日までの38カ月間で7%の引き上げを定めている。両当事者の計算によれば、この賃上げで月給は1年目に490クローネ、2年目に410クローネ、3年目に400クローネ増える。増額分をどのように配分するかについては、各工場の地域交渉で決定する。ブルーカラー労働者の職場組合は、全員の賃金を同様に引き上げるよう主張するだろう。ブルーカラー労組は、連続的な交替勤務に基づく産業で個別に賃金を設定するのは不可能だと考えている。

使用者側は上述の賃上げに加えて、労働時間短縮の代わりにさらに、年間0.5%賃金を引き上げる。しかし、賃金総額の1.5%に相当するこの増額分は、各労働者が補足年金を積み立てている貯蓄基金に繰り入れられる。この基金の目的は、各労働者が65歳よりも前に早期退職する資金を準備できるようにすることである。この制度は1998年に初めて導入された(この1.5%と賃上げによる7.0%を合わせて、計8.5%の賃上げが協約で取り決められた)。

この協約は、賃金が最も低い労働者への特別賞与も規定している。法定休暇中に支払われる1日あたりの給与の最低額は、協約期間中、毎年35クローネずつ引きあげられる。また最低賃金も9.5%引き上げられ、これも最低賃金を支払われている、ごく少数の新人に利益を与える。

年間0.5%の賃金ドリフトが予想されることについて労使の意見が一致しており、これによって使用者の賃金コスト総額は38カ月間で10%増えることになるだろう。

SSAB社、Sandvik社、AvestaSheffield社といった(スウェーデンの基準からすれば)大企業が名を連ねる鉄鋼産業使用者連盟のベント・フルド理事は、この協約は少々コストが高すぎると考えている。経済が減速しつつある現在、企業は価格を引き上げることができないからである。だが同氏は、上記の労働時間短縮方法に満足しており、政府が、労働時間そのものの短縮を強制させる法律を導入しないように望んでいる。

金属労働者労働組合のゲラン・ヨンソン委員長は、この協約は「ヨーロッパでの傾向と歩調をそろえている」と考えており、産業別労使交渉の枠内で鉄鋼労使が直接合意できたことに満足している。

教員を対象とする新しい5年協約

2000年12月21日に、3つの教員労働組合・職員労働組合連合(TCO)に属するスウェーデン教員組合、大卒専門技術労働者労組連合(SACO)に属する全国教員組合と校長労働組合が、2000~2004年(2000年4月1日から2005年3月31日まで)を対象とする新しい5年協約を締結した。この協約は、ホワイトカラーを対象にしている点で、今回紹介した他の2つの労働協約とは異なる。

新協約の内容は、2000年4月に当事者らが取り決めたが、組合員による一般投票で否決された協約とほとんど同じである。今回は一般投票で協約の可否を組合員に問わず、討議して各労組の一般協議会で票決したのち、関連3労組の執行委員が署名した。

自然科学や数学を中心に有能な教員が大幅に不足しており、市場原理によって、教員は地域個別交渉や地域協約交渉で優位に立っている。また、教員たちは、いざとなれば、企業が欠員を埋めるために四苦八苦している別の地域で、簡単に、より高賃金の仕事を見つけることができる。

全国協約の内容は以下の通りである。

  • 5年間の全国平均賃上げ率は20%で、2000年に4%、2001年には2%が保証されている。だが、教員個人の賃上 げは保証されていない。したがって、ある教員の賃金が5年間を通してまったく上がらないことも、理論 上はありうる。

  • 5年間の終わりに成果を評価する。学校活動の成果が上がった(たとえば、義務教育修了時にスウェーデン語、英語、数学で合格点を得る生徒数が増えた)にもかかわらず、賃上げ率の全国平均が20%に達していなければ、その 差額が支払われる(20%に達するのは間違いないと考えられている。過去5年間の平均賃上げ率は25%だった)。

  • 289の地方政府のそれぞれが、教員の仕事量(年間を通して均一な労働時間が保証される)について、5月末までに労組と地域協約を締結しなければならない。

  • 各当事者は、協約の結果に不満がある場合は、2001年9月末までに本協約を終了させることができる。

  • 教員と地方政府は、教育計画に定められた目標を従来よりも首尾よく達成しなければならないという点で意見が一致している。新設の合同協議会で、どれだけうまく目標を達成したかを評価することになった。

2000年4月に取り決められた協約を組合員が拒否した一つの理由は、賃上げ保証と教育成果の改善とを関連づけるという文言が方針書に明記されていたことだった。現在、この方針書は棚上げにされているが、使用者側は、地域交渉で何とかこの方針書について言及したがっているようである。

教員たちは、個々の従業員の賃上げ最低額を保証しない新協約を受け入れた結果、所得額について、リスクを負うことになる。工業部門では、それぞれの労働者に少なくとも賃上げの半分を保証し、残りの半分は技能・責任・生産性に基づいて工場レベルで分配するのが一般的である。また、財政的に逼迫している地方政府が少なくないため、教員の賃上げは教員数の削減、学級定員の増加、継続的な超過勤務につながりかねない。

公共部門のほとんどの労働組合の経験によれば、労働者が平均的に大幅な賃上げを獲得できたのは、使用者と個々の従業員とが個別交渉をした場合である。職場組合が関与しなければ、使用者には能力の高い従業員により多くの賃金を支払う用意がある。だが、一部従業員の賃金を引き上げれば、賃金が最も高い労働者と最も低い労働者との格差が広がることにもなる。教員不足が原因で若い教員の初任給が非常に高額になる傾向がある一方で、年輩の教員は経験や責任に見合った報酬を支払われていない。より長期的に見れば、この賃金政策は「移住して間もない移民など恵まれない人々の子どもを含めた、すべての生徒のために望ましい学校をつくる」といった教育目標の達成を妨げるおそれがある。

賃上げと労働時間短縮、そして1%の予想賃金ドリフトを含めてせいぜい3.5%しか賃金が上がらない産業労働者にとっては、年間5%という教員の賃上げ率は高すぎるように見えるかもしれない。しかし、民間産業の従業員を含む一般国民は子どもに望ましい学校教育を受けさせたいと強く希望しており、教員は自分たちの賃金が高いことを一般の人々に何とか理解してもらっている。小学校4年生から6年生、あるいは、中学校1年生から3年生を教える教員の平均的な月給は1万9000クローネで、高いことは高いが、シフト交替制で働く高技能鉄鋼労働者の月給に比べて、異常に高い水準とは言えない。製紙業で4シフト制で働く労働者は、月給2万5000クローネほどを得ているであろう。都市部における若い教員への需要は強く、ストックホルムでは、小学校4年生から6年生を教える若い教員は、月給2万3000クローネを得ることができ、中学校で科学を教えれば、より高い水準の給与を得ることができる。

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